第44話 出発準備
「本当に、お世話になりました」
「お元気で」
北見の件が解決したので、梅田さん一家は自分たちの家へと戻った。
本音を言うと、早く戻ってほしかったからちょうどいい。
別に、邪魔だとかそういうのじゃない。
もうすぐ俺は大きな事件とことを構えるし、それに彼女たちが巻き込まれるのを恐れたのだ。
ほら、よくあるじゃん?
関係者が人質に取られちゃう、みたいなことが。
「母さん、俺明日からしばらく家を離れようと思ってるんだ。各地で支援活動をしようと思ってね」
「あら~輝。あなたいつの間にそんなに立派になって」
「その間の生活費は送金しとくから、何かあったら連絡してくれ」
『なら、何かあった時のために多めに送金したほうがいいですね』
くつろいでいたロバートさんが話に入ってくる。
”何かあった時のため”……それはつまり、本当に俺に何かあった時のことを言っているのだろう。
何も知らない母さんたちにはわからないだろうが。
『そうですね、”念のため”多くおいておきます』
「もう、そんなのいいのに~」
母さんたちには言わなくていいか。
もし最悪の結末になってしまった時はひどくショックを受けるかもしれないが、知らせればもっと負担をかけてしまう。
ベストなのは行かないことなのだろうが、それではダメなのだ。
神を殺して俺たちの世界を取り返さないと、人類は破滅の一途をたどる。
『私は一度、自分の家に戻ります。取りに行くものがあるので』
『わかりました。気を付けて』
ロバートさんは
取りに行くものって何だろうか、戦いに使う物かな?
母さんたちには、明日から家を空けることを伝えた。
心の準備もできてる。
明日までは特にすることがないな。
「……もし死んだら、母さんたちはどうなるかな」
家の天井に寝転がりがり、空を見上げていてふと思った。
しばらくは大丈夫だろうが、それも長くは続かない。
生きていけるだろうか?
それか新世界安定組織が面倒を見てくれるだろうか?
いや、俺はあいつらの頭と揉めたんだ、そんな都合のいいことはないか。
だから、生きて帰らないといけない。
俺が死んだら、みんな死んでしまう。
”実力だけで”生きていけるこの世界では、実力のないものは淘汰されるのだから。
「考え事ですか?」
「はい? って悠さん!? なんでいるの!?」
横を見ると、いつの間にか悠さんが一緒に寝転がって空を見上げていた。
音はしなかった、俺の聴覚が狂っただけか?
我が家の瓦は古いため、乗ればカタカタと音がする。
いや待てよ、それか悠さんが羽のように軽いって可能性も?
無いな、もしそうなら武闘大会で攻撃した瞬間、軽すぎて吹き飛んでいたはずだ。
「悠さんはなんで命を懸けるんですか? 責任があると言ってましたけど、別に誰かがあなたに責任を課したわけではないでしょう?」
「約束したの。約束には責任が伴うでしょ?」
「ずいぶんと危険な約束をしたんですね」
「そうだね、四人で決めた約束だから破るわけにはいかない。まぁ……一人は破って、もう一人は忘れちゃってるみたいだけど」
「?」
よくわからん。
まぁ、悠さんのことを特別知っているというわけでもないから、わからなくて当然か。
「優は今回の戦いに、新世界平和組織を挟むつもりはない。彼とウィリアム、そして心優の三人だけで迎え撃つつもり。優は君に任せてもいいかな?」
「大丈夫なんですか? 確かに一度は勝ちましたけど、それはいくつもの幸運があてのことだ。それに俺の手はこれです」
ざっくりと斬られた肩、そして北見に貫かれた腕。
右手がこんな状態である以上、もう剣は振れない。
銃を撃つのがやっとだろう。
まぁ、ボロボロなのはあっちも同じだが。
「君が優をボロボロにしたのは知ってる。それでも私たちじゃ彼には勝てない。私たち、君みたいに強くないから」
笑っているが、あなたも相当強いですよ?
少なくとも、俺もまだ悠さんに必ず勝てる! と断言はできない。
「優の能力の真骨頂は、大きな構えの後に繰り出される高威力の
「私の武器には”不壊”がないからさ、壊されちゃったら直すまで戦えない。だから”不壊”を持つウィリアムや優とは相性が悪いの。だから心優は私が仕留める。いいかな?」
「僕は大丈夫です」
ありがと、と笑って一言。
悠さんは奇妙だ。
悪う意味じゃないよ?
ただ、どこまでも未来が見えている気がする。
それに俺の知らないことを知っている。
レア種が神を殺せる武器だとか、神殺しの作戦に必要な情報をもう集めていたり。
「明日の朝、ここに集合ね」
「わかりましたよ。ってここ? 天井ですか?」
「輝さんの家ってことだよ! 分かるでしょ!?」
「からかっただけですよ。では、あしたここで」
急に出てきて急に去っていったな……
そんなことを考えながら、去っていく悠さんの背中を見送った。
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