第12話 意外と賢く有能な寧音ち

「はっはっはっ……いや、今回の美術部も面白かった。君たち、驚いたかね?」


 いつの間にか魅美たちの傍に海山先輩が肩を並べていた。


「海山先輩! あの、もしかして、会報のリプレイに載ってたゲストの美術部って……」


 信じたくないものを確かめるようにして桃が海山先輩に尋ねるが、答えは無情にも……。


「あぁ、その通り。美術部部長の別目、それから副部長の羽津と二年生の白須賀だな。我々TRPG部だけでなく、他の部活にもいろいろ顔を出しては皆を楽しませてくれる、愉快な連中だよ。……まぁ、何かとお騒がせであることは否定しないが」


「よ、よくあんなので退学になったり美術部が廃部になったりしませんね……」


「まぁな。あんな感じだが個々の実力は非常に高くてな……何気に我が校初となる高校生国際美術展で入賞するなど、しっかりした実績がある部なのだよ。あんな感じなのだが……ホント、あんな感じじゃなきゃ……」


 あんな感じ、というたびに海山先輩に諦めにも似たやるせない苦笑が浮かぶ。


 きっと入学当初から別目ら美術部の破天荒な行動を見てきたのだろう。


 しかし、別目たちはなぜあのような派手なパフォーマンスをするようになったのだろうか。


 そんな当然の疑問を抱いた魅美たちを察してか、海山先輩が聞かれる前に語り出す。


「あいつらも……というか、主に別目だな。最初からあんな感じではなかったんだ。我々がまだ一年生だった頃の話なんだがな。とある美大から教育実習生の方が来て、別目のクラスの担当になったんだ。この教育実習生の方も曲者で、両耳にパンクな感じのピアスをバチバチにたくさんつけたケンタウロスでな……」


 だが、空気を読まない予鈴がこのタイミングで鳴り響く。


「おっと、残念だが続きはまた後でだな。放課後にTRPG部の部室で会おう。昨日貸した会報の感想も聞いてみたいしな」


 完全にお預けを食らってしまった魅美たちはなんともすっきりしないまま、二組の教室へと向かった。




 二組の教室内の話題は、やはり痛烈なパフォーマンスを行い散っていった美術部の事でもちきりだった。


 皆口々に「あの美術部の竜人……」とか、「ダボダボの先輩……」とか、「ペットボトルロケット……」などと話している。


 また、教室の掲示物にいつの間にか先の美術部が配っていた部員募集のチラシが張られていたのだが、こともあろうに他の掲示物を無視してそれらの上から張られているあたり、やりたい放題である。


 おそらく、別目たち三人組が校門前でパフォーマンスをして生徒たちの注目を集めている隙に、他の美術部員が教室内に忍び込んで張り付けていったのだろう。


 やったことの是非はさておき、美術部の認知度は彼らの目論見通りに上昇したのは間違いないだろう。


 ……問題は、先のパフォーマンスや、乱雑なチラシの貼り方を見て「入部したい」と思う生徒がいるかどうか、であるが。




「あれはないわ」


 真っ先にばっさり切り捨てたのは魅美である。


「うんまぁそりゃそうだな」


「無茶苦茶すぎましてよ」


「見てる分には面白いけどねー」


「わ、私はTRPG部に入りたいし……」


 他の四人も立て続けにばっさばっさと太刀を振るう。


「……でも会報読む限り、たまに美術部がTRPG部に遊びに来るのよね? 桃ちゃん、大丈夫? やっていけそう?」


 魅美が心配そうに桃に問いかけるが、それを莉々嬢が遮る。


「いえ、きっとこれは桃だけの問題じゃありません事よ……? ほら、海山先輩が仰ってたではありませんか。『他の部活に顔を出してる』と……。きっとどの部活に入っていたとしても、あのダボダボ竜人からは逃れられないのですわ……!」


「もはや一種の災害じゃねえか……」


 駆が顔を覆いながら呻く。


 他の面々も一様に暗い顔で唸るが、意外なところから名案が出る。


「だったらさー、休み時間とかにあのダボダボパイセンらのことを聞きまくるってのはどう? 事前にダボダボパイセンらのこと知ってたら、少しは傾向と対策打って、適切な距離感保てそうじゃん?」


「寧音、アンタ意外と賢いこと言うわね」


「なっ、それチョー失礼じゃね!? あーしだってこの難関の一月市受かってるインテリだし!?」


 とはいえ寧音の見た目や言動は、どこからどう見ても頭の軽そうなギャルである。


「まぁ、あのダボダボ先輩もあんなのだけどうちの高校受かってるんだよな……」


「そう考えると、うちの学校ってちょっと特殊だったりするのかな……?」


 一般的な難関進学校のイメージとはかけ離れた自由過ぎる風紀に、駆と桃は疑問を呈さずにはいられなかった。




 寧音はさっそく次の休み時間から動き始めた。


 二・三年生のクラスのフロアに足を運び、直接美術部の悪行、もとい活動について聞きまくったのである。


 昼休みに入るころには、その日の昼食のネタには困らない程度には美術部の話が集まっていた。


 この辺りは流石、コミュニティ強者の寧音といったところだろう。


 なお、三年のフロアをうろちょろしてたら、一度「おうお前美術部入らねぇか!」と別目に絡まれたらしい。


 どこぞの妖怪首置いてけばりの勧誘である。




「……ってことで、あーしの地道でコツコツな努力の結晶である聞き込み調査結果報告ターイム! うぇーい!」


「いや、行動力!」

「マジか……」

「この短時間でですの……!?」

「ひぇ~……」


 思わずツッコミを入れたくなるほどには迅速な情報収集能力に、魅美他三名も驚きを隠せない。


 とはいうもののその話に魅力があるのは確かなので、各々が弁当を――駆と魅美はクソデカドカベン、莉々嬢と桃は思春期女子相応のこじんまりとした弁当箱、寧音はコンビニのたまごサンドとフレンチトーストだった。魅美は寧音から「弁当箱デカくね?」とツッコミを受けた――寧音の机を中心としてくっつけた五人分の机に並べながら、寧音の調査結果を聞く姿勢に入る。


 かくして、寧音の調査結果による美術部(主に別目)の伝説が語られることになったのだが、それらはいずれもぶっ飛んだものばかりであった。

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