第38話 強奪の制裁
「はぁ、なんか安心する……」
俺は一度河野さんと別れ、八瀬家の家へと戻っていた。
何も言わずに消えては、心配をかけてしまうと思ったからだ。
「安心? 輝さんの家に似てるってことですか?」
「いや、ちょっといろいろありまして。平和だな~って」
「何があったんですか?」
「ちょっと鬼ごっこに巻き込まれまして……」
「輝さんも子供みたいに遊ぶんですね」
「ははは……」
まぁ、あの鬼ごっこは遊びとはかけ離れた……死の
「とりあえず、僕は一度家に帰ろうと思います。ずっとここにお邪魔していては迷惑でしょうし、時間も経ってるので」
現在時刻は三時。
もうお昼は過ぎたから帰っても大丈夫だろう。
だが一つ問題がある……
腕……どうしよう。
必死だったので気づかなかったが、まだ完治もしていないのに腕を使ったせいで、また少し傷が開いた。
こんなのを母さんたちに見られたら、また晩御飯も”あれ”が来てしまう!
それは嫌だ!
「輝さん……なんか顔色悪いですけど大丈夫ですか?」
「大丈夫です……ただ、ちょっと先が憂鬱でして」
「何かあるなら相談してくださいよ?」
「いえいえ、これ以上迷惑をかけてはだめですので。僕はこのあたりで失礼しようと思います。あ、そうだ……」
ピコーン
八瀬啓太に、連絡先交換を申請しました。
(承認)
(十万ルディを送金します。よろしいですか?)
はい
「え!? 輝さん……これは!?」
「お世話になった分と、少しでも生活の足しにしてください」
「いえ、大丈夫ですから! 返します!」
「じゃあ捨てます」
最強の返し方だ。
これを言われては、受け取るしかあるまい。
「じゃあ、ありがたく。本当にありがとうございます! ほら、お前たちも!」
「じゃあね、輝お兄ちゃん!」
「あぁ、ばいばい」
三人の女の子が、壁からひょっこりと顔を出し、笑顔で見送ってくれる。
俺は笑顔で手を振り返し、その場を去った。
八瀬家……ここでも新しい出会いがあったな。
死なないでほしい……またいつか会えますように。
「うらぁ! くそ野郎どもが!」
「……ん?」
晩御飯から逃げる作戦を考えながら歩いていると、何人もの叫び声が聞こえた。
まったく、落ち着きのない街だな。
さっき一難あったばかりだってのに。
正直関わらなくてもよかったが、俺は一度気になったら落ち着けない人間。
興味のままに、声のするほうへと向かった。
「うっ……こりゃひどい……」
声のする場所へとたどり着くと、そこには人の死体があった。
死因は胸の傷……貫通してるな。
「死ね! くそが!」
目の前では、何人もの人が争っていた。
単なる喧嘩などではなく、互いに武器を持っている。
それにしては大規模だな。
乱闘……というよりは、二つのチームが戦っているように見える。
なんか白い服を着た人たちが、ほかの人を攻撃している。
おそらく、あの白い服を着た人たちがチームなのだろう。
で、それ以外の人がもう一つのチームか。
とりあえず、止めなきゃな。
ドーン!!!!
「そこまでだ。全員動きを止めろ!」
俺が空に向かって放った一発で、その場は静まり返った。
全員が、なんだこいつ? という目で俺を見ている。
「誰だあんた! 邪魔するなら容赦はできないぞ!?」
「落ち着け、なんでそんなすぐに戦う判断になるんだ? そんなに殺しが好きなのか?」
「んだとてめぇ!」
おっと、まずい。
今のはかなりイラッとしたらしい。
かなりキレた様子で、俺をにらんでくる。
「俺らをこんなくそどもと一緒にするんじゃねえ! 新世界平和組織に喧嘩撃ってんのか!?」
新世界平和組織……優の造った組織か。
確か、平和のためなら悪を殺すことも容赦しないとか。
「一応聞くが、なぜおまえらは争ってんだ? おやつでも盗まれたか?」
「そこに転がってるたくさんの死体が見えないのか? こいつらが殺したんだよ!
