第25話 ラブレターは突然に
翌日、例によって五人で登校したところ、魅美の下駄箱に謎の封筒が入っていた。
「えっ、何これ」と魅美がそれを取り上げると、ほぼ同タイミングでげた箱から似たような封筒を取り出す莉々嬢の姿があった。
「うぇ、莉々も!?」
「いえ、むしろ魅美が受け取っていることの方が驚きでしてよ」
魅美にはピンと来てないが、莉々嬢はこの手の手紙はこれまで結構な数を受け取っている。
「ひゃーっ! 魅美ちに莉々ちもやるじゃーん! それってつまりぃ、ラブレターってやつっしょ!? まーわかるわー、魅美ちも莉々ちも、モテそうな見た目してんもんねぇ。二人ともこういうの中学ん時からもらいまくってたっしょ?」
一人盛り上がる寧音をよそに、桃は他人事ながらアワアワと顔を赤くしている。
「いや……アタシは全然……こういうのは専ら莉々ばっかりだったかな……」
「ですわね。まぁ魅美がこの手の手紙をもらわないのは、本人の言動が理由だと思いましてよ」
「あーね……」
そう、駆に対して暴走機関車のように突っ走った言動をしていたので、魅美に下手に触ろうとするものが誰もいなかったのである。
「全く、どこの物好きかは存じ上げませんけれども、魅美の実態を知れば百年の恋も冷めるというものですのに……」
「ねえ莉々、それアタシの事馬鹿にしてるような気がするんですけれど……」
実際そうである。
「ンな事より魅美ち莉々ちぃー! 誰が送り付けてきたのか読んじゃおうぜー! そーれ、オープン! オープン!」
コールをし始める寧音に困惑しながらも、魅美は思い切って封筒を開封してみた。
中には、「うちの馬鹿がすみません by美術部一同」とデカデカと書かれた紙と、土下座する別目のステッカーが入っていた。
「ダwwww ボwwww ダwwww ボwwww パwwww イwwww セwwww ンwwww」
寧音は腹を抱えて笑い崩れた。
「またあの美術部は……反省しているんだかしてないんだか……」
魅美は苛立ちをぶつけるかのように封筒と手紙とステッカーをくしゃくしゃにし、近くのごみ箱に向かって投げた。
なお、見事外れて結局二度手間になるという何とも締まりの悪い結果になっている。
「まぁ、アタシの方はいいとして……莉々の方は多分本物のラブレターでしょ? 確認してみたら?」
「ですわね。まぁ、まだせいぜい二日しか学校に通ってない中でラブレターによる告白などという行為を試みる時点で、軟派で軽々な人物だというのが透けて見えますけれども……」
実に面倒くさい、といった具合に莉々嬢が封筒を開封する。
藤木莉々さんへ
初めてあなたを見た時から、あなたの事が好きになりました。
よろしければ今日の放課後、体育館の裏まで来てください。
「ボツ。0点ですわね」
話にならない、とでも言いたげに莉々嬢がラブレターで紙飛行機を作り、そのままそれーっとごみ箱へと飛ばす。
見事、莉々嬢のラブレター飛行機はごみ箱の中へと着陸した。
「ひっどwwwwww てか、手紙の送り主カワイソすぎじゃねwwwww」
再度笑い崩れる寧音に対して、莉々嬢はやれやれと両手を胸の位置で掲げる。
「こんな無礼な内容の手紙、いちいち相手にしてられませんわよ。アポを取るにしてもこちらの都合を確認すべきなのに一方的に時間と場所を指定して、おまけに自分の事は一切語らない。全くふざけていますわ。最低限自己紹介ぐらい添えてみてはいかがですの? そして、好きになったという理由もわたくしの見た目からくる一目惚れでしょう? つまり、見た目以外にわたくしの事をよく知らず、上辺だけで判断したという事ですわ。軟派で軽々としか言いようがありませんことよ。そんな浅はかな人物は、わたくしの伴侶としても藤木水運の経営者としても、失格としか言いようがありませんわ」
そう、ポンコツの魅美らとつるんでいるので忘れそうになるが、莉々嬢は本物の資産家令嬢であり、その莉々嬢と結婚をするという事は必然的に事業の経営者としての素質があるかどうかという目線も多分に入ってくる。
きっかけが一目惚れなのは別に構わないかもしれないが、それだけで突っ走って届くほどの高さに咲く花というわけではないのだ。
「うーわ、思ってた以上にバッサリ言うじゃん……。名も知らぬラブレターの送り主も、ここまでけちょんけちょんにされてるとは思ってないんじゃね?」
「あら、変に期待を持たせるよりも、スパッと切った方がお互いの為じゃありませんこと?」
「つ、強い……莉々ち、言ってることがあーしらの同年代の言うような言葉じゃないんよ……」
「まあ莉々はガチもんのお嬢様だから、アタシらとは人生経験が違うからねぇ……。手紙の主には悪いけれど、これもまあ勉強というか、『縁がなかった』という事で諦めてもらうしかないわねぇ……」
魅美も少しだけ名も知らぬ手紙の主に同情しつつもお祈りの構えを取る。
一方、その様子を終始顔を赤くして見守っていた桃が、ようやく現実に戻ってくる。
「あ、あの、莉々ちゃん……すごく手慣れた対応だったけれど、こういう事よくあったの……?」
「ええ。冗談めいたものから本気のようなものまで、今まで幾度も。小学五年生くらいから始まって毎年何通も送られてくるようになり、年々増加していきましたわね。中学三年の頃なんか、ついに100通の大台を突破しましたわ」
「はひっ、ひゃ、100通!? はわわわ、すごいね莉々ちゃん……」
驚いた表紙に桃の眼鏡がずれ、慌ててそれを桃が直す。
「すごくもなんともない……というと嫌味に聞こえるかもしれませんけれども、実際問題もらってもあまり嬉しいものではありませんことよ? わたくしも人の心がありますから、少なからずともお相手の方の気持ちを踏みにじっているという自覚がありますし、心苦しさが全くないわけでもありませんわ。まぁ、それ以上に『面倒くさい』という気持ちが強いのは否定しませんけれども……」
「莉々にとっちゃいつもの事だろ。それよかみんな、早くそこどいちゃくれねえかな。俺もさっさと上履きに履き替えたいんだが」
これまでのやり取りを「いつもの事」とスルーを決め込んでいた駆が、やり取りのあまりの長さにようやく口を出す。
「あぁごめんごめん、邪魔だったね。すっかり長話しちゃったわ」
魅美たちはようやく靴を履き替える。
「全く、待たされる側の気持ちにもなってく……ん?」
はらり、と落ちる白い一片の紙片。
瞬間、魅美に電流が走る。
「なんだこれ……手紙?」
駆の元にも、ラブレターが届いていたのであった。
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