第40話 乱入者

(不可視!)

相手が動くよりも先に俺が動く。

不可視により相手の視界から消え、その間に一気に距離をつぶす。


「ぐっ……!?」


そして相手の腹へ思いっきり膝蹴りを入れる。

かなり本気で蹴り上げたので、その威力はかなりのもの。

河野は上へ打ちあがり、天井を破壊して二階へと吹き飛ぶ。


今ので肋骨は折れたか? いや、受け身は取れなかったはず、内臓を損傷してるかもしれないな。

だが悪いな、さっさと降りてきてもらおうか。


ドン! ドガァァァン!!!!

天井へと爆発弾を撃ち込む。

天井は崩れ落ち、それと一緒に河野も落下してくる。


「がはっ……はぁ、はぁ……」


やっぱり大ダメージ。

致命傷ってほどではないか……なにか防御系の能力スキルでもあるのか?


「もう一度言います。戦争をやめてください」

「ダメね……そんな甘いことを言ってたら、みんなの幸せなんていつまでも手に入らない」


「そうですか……なら」


ドン!

「ひっ……!」


周りにいる観衆の一人の顔ギリギリに弾丸を打ち込む。

狙ったやつは顔面を真っ青にしてその場に崩れ落ちる。

おおかた、自分は大丈夫だとでも思ってたんだろう。

そう思う時点で戦争なんてできない。

きっと全員、敵を前に逃げだすだろう。


「こんな腰抜けが集まっても勝ち目はありません。ですので、今から一人ずつ殺していきます。あなたが戦争をやめると言うまで」

「輝さん……あなた――」


「必要な犠牲……でしょ? 俺はこの場全員の人が戦争で死ぬのは嫌だ。だから止めます。そのために必要な犠牲なら、納得してくれますよね?」

「……!!!」


少々強引な手だが、ここで戦争は止めないと言って仲間を殺す人ではないだろう。

彼女の判断に刺激を与えるはずだ。


「戦争を、やめますか?」

「……」


「三、二、一……」

「待って!」


「なんですか? 俺は戦争をやめるという言葉以外必要ないんですが?」

「……」


河野はあたりを見渡す。

周りの観衆は全員、自分が死の危険に晒されたからか、泣きそうな目で河野を見つめている。

それに気づかないほど、河野も鈍感ではない。


「わかったわ……戦争は、回避する方針で――」

「その必要はないぜ?」


彼女が戦争回避を宣言しようとしたとき、あたりに男の声が響く。

もちろん俺の声じゃないし、周りのやつらの声でもない……この声は


「何しに来た? 優」


佐野優だった。

なんでやつがここに?


「いやぁ、たまたま通りかかったら、ビルの中がすげぇことになってるからさ、見に来たのさ。そしたら面白い話が聞こえたんで、お邪魔したってわけよ」


そういって親しげに話しているが、あいつは右手で背中の大剣の持ち手を握っている。

それはつまり、攻撃の準備をしているということ。


「悪いけどなぁ輝。戦争は不可避だ、世界の平和のために……こいつらが俺らの邪魔である限り。それを邪魔するなら、仮にお前でも……なぁ!」


そう言った次の刹那、優の姿が視界から消える。

俺の動視強化でもとらえられない速さ……異常だ!


「お前の長所は優しいところ、短所はその優しさ故の甘さだ!」


次に俺の視界に移った優は、もう間合いに入ってきていた。

しかも大剣を振り下ろし始めている。

剣を抜くのは間に合わない!

なら


「うぉ!?」


大剣の側面を思いっきり蹴り、弾き飛ばす!

それは予想していなかったのか、優は大剣ごと体勢を崩す。

その隙に死生剣を抜き、優へと斬りかかる。


優の大剣の恐ろしいところは、爆発能力スキルの乗った破壊力だ。

だがそれは標的が近くの状態で使えば自身もダメージを被る。

まぁ、大剣は防御能力スキル、天恵があるため、ある程度は防ぐだろうが。


「前よりは強くなったか?」


そのセリフとともに、強烈な横なぎが襲ってくる。

大剣は振り下ろすイメージが強かった俺は、少し反応が遅れる。

まずい! もらう! そう思った時だった。


カキーン!

「なっ!?」

「え?」


剣を握っていた俺の右手が勝手に動き、優の刃を止めたのだ!

俺は無意識だったため、とっさに疑問の声を漏らす。

優も俺が反応するとは思っていなかったようだ。

まぁ、”俺”は反応できてないけど。


能力スキル、剣志が発動しました)

これは……三十階層のボスを倒して手に入れたものだ。

確か、剣と発動者の脳をつなぐとか……意味が分からないから放置していたが。


だが、なぜか今ならわかる気がする。

優の動き、技が読めるのだ!

相手が次出してくるであろう行動、その対処方法が、なぜか手に取るようにわかる!

剣が戦いの情報を記録し、俺の脳に伝えているのだ。

今、俺は剣とつながっている!


「これはいい……! 優、やっとお前とまともに戦えそうだ」

「それは楽しみだな。なにせ、戦って手ごたえがあったやつは、あの武闘大会以来一人もいなかったんでな!」


突然の優の乱入、そして急な戦闘に驚きはしたが、なんとかなりそうだ。

今になって、ようやく能力スキルが目覚めたということか。

この能力スキルは、戦えば戦うほど成長する。

つまり、戦うほどに俺は、優の動きが分かるようになる。


「俺はさっさと帰りたいからな、お前を倒して戦争を止めて……それで幸せな気持ちで帰らせてもらうよ!」

「悪いがそうはならない。お前は必要な犠牲者の一人となり、あの世で平和を見届けな!」


武闘大会以来だ、優と戦うのは。

あの日俺は、打倒優を心に決めた。

今、それを成し遂げてやる!

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