実力だけで生きていける世界になってしまった

第41話 リベンジへの道

「おいおい、前とは全く違うじゃねーか！」

「そりゃどうも！」

相手の攻撃を回避……というよりは相手が動く前にこちらが動き、追い詰める。

動きが鈍いのが特徴の大剣との戦いは、剣のほうが有利だ。

いくら優が、大剣を高速で振り回せる筋力を持っていたとしても、身体強化を受けている俺のスピードには及ばない。

とはいえ優も実力者。

回避に徹すれば俺の攻撃などまったく当たらない。

こいつも動視強化を持っているのではないか？　と疑ってしまうくらいの反応速度だ。

「やっと一発！」

「ちっ！」

ずっとタイミングをうかがっていたのか。

俺が攻撃し、体が止まる一瞬の隙で一撃を叩き込んできた。

それは俺の頬を裂き、首をかすった。

剣志がなかったら死んでたな……

「うぉ、今のをよけるのかよ！　首をはねたつもりだったのによ！」

「イケメンが台無しになるだろ、顔はお断りだ」

とか言いつつも、俺は強烈な蹴りを優の顔面に打ち込む！

俺の靴はまぁまぁの厚底。

結構効いただろ。

「いい蹴りだ。でも、足りないな！」

「うわっ！？」

ガシッと足をつかまれ、そのまま強引に投げ飛ばされる！

あっぶねぇ……足の骨折られるのかと思ったぜ。

「新しく得た能力（スキル）身体硬化だ」

なるほど、硬化して防いだってわけね。

でも、それがあるなら俺の攻撃は全部それで防げたはずだよな？

なんでそうしなかった？

硬化……硬化……はっ！

そういうことか……

きっと、硬化している間は動けないんだな。

そうじゃないなら、俺の身体強化のように、常時発動させているはずだ。

それに硬化なら、天恵のように一定量のダメージを吸収する……とはまた違うはずだ。

おそらく防御力を上げるだけ。

カバーできないほどの攻撃を食らえばダメージは通るはずだ。

でも蹴りじゃだめ……パンチもダメだろう。

となると剣で斬るか銃で撃つか。

だがあいつの反応速度が高すぎて、肝心の攻撃が当たらない。

どうしたものか。

ガチャッ

「……ん？」

背後からの音に気付き、振り返る。

ドンッ！！

「のわぁぁぁ！？」

動視強化により、かろうじて視認した”何か”を避ける。

それは俺の横を通り過ぎ、優のほうへと向かう。

次の瞬間！

ドォォォォン！！！

激しい爆発が起き、俺は爆風に飛ばされる。

もちろん、周りにいたやつらも例外ではない。

「爆発弾か……てことは」

背後に目をやる。

そこには、銃を構えた河野がいた。

俺を殺そうとした……わけではないな。

もしそうなら俺は回避が間に合わなかったはずだ。

となると狙ったのは……

「はぁ、ひどいな。場外から不意打ちかよ」

爆発弾をまともに食らってなお、平気な様子でその場に立つ優がいた。

まじかよ……

いや待てよ……優（あいつ）、今爆発弾を避けなかった！？

それとも避けられなかったのか？

俺の攻撃は躱せても、銃弾を躱せるほどの反応速度ではないのか？

「特別弾の威力は銃依存……お前の銃じゃ足りなかったな？」

ニヤリと笑い、河野を見つめる。

その体には少しの傷も入っていない。

なんて頑丈なんだ。

「今お前はお呼びじゃねぇ、すっこんでな」

「ごふっ……！」

風のような速さで俺の横を駆け抜けた優は、その勢いのまま河野の腹へ強烈な飛び蹴りを入れる。

まともに食らった河野は後方へ大きく吹き飛び、壁へ激突する。

なんか……俺に腹けられて打ち上げられたり、彼女は蹴られまくりだな。

河野は壁へぶつかり崩れ落ちた後、ピクリとも動かない。

気絶したようだ。

まぁ、戦いの邪魔をされないからありがたい。

「邪魔は消した。さぁ、試合再開だ輝」

くるりと回転し、優は再び俺と正面から対峙する。正面からの斬りあいではらちが明かない……だが俺はさっき、一つの可能性を見出した。

気づかれないようこっそりと、片方の銃へ爆発弾を装填する。

この一発だ……これを起点に、一気に畳みかける。

同じ手は通用しないから、この希望がつぶれればもう終わりだ。

「すぅ……はぁ」

深呼吸し、相手の目を見る。

戦いのときは、視線の動きだけで動きを読まれてしまう。

目線を逸らすな、相手に悟られないように実行するんだ。

「行くぞ！　優！」

「来いよ！」

先に踏み出したのは俺。

相手の間合いめがけて踏み込む。

至近距離なら、相手の大剣は当たらない！

「大剣だけが武器じゃねーって、言ったよな！？」

目の前に相手の膝が現れる。

普通なら、これを顔面で思いっきり食らって鼻血の噴水だろう。

だが、俺はこのために突っ込んだんだ！

「わざわざ踏み台、ありがとよ！」

相手の膝へと飛び乗ると、その勢いを使ってジャンプする。

軽く四メートルほど飛んだが、爆発弾で天井を壊していたため、頭が天井に刺さることはなかった。

ちなみにこれは偶然……まったく想像してませんでした。

「銃弾の雨をプレゼント！」

空中から弾丸の雨をプレゼントする。

照準と追跡により弾丸は、正確に相手へと向かっていく。

「ちっ！」

やはり避けられないのだ。

優は剣で頭を、腕で心臓を守る姿勢でその場にしゃがみ込む。

その行動を、俺は待っていた。

「じゃあな」

ドォォォォォン！！！！

あらかじめ片方の銃へ装填していた爆発弾を優に向かって打ち込む。

河野の爆発弾とは比べ物にならないほどの威力だ。

「あちちちちち！！！」

距離が不十分だったのか、俺にまで火の粉が飛んできたのはカッコ悪いから内緒だ。

とはいえ、爆発の中心にいた優はただじゃすまないだろう。

悪いが今回は俺の勝ちだ。

「ありがとうな、剣志」

今回勝てたのは能力（こいつ）のおかげだ。

ともに戦ってくれた剣に感謝を伝え、鞘（さや）へと納めた。

ビュッ！

「なに！？」

背後からの気配に、後ろを振り返る。

ズガッ！

その直後、俺の肩を激しい痛みが襲った。