第43話 世界が二つに割れたなら

「あら、おかえり輝。晩御飯はどうするの?」

「いや、今日はもういいよ」


家に帰ると、いつも通りの光景が広がっていた。


「そういえば、梅田さんたちはどうするんだ? もう北見の件は終わったけど」

「それなら、明日には帰ろうと思ているらしいわよ。もう危険もなくなったし、これ以上お世話になるのは……って」


「ふぅん」


まぁ、これであの地獄の時間が無くなると考えれば、少しは気が楽か。

それはそうと、ロバートさんは……あ、いた。


『ロバートさん、少しお話が』

『なんでしょう?』


リビングでくつろぐロバートさんを発見し、話しかける。

今日のことを伝えておかなければならない。

なぜなら彼は、組織から戦争のことを何も聞いていなかったのだから。




『……ということで、新世界安定組織は戦争を受けるつもりだったようです。それを止める関係で、今日優と河野と争いました』

『なんですって!? 無事だったんですか』


『はい、なんとか』


驚いた……という表情を浮かべるロバートさん。

普段冷静な彼とは違う姿が見れて、少しおもしろかった。


『はぁ、新世界平和組織が戦争の準備をしていることは知っていました。でもまさか、彼女がそれを正面から受けるつもりだったとは……』

『戦って分かりましたけど、戦争になれば確実に安定組織は負けますよ。構成員全員が、他人が戦うだろって感じでした。誰も自分から動こうとはしない』


『もともと一般の人の集まりですから、まず戦争なんてできるはずがない。彼女は思っていたよりもまだ考えが足りなかったようですね』

『まぁ、しばらくは両組織動けないでしょう。優も怪我が治るにはかなりの時間がかかる。俺も、腕の怪我がありますし』


最後に優からもらった肩の傷、それがかなりいい場所に入ったらしく動かすと引き裂けるような激痛が走る。


『そうですか……なら、今かもしれませんね』

『今?』


『私は、神を殺します。こんな世界を作ったあの神を』


まじかよ……

ロバートさんも同じ考えを持ってたのか。

だが、まだ俺は実行に移せない。

なぜなら……


あいつは、俺たちで殺せるんですか?』


まだあいつについては未知数。

まず死ぬことがあるのか、そして俺たちがかなう相手なのか。


『我々がレア種と呼んでいるこの武器……なにか覚えていますか?』

『いえ……というか覚えてるって……俺なにか言われましたっけ?』


『いえ、ただ言葉を間違えただけですよ』




ピンポーン

玄関のチャイムが鳴る。

あれ? 今日だれか来るっけ?

そう思いながらも玄関を開けると、一人の女性が立っていた。


はるかさん?」


それは、槍のレア種持ち主である悠さんだった。

そういえば、日本に来るとは言ってたな。


「久しぶりです、輝さん。それからロバートさんも」

「どうしてここに?」

『私が呼んだんです』


ロバートさんが?

まぁ、とりあえず上がってもらうか。


部屋にあがってもらって早々に悠さんが話し始める。


『ウィリアムと優はダメですね。完全に”あちら側”です』

『そうですか……厳しいですね』

『あのぉ……何の話ですか?』


知らないのか、と言いたげな表情で悠さんが見つめてくる。

そんな目をしないでくれ……俺は本当に何も聞いていないんだ。


『我々が持つレア種というのは、ただ強力な性能を有した武器……というわけではありません。その本質は”神殺し”が可能な武器、という点にあります』

『神殺しが可能な……武器?』


『はい。神とは我々の概念では表せない超常的な存在。それすらも消し去ることができる武器です』


ぺらぺらと悠さんが説明してくれるが、何を言っているのか全く分からない。

まぁつまり、レア種は神を殺せるってことか。


『私と悠さんは、神を殺してこの世界を元に戻す計画を立てていました。ですが、優とウィリアムが”あちら側”に行ってしまった以上、予定よりも厳しい戦いとなるでしょう』

『”あちら側”って、なんですか?』

『神側についた……つまりこの世界を守るということです』


あいつ!?