まぁ……うん。
そうだね?
普通に考えれば確かに、悪人を消せば平和になるかもだけどさぁ……
「そんな極論で、世界は成り立たねーよ。実際、この世界では
「生きる術とか、そんなの関係ねーんだよ! 人を殺した……これはもう悪だ!」
「あのなぁ……お前は生活費が稼げてるからそう言えるけどさ、全員がそうじゃないんだぜ?
「……うるせーな……! じゃあお前は
「いや……そういうわけじゃ……」
「お前ら! 悪人を庇うのも悪人だ! やっちまえ!」
俺……よくトラブルに巻き込まれるな。
そういう星のもとに生まれたからか、今年のおみくじが凶だったからか……
それとも勝手に友達のプリンを食べたバチなのか……
ドォォォオン!!!!!
相手の横すれすれに爆発弾を放つ。
爆発弾は相手の少し後方で巨大な爆発を起こし、あたりを吹き飛ばす。
あ、建物がない場所だから人的被害はないよ? 多分……
「全員、そのまま回れ右して帰れ! 死にたくないならな!」
特別弾の威力は自身の銃の威力依存だ。
だから俺の銃から放たれる特別弾の威力は、ほかのやつらの物とは比較にならない。
銃を使う奴なら、今ので俺の(武器の)ヤバさがわかるだろう。
「爆発か……だが至近距離じゃ使えねーだろ!!」
だが剣とかを使う奴らは、今のじゃわからない。
爆発は使えないだろ! と俺に突撃してくる。
はぁ、こういう時、素直な子なら楽なのにな。
(不可視! 身体強化!)
「なに!? 消えた!? グハッ!!」
姿を消し、殴りかかってきた相手の腹へ蹴りを打ち込む!
身体強化によって威力が増加した蹴りは、いくら手加減をしているとはいえ、かなりのダメージだろう。
食らった相手は、腹を抱えながら崩れ落ちる。
「ゴホッ! ガハッ!」
「り、リーダーが一撃で!?」
「あぁ、こいつリーダーだったんだ」
俺のイメージだと、偉いやつは後ろから命令だけする感じだったんだが……
まさか真っ先に俺を攻撃してくるとは……漢じゃねーか。
「で? どうするんだ、まだやるか?」
「お、覚えてろよ! お前なんか、優さんが一撃で倒すんだからな!」
捨て台詞はよく悪役が言うセリフなんだな……
もう少し、かっこいいのはなかったのか……
とはいえ、いくら状況が状況だったとはいえ、優の組織の人間に手を出した……
あいつとの間に亀裂が生まれるかもな…
「それで? お前らはなんで
「だ、ダンジョンじゃ
夫婦なのだろう。
俺の質問に答えた男の腕を、横にいた女性がぎゅっと握る。
「他のやつらもだ。
「お、俺もダンジョンが怖くて……」
「私も……」
全員、体は健康的に見えない。
仕方なくっていうのは本当らしいな。
犠牲者は十数人……おそらく、新世界平和組織が来るまでは乱闘状態だったんだろう。
「はぁ……これは最悪な悲劇だ。だがそれは人が死んだことだけじゃない。この状況になってしまったこともだ。そしてその根本を作ったのは神。俺にお前らを殺す資格はない。ただ今後、頼むから
俺は全員に深々と頭を下げた。
全員、戸惑った様子で無言のまま俺を見つめていた。
すこし時間がたったところで頭を上げる。
「その場しのぎにしかならないかもだが使ってくれ」
俺はそこにいた人全員に二万ルディずつ配った。
本当に大した額ではないが、少しの間はしのげるはずだ。
「ありがとうございます!」
「生きてくれよ……全員」
その場を去り、俺はある場所へと向かう。
今、最も向かうべき場所へ。
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