第2話 幼馴染アドバンテージ #とは

 青原駆、有翼人種ウィングノイド


 有翼人種とはその名の通り、その背中に鳥獣のような大きな翼をもつ種族である。


 もちろん翼を駆使しての飛行も可能ではあるが、身体的な負荷がかかりすぎるため、滅多なことでは彼らが飛ぶことはない。


 中には体重が増えすぎて、飛ぶことを放棄せざるを得ない者もいる。


 しかし、それを差し引いても「背中に翼が生えている」という特徴的な姿は目を引きやすい。


 そして、飛行を前提とした体型が基準となっているため、スラリとしたモデル体型をしていることが多い。


 駆はそんな有翼人種の例に漏れず、スラリと整った体型をしている。


 そして何より、ワシミミズクを思わせるような冠毛を携え、鋭くいるような眼差しを持つ猛禽類のような金色の瞳を持つ駆の顔は、優れた彫刻のように整っている。


 そして、整った顔にワンポイント添えるようにして、フレームの細い眼鏡をかけている。


 有体に言えば、イケメンというやつである。



 そんな駆が、今まで腰巾着の様に付きまとっていた魅美という枷から解き放たれた瞬間どうなるか……その結果がこれである。


 そう、今までは強烈に駆のことを主張していた魅美がいたからこそ、駆にアプローチをしようとする者がいなかったのである。


 魅美というファイアウォールがなくなった駆は、もはや誰もが手を出せる状態。


 魅美は、致命的な隙を作ってしまったのである。


 慌てて駆に近寄ろうとする魅美であったが、そこに無情にもチャイムが鳴り響く。


 同時に二組を担当することになるのであろう教員が入室し、ホームルームの開始を告げ、着席を促す。




「ぐ、ぐぬ……アタシの駆なのに……幼稚園のころから付き合ってるのに……!」


 出席番号1の駆に対し、魅美の番号は7、同列の最後尾である。


 席が遠く離れてしまった魅美には、拳を握ることしかできない。


 (落ち着けー、落ち着きなさい魅美! 確かに初動はしくじったかもしれないけれど、そもそも駆はアタシと長い付き合い……そう、幼馴染! 初見の有象無象が寄り付いたところで、駆とアタシには既に固い関係性ができてるのだから焦る必要はないのよ……!)


 自分に言い聞かせるようにして心の余裕を取り戻そうとして、魅美は一度深呼吸をする。


 その際、右の方から視線を感じているような気がして、ふと隣の席に目線を送る。


 隣の席の女子……奇しくも駆を先程取り囲んでいた女子の一人……は、特に魅美の方を見ていた様子はない。


 どころか、未だに駆の方に視線を送るのに夢中といった様子だ。


 しかしそのもう一つ奥の席……二つ隣の席に座る女子生徒と目が合い、相手は「ようやく気付いた」とばかりにニコッと笑い、小さくピースを送る。


(り、莉々りりぃー! 一緒の高校だとは知ってたけれど、まさか一緒のクラスだったなんて!)


 魅美も視線の主に気付いてピースをし返す。




 藤木莉々、彼女もまた魅美の幼馴染で、小学生時代からのかけがえのない友人である。


 ヴァンパイアである彼女は、白く透き通ったような肌と燃えるような赤い瞳、魅美ほどではないがそれなりに立派なバストと、最近デブった魅美と対照的な細い腰つきなど、非常に整った容姿をしている。


 そして、極めつけは縦ドリルに巻いた金髪で作られたクソデカツインテールである。


 こんなものどこぞの貴族の娘にしかできそうにない髪型だが、実際藤木家は相当な資産家の家系である。


 つまり、莉々嬢は見た目通りのバリバリお嬢様である。


 ともすれば県外の有名私立高校にでも通いそうなものであるが、莉々嬢は彼女自身の強い要望――魅美との友情を最優先して一月市高校に入学する道を選んだ。


 そのくらい、莉々嬢にとって魅美とはかけがえのない唯一無二と存在だということでもある。




 同じクラス内に心強い友人がいることで気を持ち直した魅美は、改めて周囲を見回す。


 40名前後が詰め込まれた教室の男女比率は、ぱっと見6:4でやや女子の方が多めだ。


 やはりかわいらしい制服のデザインからか、女子人気が高いためだろうか。


 種族の方は、ラミア、アラクネ、ドリアード、ハルピュイア、フェアリー、ケンタウロス、ワーラビット等々……かなり雑多なようだが、魅美と同じくサキュバスの生徒はいない。


 何ならヴァンパイアも莉々だけだし、有翼人種も駆だけだ。


 そして……男子たちの視線が、心なしかちらちらと莉々の方へ投げかけられているような雰囲気がある。


 無理もない、莉々のクソデカドリルツインテが目立つのもさながら、これだけ容姿の整った女子がクラスにいれば、瞳を奪われてしまうのにも納得がいく。


 しかし悲しいかな、莉々はこれまでも数々の男子の告白を粉砕してきた高根中の高根の花である。


 きっとこの後も、少なくない男子生徒が玉砕し、屍の山を築き上げるものだと予想される。


(かわいそうな男子……)などと哀れみの目で男子を観察していた魅美であるが……その一方で、決して少なくない人数の女子の視線が駆に注がれているのも感じ取っていた。


 それは、先程まで駆を囲んでいた陽キャグループだけではなく、割と大人しそうな雰囲気の女子も例外ではなかった。


(え、これ全部駆を意識しちゃってるわけ!? ちょっと待ちなさいよ……駆のやつ、どこのハーレムモノのチープなシナリオの主人公みたいなことやっちゃってるわけ!?)


 魅美の感情は再びジェットコースターのように急降下した。

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