第5話 せめて部活は一緒になりたい
波乱の委員会選出が終了し、結局魅美は何者にもならなかった。
なお、寧音は保健委員のポジションに収まったようだ。
「うえぇ……莉々ぃ……駆と一緒に図書委員したかったぁ……」
「はいはい、ライバルがあれだけ多ければ難しいものでしてよ……それはそれとしてすっぱり諦めなさい。それに、駆と一緒に過ごすというのであれば、何も委員会に限った話ではないでしょう?」
「ふぇ?」
ぐずぐずと腐る魅美に、莉々嬢が希望の光を投げかける。
「部活動ですわ。駆と同じ部活に入れば、放課後に共通の時間を過ごすことも容易でしてよ。幸い、これからしばらくの間は部活動の見学期間……部活の見学を口実に駆を連れまわして、意見のすり合わせをすればよいのですわ」
「そ、それだー! 莉々ナイスアイディア! 大好き! やっぱり持つべきものは良き友ね!」
身を乗り出して魅美が莉々嬢を抱きしめる。
その際、莉々嬢の顔がお嬢様がやっちゃいけないようなだらしない顔になっていたのだが、それは魅美にはわからない。
抱擁が解かれた時には、既に莉々嬢のご尊顔はいつものお嬢様フェイスに戻っていた。
「ちなみに、魅美には駆の入る部活の目星はついていらして?」
「うーん、それがねぇ……中学の頃はバスケやってたけど、駆が言うには『部活への入部が必須だから』っていう消極的な理由で入ってたのよねぇ。で、『めっちゃ疲れたからもう運動部はいいや』って言ってたわ」
「となると、狙い目は文科系の部活ということになりますわね。学校によって特色が出やすくて変わった部活もありそうですし、じっくり見てみるといいですわ」
「え?」
「ん?」
思わず異を唱えるようにして莉々嬢を見つめる魅美と、今の会話のどこに不自然な点があったのかが本気でわからなくて魅美を見つめる莉々嬢、二人の視線がぶつかり合う。
「……え、当然だけど莉々も一緒に見てくれるよね? そんで一緒の部活に入ってくれるよね?」
「……はぁーーーーーーーーーーーーーー」
思わずクソデカため息を漏らす莉々嬢。
もちろん今に始まったことではないのだが、このポンコツサキュバスは……。
「あのですわね……今の流れ、どう考えても二人で部活巡りをするプチデート計画でしてよ? そんな中にわたくしという異物を入れこませる必要性ありまして?」
「えええ、だってぇ、駆と二人一緒の部活巡りもしたいけど、莉々とも部活巡りしたい……莉々もアタシと一緒の部活しようよぉ……」
ああ、なんとかわいらしいポンコツサキュバスなのだろうか、と思わず抱きしめて頭をなでなでしたくなる衝動に駆られる莉々嬢だったが、そんな気持ちに冷静に蓋をして、思いっ切りスパコーンと脳天をはたく。
「馬鹿!!!!! お馬鹿!!!!! あなた本気で駆を落とす気ありまして!? あなた、ちょっと慢心こきすぎておりませんこと!? 幼馴染だからゴールインは簡単とか、まだそんな眠たいことをほざき遊ばしてますの!? 高校に入ったことで環境が激変し、ライバルと呼べる存在が跋扈し始めたのをいい加減自覚なさって!?」
怒涛のお嬢様言葉でのお説教である。
「びえぇ……でも莉々も一緒の部活にいてくれた方がいろいろ相談できるし……」
「何々ー!? 魅美ちと莉々ち、一緒の部活やんの!? いーじゃんいーじゃん! あーしもそれ入れてくんね!?」
「「!?」」
突如乱入してきたのは、強引な陽キャ特有のノリで早々に友達のポジションに居座った寧音である。
思わず顔を見合わせる魅美と莉々だったが、寧音はお構いなしに絡み続ける。
「てかさー、魅美ちと莉々ち、もう入る部活とか決まってたりする? あーし何でも得意だから二人の好きなやつに合わせられると思うし。テニスっしょ、バスケっしょ、バレー、陸上、あと卓球とか? 大体何でもできるかんね!」
見事に体育会系である。
「いやー、運動部には入る予定ないかなー……」
「あー、つーことは文化系? あーし文化系の部活って詳しくないんだよねー。てかさー、うちの学校ってどんな部活があるわけ?」
「それでしたらほら、今日配ったレジェメに一覧が掲載されていましてよ。吹奏楽部、軽音楽部、演劇部、写真部、報道部、美術部、漫画研究部、園芸部、TRPG部、文芸部、PC部、ボランティア部、料理部……結構沢山ありましてよ」
莉々嬢がレジェメの該当ページを開き、他の二人に見せる。
「はぇー、ほんとね。文化部ってもうちょっと小規模なイメージだったから、こんなに数がたくさんそろってるのってビックリ。なんかさぁ、流石高校生って感じするわねぇ」
「あーしもマジビビったぁ。なんか聞いたことない部活いっぱいあんじゃん。漫画の研究とかってなにすんの? 解剖実験?」
おそらく寧音の頭の中には、白衣を着た研究員風の部員がフラスコ片手に漫画を実験材料にしている図がイメージされているらしい。
「漫画の解剖実験って何なのよ……。漫研って、要は漫画を読んだり描いたりする部活よ。読むだけの子とかも割と多いみたいね」
「えっ、それサボり? ズルくない?」
どうやら意外と寧音はそういう部分には厳しいらしい。
「……少なからずそういう目線で見られることはある部活ですわね。とはいえ、きちんと実績を残してらっしゃる方もいらっしゃるみたいですから、皆が皆サボっているわけではないというのはご留意くださいまし」
「なーほーね?」
などというやり取りをしていた矢先、委員会の顔合わせのために図書室に行っていたのであろう駆が、渡辺さんを伴って教室に戻ってきた。
瞬間、魅美が一瞬で席を立ち、飛びつかんとするほどの勢いで駆の目の前まで駆け寄り……ノールックで無情にもVの字に突き出された駆の指で両目を潰された。
「のああああああああ!!!!!」
「『のああああああああ!!!!!』じゃねえよ危ねぇだろいきなり」
「まだ何もしてないのに両目を潰しに来る方が危ないでしょ!」
「何かするつもりだったんじゃねえか、正当防衛だ正当防衛」
「あ、あの……大丈夫なんですか……」
二人の後ろで一部始終を見ていた渡辺さんはドン引きである。
「「大丈夫、いつもの事だから」」
二人揃ってそう言うものの、明らかに魅美は「前が見えねェ」状態であった。
サキュバスですが、大好きな幼馴染を奪われそうで泣きたい お仕事中の情シス @SE_Shigoto_Shinagara
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