第11話 強襲! 美術部のダボダボ先輩
「えー、一月市高校に入学された新入生のみなさーん! おはようございまーす! 我々美術部はぁー、ともに青春の輝かしい一ページを彩ってくれる新入部員を募集していまーす!」
メガホンで拡声された音声だけを聞けば、別段気にする必要もないただの部活動募集の文句である。
……しかし、それを叫んでいるのは、髪の毛の根本だけが黒いいわゆるプリン頭状態の金髪のウルフカットに始まり、制服を全体的にダボっと着崩し、頭の悪いチンピラがつけるようなアクセサリーをじゃらじゃらと首や腰回りにつけた、どこからどう見てもコテコテのテンプレ通りの男子不良学生である。
しかもこの不良学生、身長が桃に匹敵するであろう2mを軽く超え、頭に角、眼に切れ長のアーモンドのような瞳を宿し、首元から所々緑色の鱗がその姿を覗かせている。
そしてその背中には駆のような有翼人種にも負けじと劣らない立派なサイズの皮翼が生え、腰のあたりからは太く立派な長い尻尾が伸びていた。
日本というガラパゴス気味の地でもそこそこ珍しい種族、
そしてその周囲には、同じく耳にバチバチのイヤリングをいくつも付けた上にグレーのつんつんヘアーをさせたワーウルフ、角部分が飛び出るように改造された野球帽を被ったいかついサングラスをかけたバフォメットが、勧誘のチラシを誰かれ構わずに、半ば押し付けるようにして配っている。
しかしそれよりも気を引くのは、ダボダボ制服の竜人の傍にある、何やら幕をかぶせられた不審物だろう。
雰囲気からして、どうせろくでもないものが中に隠されているのは想像に難くないが……。
「……なにあれ」
「美術部……美術部?」
「不良じゃん……似合わねー……」
「うちの学校偏差値高いのに、ああいうのいるんだ……」
なかなかに冷ややかな感想と視線を浴びせられているが、美術部を自称する不良グループはどこ吹く風で勧誘活動を続けている。
だが、そんな彼らの事を面白がって見ている生徒も多く、校門前はちょっとした人だかりができていた。
中には「いいぞー美術部ー!」だとか「面白いことやってくれー!」と囃し立てるヤジまで聞こえる。
そんな声を受けてか、ダボダボの竜人が傍らに鎮座した幕を被った不審物に手をかけ、「皆様お待たせしましたァ!」などと調子付く。
校門前でその一部始終を見せつけられることになった魅美たち五人は、呆気に取られることしかできなかった。
「なん……何なのこれ……美術部……? 一体何が始まろうとしてるの……?」
助けを求めるようにして駆の方を見る魅美であったが、当の駆も「さっぱりわからん……!」という実に至極真っ当な返答を送ることしかできなかった。
だが、意外にも何か一定の理解を得たような、「あー……」という呻き声をあげたのは、莉々嬢と桃の二人だった。
「え、莉々、桃、二人は何かわかるの?」
「えっとまぁ……多分なんですけれど……この人たち、度々TRPG部の会報にもそれっぽい方々が参加しているみたいで……」
「わたくしの読んだ会報にも、リプレイ作品の方で『美術部からのゲスト』みたいな記述がありましてよ……」
魅美たちは嫌な予感を感じずにはいられなかった。
そんな心配を他所に、ダボダボ竜人はテンションMAXでメガホンを取り続ける。
「えー、それではこれより! 美術部による新入部員勧誘のための芸術ショーをお見せいたしまァす! お前らこれを見ろォ!」
ダボダボ竜人が不審物の幕を取り払うと、そこには色とりどりの液体を中に詰め込んだ、1.5リットルのペットボトルを組み上げて作られた、7基のペットボトルロケットだった。
「名付けて、『芸術は爆発だ! 空を彩るプリズミックミサイル』! みんな10からカウントダウンよろしくゥーッ!」
「「10! 9! 8! 7!」」
ダボダボ竜人に煽られ、観衆の中から期待感を帯びたカウントダウンが始まる。
と、そこへ。
「コラァーっ! 美術部! またお前らかァーっ!」
後者の方から騒ぎを聞きつけたと思われるオークの体育教師、杉屋先生が猛突進してくる。
「やっべぇ杉屋だ! どうする?」とワーウルフの不良がダボダボ竜人に聞きつつも、答えなんてわかり切ってるといった様子だ。
案の定、「かまわーん、むしろ狙えー!」という返答でカウントダウンは続行される。
「「3! 2! 1!」」
「ふぁやあああああああーーーーーー!!!!」
ばしゅうっ、と7本のペットボトルミサイルが、それぞれに蓄えられたカラフルな液体を撒き散らしながら空を翔る。
「のあぁ!?」
……そしてその内何本かは、哀れな杉屋先生目掛けて飛んでいき、一発が腹部に直撃、派手な青色の液体まみれにしてしまった。
どっと歓声が沸き上がる一方で、杉屋先生は怒りでプルプル震えている。
「新入生のみなさーん! 我々美術部はァ! 自由な創作活動と表現の可能性を見出せる、『現代美術』を、真ッ剣ッに! 取り組んd」
「
杉屋火山が噴火した。
「部長、撤収撤収!」
「OKわかった! お前ら捕まれーっ!」
号令とともにワーウルフとバフォメットの不良がダボダボ竜人に抱きかかえられ、三人が息を揃えて数メートル走った後……。
「ぬおおおおおお!!!!!」
バサバサと皮翼をはばたかせ、二人を抱えた竜人の体が空高く浮き上がった。
「待てェ、別目ェー!」
杉屋先生が走って追いかけるが、流石に空までは不良たちを追いかけることができず、地上で懸命に追うに留まっている。
これはこのまま逃げ切るか……と魅美たちが思った次の瞬間。
「ぬああああ、おも、重いっ! 二人とも重いっての! アカン、落ち、落ちいいいいいいいいのああああああああああああ!!!!!」
「「ああああああ!!!!!」」
ずしゃあ、と呆気なく墜落した。
「別目!
「「「ぶぎゃーーーーー! サァーセエェーン!」」」
ギャラリーは面白いものが見られたとゲラゲラ大喝采、「美術! 美術!」とコールまで湧き上がるほどである。
「何なのこれ……」
「わからん……!」
魅美と駆はひたすら困惑した。
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