第42話 リベンジ成功?

「ぐっ……!?」


肩に痛みが走る。

見ると、肩がざっくりと斬られ、血が流れ出ていた。


「はぁ、結界バリアを使わなかったおかげだな……何とか生き残ったぜ」


煙の中から優が姿を現す。

ボロボロだが、まだ生きているとは……


「忘れてただろ? 俺には天恵ともう一つ、結界バリアがあるってことを!」


ちっ!

そうだった、大剣と剣には天恵のほかにもう一つ、固有能力スキルとして結界バリアがあるんだった!


「とはいえ、さすがは輝といったところだ。結界バリアを使っても完全には防げない……いや、ギリギリ生き残れるくらいとは」

「ははっ……化け物かよ」


「化け物……ねぇ。一般人から見れば、お前も十分化け物だと思うぜ? 少なくとも、お前の言う化け物をここまで追い詰めてるんだからな」


ガタッ、ガタガタッ!

優が手を伸ばすと、俺のそばに転がっていた大剣がやつの手元に戻る。

それをしっかりと掴むと、優は剣を頭上へ大きく上げ技の構えをとる。

あれは……武闘大会でウィリアムに使った技の構え……あいつの必殺技!


もう、ギリギリなんだな。

あいつが、この技を使うということは、これで決めるということだ。

このあたりは軽く吹き飛ぶ……周りのやつらもみんな死ぬ。


「そんなもん放たれてたまるかよ!」


剣を抜き、再び優との距離を詰める。

やつの刃は、もう炎をまとい始めている。


「間に合えぇぇ!!!」


銃に持っているすべての凍結弾を装填し、相手の刃に向かって放つ。

相手の武器は瞬く間に凍り付き、技を出すことが不可能になった。


「なんだと!?」

「終わりだよ!!!」


優に向かって全力のタックルをお見舞いする。

攻撃態勢だった優は簡単にバランスを崩し、後ろへと転がった。


「今度こそ終わり……俺の勝ちだ!」


リベンジは果たしたぞ!

だが、こいつをどうする?


多分、戦争をやめろって約束しても、ぜったい破るよな。

なら殺す……のは嫌だし。

あぁ、くそ! こういう時には、優しさなんて感情が邪魔に感じて仕方がない。


カチャッ!

「ん? なんだよ河野。まだ邪魔するのか?」


いつの間に気が付いたのか、河野が立っていた。

その手には銃が握られている。

銃口が向かっているのは……俺じゃん……


「そこをどきなさい、輝さん。佐野優は私が殺します」

「あんたには無理だろ。こんな状態の優でも、お前には勝てるぞ?」


地面に寝転がり天を眺める優を指さす。

めちゃくちゃケガをしているが、河野には負けないだろう。

少なくとも、彼女の攻撃が当たることもなければ、当たっても通ることはない。


「はは、ずいぶんと俺を買ってくれてるじゃねーか輝」

「買ってねーよ。お前なんかにルディを払ってたまるか」


「……そういうことじゃねぇ」


とはいえ、彼女は本気で優を殺すつもりだ。

まぁ、それで戦争が終わるならいいか……とはなりません。

俺の目の前で人が死ぬのは許せない。


「お前ら、なんでそんなに争うかねぇ。みんなが平和に暮らせる世界を目指してんだろ? だったら手を組めよ」

「甘いな……”みんな”幸せに、だと? そんなことは不可能なんだよ。選ばなきゃいけねぇ……救える奴と救えないやつを」

「そうやってあきらめてる時点で、あなたにできることなんて何もないでしょ?」


二人ともボロボロなのに、口喧嘩はするのかよ。

とりあえず、これじゃキリがない。


「とりあえずだ! お前らの命は今俺が握ってるも同然だ。だから俺の言うことを聞け。いいな?」

「ははっ……内容によるなぁ」


「戦争は諦めろ。そうやって争って失う人たちがいるってことを知れ。そうやって結果だけ見てるうちは、何も解決しねーよ」

「結果だけ……ねぇ」


優が何かに気付いたように言葉を漏らす。

また何かたくらむつもりかと思ったが、これ以上話してると優も死んじゃいそうだったので、話を打ち切ることにした。


「おい、食いしん坊。いるだろ?」

「いるよ! あいつ食べていいの!?」



優が声をかけると、壁をぶち破って少女が出てきた。

あいつ、俺と鬼ごっこした食いしん坊野郎だ!

優とつながってたのか……てことはウィリアムも?


「確かに、お前の言う通りかもな輝。結果だけ見てたら何も変わらないよな。大切なのは手段か」

「そうだ、ちゃんと手段を考えろ。そして確実にみんなを救える方法を探せ」


やっとわかったか。

安堵の息を漏らし、少女に連れていかれる優を見送った。

はぁ、やっぱり俺って優しすぎるかもな。

殺したほうが確実だってのに。


「それで、あんたはどうするんだ河野」

「……そりゃ、ここまでして諦められるわけないでしょ! 私は絶対やってみせる。みんなが安定した生活を送れるように、やりきってみせる!」


「その意思があったのに、なんでこんなことになったのかねぇ」


少し意地悪なことを言った。

まぁ、かなり本心だったんだけどね。

それでもその気持ちがあれば、きっとやってくれるだろう。


「ロバートにも今回のことは当然報告だ。彼が組織に残るかは、彼自身が選ぶけどな」


建物崩壊に組織間の争い。

あまりにも大きすぎる出来事が、一日で発生し、終わるとはな。

まったく、この世界になってから大忙しだ。


ただ、それはあいつらに任せればいい。

この世界で生きる術は、あの二つの組織がどうにかするはずだ。

だから、ここから先は俺が介入する必要はない。


「さすがにもう耐えられないぜ、神」


世界をめちゃくちゃにしやがった神とやら。

危うく巨大な戦争が起きるところだったんだ。

もう、時間がないのは明らか。

さっさとこの世界を戻してもらおうか。

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