第7話 TRPG部の生徒会長さん
「……」
しばしの気まずい沈黙。
が、突如として。
「ようこそTRPG部へ! 君たちは入部希望者かな? 歓迎しよう、さあこちらへどうぞ!」
一瞬にして寝ぼけたブサイク顔をかなぐり捨てて、余所行き面へと変身しハキハキと応対する
理知的なきりっとした目つき、毛先だけを軽く巻いたようなセミロングの金髪、首周りに種族的特徴の白くふわふわとした綿毛、額から控えめに飛び出した二本の触覚、背中に透き通った小ぶりの昆虫の翅……そして魅美より少々控えめ程度に膨らんでいるバスト。
その姿に魅美は見覚えがあった。
いや、魅美だけでなく、莉々、駆、桃にも見覚えがあった。
「えっ、あなたって……」
「「「「
「え、誰?」
わかってない
「ほら、入学式の時に生徒会長からの挨拶あったでしょ!」
「そうなん? あーしぼーっとしてたし、もしかしたら寝てたかもしんね」
「それ本人の前で言う!?」
「あっはっはっはっ! まぁ、得てして目上の者の話など聞き流してしまうものだからな! 素直でよろしい!」
寧音と魅美のやり取りを受けてもこの態度で受け入れるあたり、海山会長はなかなか懐が深い人らしい。
「では改めて自己紹介させてもらおう。TRPG部部長、海山奈々だ。ご存じの諸君もいるようだが、本校の生徒会長も務めさせてもらっている。よろしく頼む!」
「あっ、渡辺桃です……よろしくお願いします」
桃から始まり、駆、魅美、寧音、莉々嬢と自己紹介をする。
いずれの自己紹介もにこやかに聞いていた海山部長だったが、莉々嬢が名乗った時だけ顎の下に手を当て、少し思案するようなしぐさを見せた。
「藤木莉々……藤木海運の?」
「あら、ご存じでして?」
「いや、もしかしてと思ってだな。藤木という苗字自体はそう珍しくはないが、ヴァンパイアともなると数が限られてくるからな。このあたりで藤木のヴァンパイアと言ったら、地元の大企業である藤木海運の一族が自然と頭に浮かぶものさ」
自分の推測が当たったことに機嫌が良くなったのか、海山部長はより一層にっこりとした表情になった。
「はぇーそうなの? 莉々ち超すごかったんだ」
相変わらずの寧音であるが、誰であれ物怖じせずこの態度を貫けるのもそれはそれで才能であるともいえよう。
と、ここで桃が気になっていたことを尋ねる。
「ところで海山先輩、他の部員の皆さんは……?」
「あぁ、そのことだが……」
海山部長は少し困ったような表情を浮かべる。
「この部には二年生がいなくてな。そして三年で当部活に所属しているのも私一人だけだ。つまり、この部は只今廃部の危機真っただ中というわけだ」
「えっ、えぇーっ!?」
「うんまぁ、そういう反応になるのも無理はないかもしれないな。しかし……こういっては何だが、TRPGはなかなか知名度があまり高くないジャンルでな。よくわからないものには人はなかなか興味が持てず、懐疑的になり、結果寄り付こうとしない。おかげでなかなか部員集めにも一苦労しているのだよ」
「あー……わかります……」
自嘲気味にTRPGについての現実を語る海山部長には、どこか諦めにも似た表情が見受けられた。
そして同じ界隈に身を置いている桃としても思うところがあるのであろう、色々と察して表情を曇らせている。
「それは……大変ですね」
「ああ、でも問題ない! 君たちが入部してくれるのならば人数が揃う! 我が校では一つの部を成立させるのに必要な人数は最低5名だからな。私を含めて6人となれば、非常に心強いことこの上ない!」
「あっ、えっとー……」
ぐいぐいと力強いエネルギーある話し方をする海山部長に押され、魅美は本当は見学に来ただけとはなかなか言い出せなくなる。
(どうしよーっ、何だかこのまま入部に押し切られそうな気がするーっ!)
困惑して言葉に詰まっているところに助け舟を出したのは、魅美にとっての王子様であった。
「すみません海山先輩、俺たちまだどこに入るか検討中で、ここに来たのもまずは見学からって感じなんです」
(きゃーっ流石駆! ベストタイミング! 助かる! かっこいい! 惚れ直した! 結婚して!)
露骨に魅美が目をハートにさせる一方で、海山部長は熱が冷めたように落ち着きを取り戻す。
「そうか、私としたことが少し焦りすぎていたようだ。しかしそうか、見学か……ということは、ここにいるみんなはTRPG初心者ということかな?」
「いえ、私だけは経験者、です。他のみんなは、まだ未プレイ……何なら、TRPGって言葉を初めて知った人の方が多い、です」
桃の返答に短く「そうか」と答えると、海山部長はまた顎に手を当て思案するそぶりを見せる。
「となると、実際にセッションをしてもらうよりは、まずはリプレイなどで雰囲気を学んでもらうのがいいかもしれないな。動画サイトで様々なリプレイ動画が視聴できるが、せっかくだからこの部ならではの雰囲気を感じ取ってもらいたいしな」
そう言いながら海山部長は部室内の書庫から冊子を何冊か取り出した。
「こちらが我々TRPG部が毎学期ごとに発行している会報、『サイコロダイアリー』だ。しばらくの間なら借りてても大丈夫だから、どれでも好きなものを読んでみてほしい。読んでみてわからない部分があったら、いつでも私に聞いてくれていいぞ」
「わぁ、結構本格的……」
桃は目をキラキラさせながら、早速一冊手に取っている。
「これはリプレイが載ってるんですか?」
駆も会報を手に取りながら海山部長に尋ねる。
「もちろんリプレイも載っているが、それだけではないぞ。システム……要はゲームでいうソフトの事だな、それごとのオリジナルシナリオを掲載していたり、システムごとの解説をしていたりと、様々な内容が書かれている。TRPGを知らなくても、読み物として面白い部類だという自負はある」
「へぇ、あーしみたいなミリしら勢にもとっつきやすそう。んじゃぶちょーさん、とりま一冊借りさせてもらいまーす」
寧音も続くようにして会報を手に取り、早速パラパラとページをめくり始めた。
「会報ですか。そうなるとTRPG部の活動としては、その会報の連載に向けて色んなことをするって感じですか?」
「そうとも言えるが、会報はあくまでその学期ごとの活動のまとめみたいなものだな。何の活動実績も残せない部活は廃部になるから、それを防ぐ目的もある。最も、会報の連載以外にもいろいろ精力的に活動していたりするぞ。『ゲームマーケット』という展示会にオリジナルのシナリオやシステムを配布したり、企業の公式なリプレイコンテストに出品したりだな。インドアで楽そうな部活かと思っていると、想像以上に色々忙しくて驚くかもしれないな」
「へぇー……なんかすごいですね……」
このポンコツサキュバス、感想が小学生並みである。
そのようなやり取りをしていると、キンコンと下校のチャイムが鳴り響く。
「おっと、もうこんな時間か。会報は家でゆっくり読んでもらうとして、本日は解散としようか。諸君らが入部してくれる気になることを祈っているよ」
海山部長の言葉を締めとし、一同は各々礼を言ってから部室を後にするのであった。
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