サキュバスですが、大好きな幼馴染を奪われそうで泣きたい

お仕事中の情シス

第1話 3歳の時に結婚するって約束したもん

 幼稚園時代、木崎魅美(きさき みみ)・青原駆(あおはら かける)、両名3歳――。


「かけるくんしゅきしゅきー! おとなになったらけっこんしよー!」


「ぼくもみみちゃんすきー。けっこんしようねー!」






 小学生時代、木崎魅美・青原駆、両名10歳――。


「駆君好き好きー! アタシ、カケル君のお嫁さんになるー!」


「魅美ちゃんいっつもそれだなー。わかってるって」






 中学生時代、木崎魅美・青原駆、両名15歳――。


「駆! 大好き! 結婚の約束覚えてるでしょうね!」


「わかってるって、お前それより英語の成績やばいんじゃなかったのか?」


「うっ」






 そして迎えた高校生時代――。


 木崎魅美・青原駆、両名16歳――。






 魅美は奇跡的に駆と同じ、一月市ひとつきいち高校にギリギリ受かっていた。


 県内の公立高校の中でも有数の進学校であるこの高校に魅美が無事合格したのは、付きっ切りで勉強を教えてくれた駆の存在が大きい。


 先のやり取りからわかるとおり、魅美はそんな駆に幼少のころからべったりと惚れている。


 それを隠そうともしておらず、また駆もそれを否定せず満更でもない状態で受け入れていた。


 当然茶化されたりもしたが、駆は否定もせず魅美の好意を浴び続けた。


 魅美からしてみれば、長年好意を寄せ続け、常々から気持ちを伝え続けてきた間柄である。


 幼馴染というアドバンテージや周囲への認知もあって、他に誰も駆に手を出す者はいない。


 それだけではない。


 魅美の種族はサキュバス、妖艶なる魅力あふれる美貌を振りまき、異性を虜にして止まない魔性の種族である。


 魅美もその例に漏れず、魅力的な角度に曲がった角と張りのある艶やかな青肌、サラサラの長い青髪にぱっちり金色をした白黒目、かわいらしい大きさの比翼と尻尾、そして誰もが目を奪われる豊かなバスト。


 それらを兼ね備えた彼女は、完全に色恋沙汰に置いての絶対強者であった。


 故に、魅美はこのまま何の障害もなく、流れるように駆とゴールインするという既定路線に入っていると思って違わなかった。


 そう、彼女は自惚れ、慢心し、奢っていた。


 そのため、周りが見えていなかった。


 駆と同じ高校に入ったことで、もはや自分の人生のルートは安泰だと高を括っていた彼女は油断しまくった彼女は、登校初日から寝坊した。


 一緒に通学するはずだった駆は、待てど暮らせど現れない魅美に業を煮やし、先に一人でさっさと登校してしまったのである。


「ぬわぁーん! お母さん何で起こしてくれなかったのよぉ!」


 自室から弾けるように飛び出した魅美が泣きそうな顔で母親に文句を垂れる。


「起ーこーしーまーしーたー。そのあとアンタ二度寝を決め込んだんでしょ。流石にそこまで面倒見切れません! ほら、さっさと食べて着替える! 駆君呆れてもう先に行っちゃったわよ!」


「ぴえー、駆きゅんちゅめたぁーい!」


 激怒する母を尻目に、魅美は大急ぎでトーストを口に突っ込み、パジャマをスポポーンと脱ぎ捨て、自室から掴んできた真新しい制服に袖を通す。


 一月市高校の制服は、白い襟に紺のラインの入った紺色のセーラー服で、前が校章入りの金色のダブルボタンが左右三つずつ並んだデザインをしている。


 また、県内では珍しく、スカーフではなく制服と同じ素材でできた紺色のタイを採用しており、白のラインが三本入っている。


 かわいらしくて目立つデザインをしているためか、女子からの人気も非常に高く、制服目当てで入学を希望する受験生もいる程だ。


 そんなかわいらしい制服をもたもたどたどたしながら身に着ける魅美だったが、ここで一つトラブルが起こる。



「ふぬっ!?」



 おおよそヒロインらしからぬ野太い声を漏らす魅美。


「えっ、嘘……試着の時はもっと余裕あったじゃん……!」


 彼女が驚愕しているのは、スカートのベルトである。


 試着の際はかなり余裕で、三番目くらいの狭い場所でベルトを留めていた。


 しかし油断に油断を重ねた彼女は受験合格後からやれ合格祝いだ卒業祝いだと何かに理由をつけて食べまくった。


 その結果、現在彼女のウエストにはだらしねぇ駄肉がもにっとついているのである。


 そして、スカートのベルトはそんな駄肉の影響を受け、最も広い場所でギリギリ留まるという有様であった。


 なお、勿論駄肉 on the スカートのベルトである。


「んひぃいいいいいいい嫌あああああああ!!!!! これはやばい!」


「何馬鹿な声上げてるのよ、やばいのは時間でしょ! 入学式間に合わなくなっても知らないからね!」


 脱ぎ捨てられたパジャマを拾いながら魅美の母がまた一つ雷を落とす。


 駄肉サキュバス高校生魅美、躓きのスタートである。




 そして、彼女は知る。


 自分が井の中の蛙であったことを。


 この躓きが、今後の学校生活に大きな影響を残すことを。




 何とか遅刻ギリギリに学校に到着し、もう人も疎らな新入生のクラス分け表を確認する魅美。


 自分の名前より先に駆の名前を探す。


 何分、駆は「あおはら」という苗字の都合上、名簿の先頭に来やすく見つけやすいのだ。


 駆のクラスは一年二組、案の定だが出席番号は1番。


 そして自分は……。


「よしOK、二組! 天はアタシを見捨てていなかった!」


 喜びを噛み締めるようにして二組の教室に駆け込む魅美。


 既に教室内は賑やかな盛りで、早速いくつかのグループが出来上がっているようだ。


 そのまま魅美は自分の席ではなく、駆がいるであろう教室の左最前列に視線を走らせ、そのまま駆に挨拶をしようとして……固まる。




「ふぅーん、駆君って言うんだぁ。名前までイケメン風じゃん」

「連絡先交換しよー。ほら、フリフリ」

「グループ作ったから駆君も入ってねー。今招待送ったよー」

「駆君どこ中? 彼女いる? もうヤった?」


 そこには圧倒的コミュ強グループの女子による包囲網が築かれ、その中心に……満更でもなさそうに対応する有翼人ウィングノイド、駆の姿があった。

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