第19話 冒険前の自己紹介

「その……魅美ちゃん、大丈夫……?」


 キャラシを前に白い粉末と化している魅美を気遣い、GMの桃が声をかける。


 魅美は小さく「うん」と頷くと、再び己のキャラシに目を落とす。


 他の三人も多少変な結果の設定が決まったものの、魅美と比べれば幾分かマシな内容だった。


 だが、魅美は見事事故を起こしていた。


(『大惨事表』……全くその通りだわ……!)


「桃、魅美のお馬鹿ならこうすれば元に戻るから、気にせず進行させてくださってかまいませんことよ」


 そう言いながら莉々嬢が粉末状の魅美をこねて形を整える。


「うあ、あう、むぎゅ、げぶ」


 色々変な声が漏れたが、程なくして魅美はそれで本当に元通りになった。


 ……謎の技術である。


「えっと……それでは、ソード&ドラゴンズ2.5のセッション、『蛮族退治の冒険』をやっていきたいと思います。GMは私、渡辺桃が務めさせていただきます。よろしくお願いします!」


「よろしくお願いしまーす」

「よろしくお願いしますわ」

「よろしく」

「うぇーい、よろー!」


「では、まず初めに皆さんに自己紹介を行っていただきます。ここでいう自己紹介は、皆さんの分身であるPCについての内容ですね。軽くでいいので設定の説明をしていただき、キャラ性能についてもお話してもらいます。ひとまず、2D6を振って出目が小さかった方から順番に発表をお願いします」


 各々がダイスを振った結果、駆(4)、寧音(5)、莉々嬢(7)、魅美(12)という順番になった。


(何でこんなところで36分の1を出すかなぁー!? おかげでアタシ、紹介のオオトリじゃん……!)


 よりにもよって、と頭を抱える魅美を尻目に、「俺がトップバッターだな」と駆が自己紹介を始める。




「オーガの戦士、カケルスだ。設定としては、田舎育ちで、魔物に襲われた経験があり、まだ恋を知らないって感じだな。多分故郷を魔物に襲われてしまい、恋にうつつを抜かす暇がなかったんだろう。冒険に出たきっかけもきっとその魔物被害が理由だろうな」


「おぉー、なんか王道っぽい設定……」


 カケルスの紹介に、魅美が感心の声を上げる。


「ダイスがそこそこ空気を読んだんだよ。んで、キャラ性能か。ファイターの技能持ちだから前衛でガンガン戦うって感じのキャラだ。防具もしっかり固めてるから結構タフだな。アタッカーとして果敢に攻めていくつもりだ、よろしく」


 ぱちぱちぱち、と拍手をもってしてカケルスの紹介が終わる。


「いいですね、とてもいい自己紹介でした。皆さんもこんな感じで自己紹介をお願いします。では続いて、寧音ちゃんのキャラ紹介です、お願いします」




「うぇーい、じゃああーしの番ね。フェアリーの斥候、ネネチでーす、うぇいうぇーい! 設定はー、負けず嫌いでぇ、役に立たない特技を持っててぇ、投獄経験あり! マジやばくね? 酒の席とかで特技の自慢してたら馬鹿にされて、それで喧嘩して捕まっちゃったー的な感じで!」


「な、なんだか容易に想像できますわね……」


 莉々嬢の脳内には、ネネチが奇妙な踊りを踊って馬鹿にされている様子がありありと浮かび上がっていた。


「んでんでー、性能? なんかフェンサーっていう技能とスカウトっていう技能を持ってるっぽいんよねー。あんまり重いものを力いっぱい振り回すのはできないけど、その分素早さやテクニックでカバーする感じ? あと斥候らしく探索とか鍵開けみたいなことは得意だから色々頼ってくれていいかんね! よろー!」


