第23話 不公平だわ!

 戦闘の余韻冷めやらぬ魅美たちであったが、GM桃は頃合いを見計らって進行を続ける。


「では、戦闘を終えてひと段落着いたところで、戦後処理を行っていきましょう。魔物を倒した場合、その魔物から得られるアイテムを決定する『戦利品判定』を行えます。今回はレッドキャップ三体分なので、皆さんの中から三名が判定を行ってください」


「それじゃ、アタシはパスするわ。カケルスの治療もあるし」


「悪いな、魅美。じゃあ俺たち三人で判定する。ちなみにGM、これにはボーナスがつかないのか?」


「この判定は基本的に2D6での判定ですね。ボーナスが得られる場合もあるのですが、特殊な特技や装備品などが必要になります」


「そうか、じゃあ早速判定だ。それ!」


 駆たちによって振られたダイスは、それぞれ3、7、7となった。


「この出目だと、『粗末な武器』が二つですね。一つ30Gですので、合計60Gゲットです」


「初めての冒険ですし、こんなものかしら? 実にささやかな収入といった感じですわね」


「あっはは、リリィは実家が裕福だから、余計そう思ってそうじゃね?」


「ふふっ、かもしれませんわね」


「じゃあ、戦利品も手に入れたことだし、最後にカケルスの傷を治療するわね。『カケルス、お疲れ様。さあ、私が傷を治してあげるわ』」


 三人が判定をし終えたのを見計らい、魅美が治療を切り出す。


「えーっと、回復魔法はこれね、『キュアウーンズ』。これも威力が決まってて、攻撃魔法みたいに行使判定をしてから回復量を決めるのね。じゃ、まずは行使判定から」


 判定では出目4、達成値9で成功した。


「問題なく成功ですね。魅美さん、ここで一つ注意なのですが、回復魔法は原則クリティカルが発生しません。回復量の算出の際は、たとえ6ゾロが出たとしても振り足しを行わないので、お気を付け下さい」


「わかったわ。『キュアウーンズ』の威力は10ね。それじゃ、回復量は、っと」


 何気なしに振った回復量決定の出目は……




[1,1]




「「「あっ」」」


 思わずその場の全員が声を上げる。


 ピンゾロは、威力表で数値を算出する際であっても「自動失敗」……つまり、不発である。


 魅美は凍り付き、海山先輩も含めた他の面子は多少堪えはしたものの、次々と噴き出した。


「流石だ魅美……! お前、最後の最後でピンゾロとか、『持ってる』わ……!」


「やっばwwwww マジウケるwwwwww でもさ、戦闘中じゃなくてよかったじゃんwwwww」


「魅美は月の女神よりも笑いの神に愛されてますわね」


「ふっふふっ……! ごめんなさい、笑っちゃいけないのはわかっているんですけれども、オチとしては秀逸すぎて……!」


「これは期待の新人が入部してくれそうだ!」


「……『どうしてぇ……?』」




 一通り笑い合い、放心した魅美の肉体に魂を入れ直した後、ようやくエピローグとなる。


「えー、では気を取り直しまして……。見事魔物を倒したあなたたちに対して、村人たちはお礼を言います。『冒険者の皆様、誠にありがとうございます。これで村の者たちも安心して暮らすことができます。こちらは今回の依頼の成功報酬となっております、どうぞ受け取ってください』。そう言って報酬の1000Gが入った銀貨袋を差し出します」


「『ありがたく受け取らせてもらおう。また何かトラブルがあればよろしく頼む』と言って報酬を受け取ろう」


「『うぇーい、金だ金だー! 今日はこの報酬でアゲアゲなパーティしよー!』」


「『ほら、いい加減しっかりなさい。いつまでそうやって呆けていらっしゃるつもりですの?』」


「『不発……回復魔法不発……アタシの役割……』」


 魅美だけRPなのか本人の言葉なのか、非常に分かりにくい。


「『あの、お連れ様は大丈夫なのですか……?』」


 GM桃は一応RPとして受け取ったようだ。


 村人のRPを行いつつ、気遣いの心を見せる。


「『大丈夫だ、飯でも食わせれば治る』」


「『もぉーっ! またアタシをお馬鹿な食いしん坊キャラ扱いする!』」


「『実際そうじゃん』」

「『まさか自覚がなかったんですの?』」

「『もう鉄板じゃんwwwwwww』」


「『きいぃーーーーーーーっ! アンタたち、そこに直りなさい! 今から月の女神さまの鉄槌を食らわせてやるわーっ!』」


「あ、あはは……では、そんな感じでにぎやかに村を後にしたというところで、今回のお試しセッション『蛮族退治の冒険』を終了します。皆さん、お疲れ様でした!」




「「「「お疲れ様でしたー」」」」




 色々と波乱に満ちた(主に魅美が一人で荒ぶっていただけだが)セッションではあったが、ひとまず無事成功という体で完結した。


 焦ったり凹んだり笑ったり、色々と感情が揺れ動いた耳であったが、終わってみれば――。


「あー、面白かった!」


「おっ、それは嬉しい言葉だな、木崎君!」


 海山先輩が魅美の肩にポンと手を置き、隣に陣取る。


「TRPGにおいて何を『成功』と呼ぶのは人それぞれかもしれないが、多くの場合は『皆が楽しむことができたこと』、それが達成できれば成功と称していいと私は思う。GMを務めた渡辺君、それにPLとして参加した青原君、藤木君、須藤君、そして木崎君、その全員が楽しむことができたというのなら、今回のお試しセッションは大成功と言っていいだろう。私はその事実がたまらなく嬉しい!」


 にこやかに語る海山先輩の表情は、その言葉に一片の嘘偽りがないことを物語っていた。


「そうですね、私もGMとしてとても楽しめました。皆さん生き生きしていましたし」


「俺も面白かった。やっぱりずっとやりたいって思ってたからな。またやってみたい」


「あーしもあーしも! 今度やるときはもっと活躍して、派手に大ダメージとか出してみたいかな!」


「まぁ、一番面白かったのは魅美のピンゾロでしたけれども……」


「うっ」


 魅美はぐさりと刺さる言葉を胸で受け止め、手で押さえる。


「ははは、なぁーに、今回はたまたま木崎君のピンゾロが目立っただけで、今後セッションを続けていれば誰もが通る道となる。気にしない気にしない。それに、むしろこの手のアクシデントを楽しむくらいの気持ちでないとな。ダイスの出目でリアルの私たちが負うのは精々恥くらいなもの、命が取られるわけじゃないのだからいくらでも失敗すればいい」




 海山先輩は立ち上がり、改めて魅美たちを見回す。


「さて、お試し形式の短いものではあったが、君たちは確かにセッションを体験した。それで、どうかな? TRPG部に入ってみたくなったかな?」


「は、はい! 私は入部したいです!」


 元々そのつもりだった桃は真っ先に声を上げた。


「まるで誘導尋問みたいっすけど、俺も入りたいかな。セッション面白かったし」


 駆も続くようにして入部の意思を示す。


「あーしも! まぁぶっちゃけ駆君目当てな部分はあるけど、それ抜きにしても遊んでて楽しかったし!」


 寧音が包み隠さず暴露した。


「……だそうですけど、魅美?」


 莉々嬢が魅美に答えを促す。


「入るわよ、アタシも。だって……このままじゃアタシだけピンゾロして終わりじゃない! アンタたちの大失敗も見せなさいよ! そうしないと不公平だわ!」


「ふふっ、決まりですわね。この五人で入部決定ですわ」




 かくして、仮入部員たちはTRPG部への入部を決めるのだった。

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