第21話 もしかしてアタシ、役立たずなのでは?
桃の宣言によって、お待ちかねの戦闘が開始される。
「戦闘の際には、まず戦う敵がどんな敵なのかを知っているかを判定する『魔物知識判定』を行います。セージの技能を持っている人は、技能のレベルと知力ボーナスを判定の出目に加算することができます。持ってない人は平目、つまりボーナスなしの2D6のみで判定となります。目標値は7です、では皆さんどうぞ!」
(ミミはセージの技能をLv1持ってるから、知力ボーナスを加算して……+4での判定ね。ふふん、出目でいえば3以上が出れば成功じゃない! ここは余裕で成功して、駆にかっこいいところを見せてやるんだから!)
魅美はサイコロに己が運命を委ね、ころりと振る。
その出目は……お見事!
[1,1]
「ピ、ピンゾローーーーーー!?」
記念すべき『ソードラ』最初の判定は、赤い目が二つ並ぶ波乱の幕開けとなった。
「大丈夫、魅美ちゃん、気にしない気にしない! むしろこのタイミングのピンゾロは美味しいまでありますから!」
「誰の出目が芸人よ! 桃ちゃんひどいわ!」
非難の声を上げぶー垂れる魅美だったが、桃は「まあまあ」とそれをなだめる。
「大丈夫ですよ、魅美ちゃん。今回は自分以外にも判定の参加者がいますし、自分が失敗しても他でカバーしてもらうこともできます。それに、ピンゾロは『自動失敗』といって達成値に関係なく判定に失敗するのですが、その際に経験点を50点もらえるんです。つまり、それだけPCが早く成長できるというわけです!」
「そ、そういうモン……?」
魅美には上手く丸め込まれているようにしか聞こえなかったが、ひとまず矛を下げた。
「それでは気を取り直して……他の皆さんも判定をどうぞ!」
カケルスとネネチは平目で、それぞれ5と6という結果だった。
「期待値とはいえ、案外出ないもんだな……やっぱりボーナスがないと厳しいな」
「惜しーい! あーしあと1で成功だったのにぃ! 莉々ち! 莉々ちのキャラはセージあるから絶対成功させて! 超ガンバ!」
「わ、わかってますわ。とはいえ、わたくしの判定の成否にすべてがかかっているかと思うと、プレッシャーを感じますわね……ええいままよ!」
勢いよく転がしたサイコロの出目は……6。
「リリィはセージをLv1持っていて、知力ボーナスが3、つまり出目に4足されて達成値は10! 余裕の成功ですわね!」
莉々嬢の判定の成功に一安心し、駆と寧音から「おぉー」という声が上がる。
「いいですね! では、判定に成功したのでデータを開示します。ルールブックの439ページ、レッドキャップが3体です」
(うぅ、いいなぁ莉々は……アタシも成功して、駆にいい所見せたかったなぁ……)
「データ開示が済んだところで、今度は先制判定です。『ソードラ』の戦闘では敵陣営とPC陣営が先攻・後攻に分かれて行動します。レッドキャップの先制値である10を上回ることができれば、PCたちが先攻で行動できます。スカウト技能を持っている人は、その技能レベルと敏捷ボーナスを加算して判定ができます。それではどうぞ!」
(今度はボーナスがない判定だわ……! で、でも2D6で出ないわけでもない数値! 大丈夫、イケる……!)
すがるような思いで魅美がダイスを振る。
しかし、ダイスの女神はここでも魅美に微笑まず、出目は4という結果に終わった。
「うぅ……アタシ、さっきから失敗ばっか……」
「大丈夫ですよ魅美ちゃん! まだ二回だけしかやってませんし、今回はボーナスなしでの判定でしたし」
「そうですわよ、わたくしも今回はボーナスなしですし……あ」
何気なく振った莉々嬢の出目は10だった。
魅美から色素が抜け真っ白になる。
「いいですね、リリィさんが成功です。既に成功が出ましたが、他のお二方も判定を行ってください。ピンゾロが出る可能性もありますので!」
しかし、そうそう簡単にピンゾロが出るわけもなく、ネネチはボーナス込みで14を出し余裕で成功、カケルスはボーナスを足しても8と出目に嫌われ普通に失敗した。
(ヤバい……アタシ、何にも成功してない……えっ、もしかしてアタシ……役立たずなのでは……?)
じとり、と嫌な汗が魅美の額に滲み出、ギリッと奥歯を噛み締める。
初めての『ソードラ』で華々しく活躍するつもりだったが、早々に気持ちが萎んでいくのを感じる。
(アタシ……駆と一緒の部活がしたいっていうだけで、TRPGがしたいわけじゃなかったからな……向いてなかったのかも、この部活……)
「では、PC陣営が先攻です。『ソードラ』の戦闘ルールは簡易なものと複雑なものとがあるのですが、今回は簡易なルールで進行させていただきます。簡易戦闘では、戦闘エリアが前衛エリアと、敵後衛エリア、味方後衛エリアの三つのエリアに分けられています。今回、エネミーは三体とも前衛エリアに固まっています。皆さんはPCを前衛エリアか、味方後衛エリアのいずれかに自由に配置することができます。配置が決まりましたら、いよいよ戦闘ラウンドになりますよ!」
と、ここでセッションを静観していた海山先輩が皆にアドバイスをかける。
「皆、ちょっといいかな。今回はとりあえず全員味方後衛エリアからのスタートでいいだろう。ミミの支援魔法『シールドフィールド』は、同一エリアのキャラクターに影響を及ぼす魔法だ。エリアが分断されていると、支援魔法によるバフをもらえなくなってしまうというわけだ。エリアの移動は自分の手番になれば行えるから、支援を受け取った後からでも十分間に合うぞ」
と言って、塞ぎ込んでいた魅美にウインクを飛ばし、笑いかける。
(あっ、そっか……これこそアタシの役目ってことね。……しっかりしなきゃ。アタシがパーティを支えないと!)
魅美の停滞気味だったその意欲に、自らの使命という名の炎が灯る。
「みんな! そういうことだから……全員後衛エリアでスタートしましょ! アタシの周りに集まって、陣形を組むわよ!」
ポンコツサキュバス神官の、本当の意味での戦いがようやく始まった。
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