 再びぱちぱちと拍手が巻き起こり、ぶいっ、と寧音がピースをしてネネチの紹介も終了する。


「ありがとうございます。探索に関する技能は非戦闘時において重要なので、きっとネネチさんはパーティで役に立てますよ!」


「おーマジで? やりぃ! みんなぁ、あーしの活躍に期待してねー!」


 寧音はまだ活躍したわけでもないのに、少し……大分……控えめな胸を張る。


「はい! では、この調子で莉々ちゃんのキャラの自己紹介もお願いします!」




「エルフの魔法使い、リリィですわ。裕福な家の生まれで、大きな挫折の経験があり、本から大きな影響を受けた、という設定ですわね。大方富裕層の趣味として集められた本で魔法使いに憧れを持ち、実際にその道を目指す際に何度も失敗しては挫折した、といったところでしょう。それでも最終的に魔法使いになれたあたり、わたくしのように努力家なところがあるのかもしれませんわね」


「いいじゃんいいじゃーん、超真面目ちゃんじゃん! お堅い魔法使いって感じ!」


 寧音が囃し立てるが、莉々嬢は華麗にスルーする。


「さて、ソード&ドラゴンズには色んな魔法の系統があるのですけれども、わたくしのキャラはその中でも比較的オーソドックスな系統である『ソーサラー』と呼ばれる魔法使いですわ。攻撃魔法や探索に役立つ魔法を使えるみたいですわね。あと、知力も高いですから頭脳労働も任せてもらいたいですわね。こんなところかしら?」


「はい、ありがとうございます! リリィさんのキャラは知恵者であることを示す『セージ』の技能も持っているので、いろんな知識を必要とするときに役立てると思いますよ! では最後に、魅美ちゃん、お願いします!」




 ……しかし、魅美はキャラシを手に持ち、それをしばし見つめて。


「……やっぱりやらないと駄目?」


「お前、ここにきてそれはないだろ……」


 駆が呆れた様子で魅美の自己紹介を促す。


「……絶対笑わない?」


「それは保証しかねる」


 即答である。


「ひどっ! そこは嘘でもいいから『笑わない』って言ってよ! バファリンの半分くらいの優しさは見せなさいよ!」


「どうでもいい夫婦漫才めおとまんざいやってないでさっさと紹介してくださる?」


「アッハイ……」


 莉々嬢の容赦ない一言にたじたじとなった魅美は、やむなくPC紹介をし始めた。




「えー、サキュバスの神官、ミミです。設定は……大好きな食べ物があって……毒を食べたことがあって……臨死体験をしたことが……あり……ます……」


 ちーん、という音が聞こえたような気がし、一呼吸置いてから。


「ねえこれ絶対食いしん坊キャラじゃん! ねえこれ拾い食い!? アタシいくら何でもそんなばっちぃものまで食べたりしないわよ!? しかもそれで死にかけてるって、完全にギャグじゃん! もうやだぁ、超恥ずかしい!」


「いや、まんまお前じゃん」

「完全に一致ですわ」

「だひゃひゃひゃ、この二人が言うならガチじゃんwwwwww」


「少しは否定しなさいよ! と、ともかく! そんなアタシだけど、パーティの要、生命線を握ってるのは間違いなくアタシ! 回復魔法や支援魔法に秀でた、プリーストの技能を持ってるわ! あと、『ソードラ』の世界には色んな神様がいるらしいけど、月の女神であるシルス様を信仰してるの。アタシみたいに慈愛に満ちた優しい神様らしいわ! まさにアタシにピッタリね!」


「いや、お前全然違うじゃん」

「180度違いますわね」

「やっぱこの二人が言うならマジじゃんwwwwwwww」


「駆ーっ! 莉々ぃー!!!!!!」


「あ、あはは……ともかく、ミミさんの使う魔法がパーティの運命を握っているのは間違いないので、ぜひ頑張ってくださいね!」


「うぅ、優しいのは桃ちゃんだけだよ……」


 およよ、と魅美は桃に抱き着いた。


 なお莉々は嫉妬心に燃え歯ぎしりした。


「そ、それでは、皆さんのPC紹介も済んだことですし……これから、ソード&ドラゴンズの世界へとご招待します! よろしくお願いしますね!」


 目指すヒロイン像とは正反対の食いしん坊キャラのミミを操り、魅美たちはソードラの世界へと降り立つのであった。

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