第6話 伏兵に主導権を握られる
「それで、急に駆け寄ってきて何か用でもあったのか?」
塩対応ながらも駆が話を促す。
「そうそう、駆って今回運動部以外で部活選びたいんだよね。文化系の部活色々あるみたいだから、一緒に見学しにいかない?」
先程まで目潰しを食らっていたのに驚異的な早さで復活した魅美が、再度食いつくようにして駆に迫る。
しかし……。
「あぁ、それなら渡辺さんに一緒に見学に行こうって誘われてるところがあるんだ。魅美も来るか?」
伏兵現る。
いや、正確には魅美が感じていたラブコメの波動が、いよいよもって現実化したといったところだろうか。
色を失いフリーズする魅美であったが、その背後でそんなことを気にしない圧倒的な"陽"の気を持つ刺客が便乗追撃を放つ。
「あ、いーじゃんそれ! あーしもまだ部活決めてなかったから一緒に行きたーい。莉々ちも一緒に行こーよ!」
魅美はもはや真っ白い粉末である。
莉々嬢も呆れたといったご様子だったが、このまま
「そうですわね。この際ですからみんなで行ってしまいましょう。それでいいですわね、魅美?」
声を掛けられて固形物に復活した魅美は、全力で頷く。
「よし、じゃあ早速これから見学しに行くか。渡辺さん、よろしくな」
「う、うん!」
「やー、『渡辺さん』とか他人行儀な感じじゃね? 下の名前で呼ぼうよ、ねえ名前何ていうの?」
流石コミュニティお化けの寧音、相手が奥手でもお構いなしにぐいぐい来る。
渡辺さんは急に自分とは全く異なるタイプの人種に名前を尋ねられて顔を真っ赤にさせていたが、小さく「桃、です……」と答えることには成功した。
「桃ちねー、りょー。あーしの事は寧音ちって呼んでくれたらいいから。あ、こっちは魅美ちでこっちは莉々ちね!」
「「『ち』はいらん」ですわ」
迫真のツッコミであった。
「ところで、口ぶりからして既に見学する部活の目星はついているようでしたけれども、どの部活の見学に行くつもりでして?」
ぞろぞろと教室を出ながら、先頭を歩く駆と桃に莉々嬢が尋ねる。
「えっと! 皆さんって、TRPGってご存じですか!?」
急に熱量が上がった桃の声、しかし出てきた単語に魅美は愚か莉々嬢も馴染みがない。
しかし意外なことに、これには寧音が即座に呼応する。
「あー知ってる! ゲームの事っしょ! あーしもやったことあるよ!」
「えっ、本当ですか!?」
理解者がいたことに、思わず桃の目の色が変わる。
「あれでしょ、『どーぶつの森』みたいなやつっしょ?」
すん……。
流石の寧音も、桃の感情がイーグルダイブしたことには気が付いた。
「え、あ、違った!? あーしなんか勘違いしてた!?」
「そ、そうですよね……TRPGって、今こそ少しは知名度を得てきましたけれど、一般の方からすればまだまだマイナーなジャンルの遊びですからね……し、知らなくても無理からぬことですよね……」
「あっ、あー! 桃ちが闇落ちした!? ゴメンて桃ち! あーしが悪かった、機嫌直して! あーしのペロキャン一つあげるからさ!」
「「「大阪のおばちゃんかよ」」ですわね」
オナ中組が見事に息の揃ったツッコミを入れる。
「そ、それはそうと渡辺さん、TRPGっていったい何する遊びなの? 何かのゲームっぽいことだけはわかるけど」
仕切り直すようにして軽く一つ咳払いをしてから、模範的生徒の魅美が桃先生に質問を飛ばす。
案の定、桃は水を得た魚の様に我が意を得たりという表情になる。
「あ、はい! えっとですね、TRPGとは『テーブルトーク・
簡潔だが熱量のこもった解説に魅美はなんとなくのイメージがついた。
「俺も以前に読んだ本でこの遊びを知ってな。ずっと興味があったんだが、なかなかそれに触れる機会がなかったんだよ。桃さんが詳しいっていうのを教えてくれたから、せっかくの機会だからやってみようと思った次第だ」
駆がさり気なく「渡辺さん」ではなく「桃さん」と呼んだことに、魅美は小さな嫉妬心を燃やす。
一方、寧音はそんなことなど気にする様子はなく、話の内容に何やら合点がいかない様子である。
「え、なんでそんなめんどくさいことするの? 全部ゲームに任せりゃいいじゃん」
この手の問いには何度も答えてきたのであろう、そのまま桃は流れるように説明し始めた。
「それはズバリ、自由度の高さがあるからです。例えばですけど、何か一つの問題があった際、普通のゲームだと製作者側があらかじめ指定した方法でしか問題解決の手段が用意されてないことが多かったりします」
「あーね。なんか選択肢出てきて、そこから選ぶって感じね?」
「そうそう、そんな感じです。ですがTRPGの場合、ルールが許す限りで自由な問題解決方法をとることができるんです。他にも、遊ぶためのシナリオを自由に作ることも比較的容易にできたりするので、遊び方の幅がとても広いんです。そして何より! TRPGは自由に状況を演出したり、キャラクターを演じたりすることができる『ロールプレイ』が楽しいんです!」
ふんすふんす、と鼻息荒く一気にまくしたてる桃。
小柄なフェアリーである寧音と
「桃ち、ステイステイ……なんか桃ちがすごいTRPGが好きなのは伝わってきたわ。そんなのがうちの学校に部活としてあったんだねぇ」
「ええ、本当にびっくりです。まだまだマイナーなカテゴリなので、部として存在しているのが珍しいと思います。……あ、視聴覚室……その隣の準備室がTRPG部の活動拠点みたいです。行きましょう!」
桃のプレゼンを聞いて、最初から興味のあった駆はもとより、魅美や莉々、寧音も結構乗り気になっていた。
そんな彼女らが期待感を膨らませ、「失礼しまーす」という桃の声とともにTRPG部の部室の扉をくぐると……。
「……んが」
デスクに突っ伏した
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