みんなの平和を願ったんじゃないのかよ!?

なら、なんでわざわざこの世界を守ろうとするんだ!?


『優は、力こそが正義だと考えています。強い人が世界を支配すれば揺らぐことのない平和がやってくる。強い自分が世界を支配すれば世界は自分の思うがまま……つまり平和になると』

『そのためには、前の世界に戻るのは都合が悪いってことですか……』


確かに、その考え方もわからなくはないが……

だがこの世界じゃ、生きていけない人があまりにも多すぎる。

現に今この瞬間にも、たくさんの人が命を落としているだろう。


『優たちは神とかなり前からつながっていたようです。あと、最近ランキング上で勢いを増している人が一人……心優こころという子です』

『心優……あ! ウィリアムといたやつだ!』


『そうです、その子もあちら側にいます。ただまぁ……彼女はあまり長い間あちら側にはいられないでしょうね』

『なんでですか?』


『彼女の持っている能力スキルは、貪食者どんしょくしゃというものなんですけど、それは自身に満たされぬ食欲を植え付ける代償に力を得るものなんです。ただ、能力スキルを使えば使うほどに、その満たされぬ食欲は膨れ上がる。最終的には自我を失います』

『まるで北見の憎食者ぞうしょくしゃじゃないか……』


何かを得て何かを失う……わかりやすいものだな。

確かに他の能力スキルと比べて強力だが、その人を壊してしまう。

北見のように……そんな結末は、彼女自身も望んでいないはずだ。


『お二人は、いつ神を殺すつもりなんですか? 心優が自我を保てなくなり、あちらを離れたとき? それとも準備が整い次第すぐですか?』

『準備が整い次第です。今こうしている間にも、世界はどんどん悪化している』


『勝てる保証は……』

『……』


やっぱりなしかよ!

まぁ、ウィリアムに優、そして心優もいるもんな。

正直、勝てる見込みはないぞ。

それに、神が戦いに介入してくる可能性もある。

前は人同士の争いに介入しないと言っていたが、自分が狙われれば話は別だろう。


『……はぁ。僕も行きますよ、それなら、少しでも勝率が上がるんじゃないですか?』

『本当ですか!? いや……やっぱりやめたほうがいいです。死んじゃうかもしれませんし』


『それはあなた達も同じでしょう? それに、俺はレア種を持っている身でもあるんです。神を倒して世界を取り返す責任もある』

『……そうですか。でも、きっと悲しみますよ、両親が』


『俺、この世界が変わってから少し経ったとき、優の強奪ロブの後を見たんです。悲惨の一言でした。あの時から決めてるんです。この世界を戻すって、あんな悲劇はもう終わらせるんだって』

『なら、私から言えることはありませんね。協力、感謝します』


悠さんは少し困ったような笑みを浮かべながらも承諾してくれた。

まぁ、承諾されなくても無理やり引っ付いていく予定だったけど。


『優たちは現在、組織の構成員とともに、各地に拠点を置いています。そしてその本部……優たちがいるのはここ』


地図で記されたのは、アメリカの山岳部だった。

人気がなさそうで、戦いに他の人を巻き込むことはなさそうだが、なんでわざわざここにしたんだ?


『彼らも、私たちが来ることを予測してここにしたのでしょう。まるで、人はいないから思いっきり暴れられるぞ、とでもいうように』


ここで完全につぶすつもりか。

でも、組織間の争いじゃないから、他の人を巻き込む心配はない。

戦争のように、無駄な血は流さなくて済む。」


『私たちはもういつでも出発ができる状況です。輝さんは、ゆっくり準備してくださいね。悔いのないように』


家族や友人にでもあって来いということだろうか。

まぁ、確かに最後になるかもしれないもんな。

でも、俺は馬鹿だから、死んだ後のことなんて考えない。

死ぬこと前提で動いていたら、本当に死んでしまいそうだからだ。


『じゃあ、また準備ができたら声を掛けますね』


急に決まった神殺し計画。

でも俺には、この計画が急に決まるほど、今の世界はものすごい速さで変化しているように感じた。

だからこそ、急がないといけない。

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