第17話 仮入部員初めてのソードラ
「時に、我が部の会報『サイコロダイアリー』はいかがだったかな?」
魅美が落ち着いたころ合いを見計らい、海山先輩が話を切り出す。
本当はずっとこの話をしたかったのだろう、その顔に期待感がありありと浮かんでいる。
「あっ、はい! 私はお借りした会報のうち、三部まで読ませていただきました!」
桃の報告を皮切りに、他の四人もぞろぞろと続くようにして各々の読書状況を報告する。
「そうか、少々ばらつきはあるが多少なりとも目を通してもらえたようで何よりだ。しかし、そうだな……」
海山先輩はしばし軽く顎に手を当て、考え込むような仕草を見せる。
「少し気が早い気もするが……やはりTRPGの面白さは、実際に遊んでみて経験するのが一番わかりやすいだろうし、せっかくだから簡易的なセッションを行ってみるか!」
おぉっ、と期待感に満ちた声が桃・寧音・駆から飛び出す。
「マジっすか。ずっと憧れだったんすよね。システムは何ですか?」
「うぇーい、ゲームだゲームー! あーしバチクソ活躍しちゃうぜー!」
「わ、私! 何だったらGMできますよ! 大体のメジャーなシステムは、やったこと、ありますので!」
「まあまあ落ち着きたまえ。他の二人がついていけてないじゃないか」
海山先輩の言うとおり、魅美と莉々嬢は他三人のテンションの高さにいまいち乗り切れてない様子だった。
「……やらないのか? 魅美と莉々は」
そう尋ねる駆は、意外なほどに寂しそうな表情だった。
長年駆と連れ添ってきた魅美に言わせれば、このような表情を見せる駆は激レア中のレア……愛おし過ぎてナンボでも食べられる上に癌に効くレベルの表情だ。
「やっ、やぁねえ駆! やらないだなんて、一言も言ってないじゃないのよ! や、やるわよ、アタシも、TRPGってやつを!」
ばふんばふんと鼻息荒く顔を赤らめ、魅美が大慌てで参加表明をする。
「まぁそうなると思ってましてよ。あ、勿論わたくしも参加しますわよ。皆さん程テンションが高いわけではありませんけれども、面白そうですし興味ありますわ」
魅美の様子がおかしくてたまらない、という具合にくすくす笑いながら、莉々嬢も魅美に続く。
「うむ、それでは決まりだな! 今回は体験会ということもあるから、比較的簡単なシステムでプレイしてみようと思う。プレイするのはこちら――」
そう言いながら、海山先輩が本棚から一冊の文庫本サイズの本を取り出す。
「ソード&ドラゴンズ2.5、だ!」
昔々のそのまた昔。
世界にはまだ知性を持たぬ獣しかいなかった。
そんな世界に、一筋の流れ星が降り注ぐ。
流れ星が落ちた先には、一振りの剣があった。
獣がその剣を手に取ると、剣はその獣に祝福を与え、知性を授けた。
始まりの巨竜、ルルクスの誕生である。
ルルクスは剣の力を他の獣たちにも分け与え、自らと同じように思考し、会話し、共に生きる仲間を次々と生み出した。
しかしルルクスの仲間のうちの一人、戦の巨竜フレンバーサはルルクスたちを拒絶した。
フレンバーサは力を求めた。
圧倒的な力で他をねじ伏せ支配する力を。
フレンバーサはルルクスの剣に代わる、自分だけの剣を探し求めた。
その願いが届いたのか、再び星が流れ落ち、フレンバーサは第二の剣を手にした。
フレンバーサは剣の力を使い、共に戦う
そして、フレンバーサはルルクスらに戦いを挑んだ。
巨竜らの戦いは長く続いた。
ルルクスの友も、フレンバーサの僕も、数多く死んだ。
それでも戦いは終わらず、遂には世界には巨竜らしかいなくなった。
そして、巨竜らは剣を手にぶつかり合った。
巨竜らの戦いは果てしなく続いた。
いつ終わるかわからぬ戦いだったが、やがて両者の剣が耐え切れずに砕け散った。
砕け散った剣の欠片たちは世界に再び命を与え、巨竜らは力を失い眠りについた。
しかし巨竜らの戦いの後も、剣の欠片によって生まれた者たちは、互いの剣の持ち主と同じ生き方を志すようになる。
すなわち、共生と、戦いと……。
「ソード&ドラゴンズ2.5」、それは終わらぬ戦いの物語。
「……というのが、ソード&ドラゴンズというシステムの導入だ。このシステムはいわゆる『剣と魔法のファンタジー』というやつで、ルルクスの剣の陣営である『第一の剣の種族』と、フレンバーサの剣の陣営である『第二の剣の種族』が争い合っている。そして
海山先輩がルールブックを読み終えた後、簡単な解説の言葉で締めくくる。
「へぇー、剣とドラゴンですか。いかにもファンタジーって感じですねぇ。面白そう」
「会報のリプレイや解説にも結構登場していた作品でしたわね。有名なんですの?」
「ああ、国内じゃ結構メジャーなシステムらしい。俺がTRPGを知るきっかけになったのも、この『ソードラ』だった」
駆の補足に、魅美と莉々嬢がへぇーと感心する。
「つまりぃ、要は悪いドラゴンのチームをボコせばいいんね!」
しゅっしゅっ、と寧音がシャドーボクシングを行う。
「ま、まぁ大体合ってますね……。しかし、『ソードラ』ですか。手堅いところを選びましたね、海山部長」
某炭酸抜きコーラのおじさんの様に眼鏡をくいっと上げ、桃が海山先輩を見据える。
「『ソードラ』は日本人好みの王道ファンタジーで世界観がイメージがしやすいですし、判定に用いるダイスも
興奮気味に桃が一気にまくしたてる。
どうやら彼女のスイッチがONになったようだ。
「おー出た出た、あーしそれずっと気になってたやつだ! 何なん、その2D6とかっていうの」
寧音から模範的な質問が飛び出すと、早速桃が我が意を得たりという表情になる。
「2D6というのは、『6面ダイスを2個使って判定する』という意味です。前の『2』が判定に使用するダイスの数、後ろの『6』がダイスの目の数です。『ソードラ』は基本的にこの6面ダイス2個の『2D6』での判定が基本ですが、他のシステムとかだと1D100で判定したり、D10で判定ダイスをたくさん振ったり、っていうのもあるんですよ」
「なーほーね? 『ソードラ』はダイスの振り方が2D6だけだから簡単ってわけね? てかあーし、サイコロって1から6までのやつしか知らなかったわ。……んで、なんでサイコロ振んの? 判定とかって言ってたけど」
「そうですね……例えば、寧音ちさんと私がかけっこをするとします。この結果は、走ってみないとはっきりしませんよね? こういう『やってみないと結果がわからないこと』に対して、成功したかどうかをダイスの出目で決めることを、判定って言うんです。勿論、ただダイスを振っただけだとお互いの能力の有利不利が反映されないので、能力や装備などの条件によってボーナスやペナルティが発生したりするんですよ」
「ふーん、オッケー、大体わかった! 魅美ちと莉々ち、駆君も大体オッケー?」
「うんまあ」
「ええ」
「いいぞ」
「よっしゃ! そんじゃみんなで『ソードラ』やんべー! うぇーい!」
かくして、仮入部員たちの初セッションが始まることとなった。
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