第39話 合わなかった正義の形

「あれ、輝さん。ご自身の家に戻ったんじゃ?」

「ちょっと用事ができまして……ってそれより! 大変ですよ河野さん!」


先ほど起こった出来事を彼女に伝える。

早口でまったく説明になっていなかったが、彼女は丁寧に聞いてくれ、しっかりと内容を把握してくれた。

あぁ、学校にもこんな人がいれば、俺の説明下手も多少はマシだったかもしれない。


「その人たちは確かに、新世界平和組織といったんですね?」

「はい、確実に。あと、全員白い服を着てました」


「奴らは平和に行くつもりはないということですね……」

「どういうことですか?」


「ご存じの通り、新世界安定組織と新世界平和組織は対立しています。我々はこの世界で、全員が安定した暮らしができることを目指しています。でも彼らはその先……平和を目指しています。ですがそのやり方が問題で、我々と対立してしまっています」

「力で解決ですか」


「そういうことです。前の世界と違い、今は人殺しが罪にならない。なら、悪人を徹底的に消してしまえば、世界が平和になるという考えです」


でもそれじゃあ、仕方なく強奪ロブに手を染めた人……本当の悪人じゃない人たちも死んでしまう。

片っ端から悪人だと決めつけて殺すのは、いくら何でもほかの問題を無視した極論だ。


「それに、ここには我々の本部があります。その周辺で活動したということは、我々への挑発とも取れます。ロバートさんが言ったように、彼らは我々を組織ごと潰すつもりでしょうから」

「え……それって」


「戦争です」

「はい?」


「だから、戦争です」

「リアリー?(本当に?)」


「はい、本当です」


ちょっと待ってくれ……

急に話の規模が広がりすぎだろ……


「それって、代表が戦うとかじゃなくて?」

「はい、組織規模での戦争です」


おいおい、優!

それじゃ本末転倒だろ!

平和のために活動するのに同じく人を助けようとしてる組織をつぶしてどうするんだよ!


「おれ、ちょっとあいつに会ってきます!」

「危険です! あなたじゃボコボコにされるだけです」


「……?」

「あ! すみません……つい本音が……」


う~ん……?

これは俺、キレていいやつだよな?

優しい男代表の俺だが、これはさすがにキレそうだぞ?


「じゃあどうするんですか!? 止めないと戦争ですよ!?」

「でも、これに勝てば今度こそ、世界は平和に近づくんですよ!?」


「はぁ? あなた今何を言ってるのか分かってるんですか!? それは戦争を受け入れるってことですよ!?」

「そうです! それで勝てば、みんなが安心して暮らせる世界に大きく近づくんです!」


「だからって犠牲者を出すと!?」

「そうです!」


「それじゃあいつらと何も変わらないでしょう! 仕方のない犠牲だと割り切るなら、それは悪人を仕方ない犠牲だと割り切って裁くあいつらと同じだ!」

「あなたは甘い!」


「……!」


穏やかだった彼女の表情は一転、真剣で……少し怒っているような表情になる。

まぁ、俺もそれは同じだ。

彼女の考えに、俺は賛同できない。


勧誘されたとき、俺は入らなかったが正解だったようだ。

俺は戦争に賛成できない!


「そうやって、仕方ない仕方ないって……それじゃあいつらと同じってなんでわからない!? どうせ仕方ないで人の命を無駄にするなら、人殺しと同じだ!」

「……はぁ、残念です。あなたなら、私たちに賛成してくれると思っていました」


ガチャ!

突如響いた音であたりを見渡すと、全員が俺に向かって武器を構えていた。

河野さんも銃口をこちらに向けている。

あぁ……全員もとからそのつもりだったってことか。


「そうやって……守るもののためだって自分を洗脳して、騙して……それで人を殺して満足か!? 人も自分も傷つけて、それで被害者面して満足か!?」


悪いがもう俺の怒りは頂点だ。

新世界安定組織と新世界安定組織、どちらかというなら前者のほうがいいと思っていた。

だが、結局こいつらも一緒だった。

目的のためだと割り切り、たくさんの血を流す。

俺から見れば悪だ!


「我々の味方になってください、高橋輝さん。でなければあなたはもう帰れませんよ」

「……ロバートは、このことを知ってたのか?」


「彼は知りませんよ。知らせればきっとあなたと同じようになってしまう。彼は大きな戦力です、失うのは惜しい」

「なら、なぜ俺には話した?」


「あなたは何度も佐野優と接触している。なので試しました。この話を聞いても我々に賛同してくれるなら、ぜひとも迎え入れるつもりでしたが」


あっそう。

なら、尚更俺は帰らないといけない。

ロバートをだまして人を殺させる……そんなことは絶対にさせねぇ!


ドンッ!

「死にたい奴からこい!」


天井に向かって一発銃弾を放ち、叫ぶ。

だが、恐怖したのか俺に向かってくるやつはいない。


「どうした? 仕方のない犠牲なんだろ!? それが自分になるだけだろ!? なんで来ない? 自分が犠牲になるのは嫌か!?」


図星だろう。

全員があたりを見渡し、お前が行けよ、と言わんばかりに互いの顔を見つめあう。

結局……結局自分が犠牲になるのは嫌なんじゃねーか。

じゃあなんでわからないんだよ……全員死にたくないって思ってるのに何でわからねーんだよ!


「私が相手になりましょう。私が負ければ、この組織はあなたに預けます。好きなように使ってください」

「こんな腐った組織なんかいらねーよ。お前らの”正義の形”は俺には合わない」


俺に勝負を挑んできたのは河野だった。

組織のリーダーとして、ここで俺を殺せば彼女の信頼は最高となるだろう。

まぁ、”殺せたら”の話だが。


「死ぬのが怖くないのか?」

「戦争で人を殺すつもりなのに、怖がっててどうするんですか?」


「お前の部下たちはそれが怖いらしいけどな」

「……ふん、まぁ結局は逃れられない運命さだめです」


互いに武器を構える。

周りにいたやつらは戦いの邪魔にならないようにか、それとも巻き込まれるのが怖くてなのか、後ろへと下がる。

だがそのおかげで十分に戦えるスペースができた。


「予想もしてなかったですよ。まさかあなたと戦うなんて」

「残念ですよ、あなたと一緒に、平和な世界を築きたかった」


「あなたの平和を、俺は平和とは認めない」


運命ってわからないものだな。

親しげに話していた相手と、急に殺しあうなんて。

でもまぁ、もう始まったんだ。

相手が俺を殺す気なら、俺も相手を殺さないといけない。

じゃないと俺がやられるから。


こうして、新世界安定組織設立者、河野と輝の戦いが始まった。

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