第37話 現れたのは救世主?

「やばいやばい! このあたりの地形まったく知らねーぞ!」


突如始まった少女との鬼ごっこ。

食われてたまるか、と俺は東京の町中を走り回っていた。

もちろん、相手から逃げ切ることはできていない。


「食べてやる~!」


こればっかり言ってくる。

背後からそれだけを聞かされながら走るこっちの身にもなれよ!

聞いたことないわ。

音楽を聴きながらならまだしも、殺害宣言を受けながら走るとか!


「くそ、この手だけは使いたくなかったが、死ぬよりはマシだ」


俺はどこからともなく、ビニール手袋を取り出し、手にはめる。

そして”あるもの”を探すため、住宅街へと走っていく。

どこかにあるはずだ! 都会だと田舎より少ないだろうが、必ずあるはずだ!


目に神経を集中させ、”あれ”を探す。


「はっ! あった!」


俺はすぐさま、地面に落ちていた”あれ”を拾い上げる。

後ろの少女との距離を確認し、十分な距離か確かめる。


「くらえぇぇぇ!!!」


ブンッ!

俺は思いっきり、持っていたものを投げる!

身体強化によって投げられた”あれ”は、とてつもない速さで飛び、少女の顔へと当たる。


「そしてすぐに逃げる!!!」


さっき河野さんが腐った弁当を投げてキレたのだ、”あれ”はもっと怒るに決まっている!

そうなる前に、俺はそそくさとその場を立ち去ろうとする。


「くさい! 許さない!」


振り向くと、鼻を抑える少女がいた……が、俺が投げた”あれ”は直撃していない!


「まさか、結界バリアで防いだのか? まぁ、匂いまでは防げなかったか」


ここまでくると、気づいている人もいるだろう。

その辺で拾った、臭い、手袋をつけないと俺も触りたくない。

そう、それは!


「これ……犬のフン!? も~! 絶対に許さない!!!!」


そう、犬のフンだ。

効果は抜群、強烈な匂いによって、彼女の足を止めることに成功した。

余計怒らせるという代償を払って……


「じゃあ、ちゃんとフンの処理はしてね。さよなら!!!」

「逃がすか!」


俺は光のような速さでその場を立ち去る。

だが彼女も素直にフンの処理をするわけがなく、激昂した様子で俺を追いかけてくる。


「輝さん、そいつと距離を取って!」


どこからか、河野さんの声が響く。

言われた通り、俺は足に力を込めて一気に加速する!

そして少女との距離がある程度開いた瞬間!


ドン! ドン!

二発の銃声が響く。

パキーン! ドォォン!


そして、少女を氷と爆発が襲う。

凍結弾と爆発弾だ。


「あなたの動きを読んで、先回りしていて正解でした。なんとか倒せましたね」


上から河野さんが降ってくる。

スタッと静かに着地した彼女の手には銃が握られている。


「助けてくれてありがとうございます……でもまだ終わってないみたいですよ」

「うそ!? 凍結弾と爆発弾を撃ち込んだんですよ!?」


確かに、その二つは最強の相性だ。

凍った敵を爆発弾で砕けば、対象はその場で即死する。

普通なら……だが


「アイスとパチパチだ! ひんやり刺激的!」


煙の中から、満足げな表情の少女が姿を見せる。

口の周りは凍っていて、口の中からは煙が上がっている。

まさか……こいつ!


「弾を……食べたの……!?」

「みたいですね……」


冗談も程々にしてくれ!

三十階層のボスですらも葬れる戦術だぞ!?

それを普通の生き物……人間が耐えられるはずがない!

というか、食うってなんだよ!? 普通防御魔法か何かで防ぐだろ!?


「こいつ……本当に人間かよ……!?」

「それ以外に何があるんですか!? ダンジョンから出てきたとでも?」


いや……まぁそれはあり得ないが。

見た目も人間だし言葉も通じてる。

まぁ……翻訳機能があるから日本語をしゃべっているのかは知らないが。

だが翻訳機能は人の言葉しか翻訳しないため、モンスターではないことは確かだ。


でも……それにしてもいろいろと異常なんだよな。

人を食べるみたいだし、何より凍結弾と爆発弾を食べるなんて……あり得ない。


「逃げてもダメ……ならまともにやるしかないか」

「何言ってるんですか!? 爆発弾を食べちゃうやつですよ!? いくら輝さんでも危険です!」


「だからって逃げててもいずれつかまりますよ!? それに、こんなやつを野放しにはできません!」


死生剣を抜き、構える。

この剣の固有能力スキルは不壊、食われることはないはずだ。

丸ごと食われない限りは……


「食べられる気になったの?」

「いや、お前なんかに食われちゃ、たまんねーぜ」


互いに向き合い、戦いを開始しようとしたその時だった!


『おっと、そこまでだぜ? 二人とも』


男の声が響く。

どこだ?


『今そいつを殺すことはできねぇ。ひとまず帰るぞ、心優こころ

『え~ せっかく見つけたのに!?』


『リーダーからの指示を忘れるな。”可能なら”殺してもいい……だ。確実じゃないのに命を懸けるメリットはねぇ』


少女の後ろから、一人の男が現れる。

ウィリアムだ……武闘大会で圧倒的な強さを見せた剣使い。

なんであいつが日本ここに?


『高橋輝、今日はここでおさらばだ。まぁ、せいぜい長生きしろや』


心優と呼んだ少女の手をつなぎ、ウィリアムは去っていった。

呼び止めようと思ったがやめた。

どうせ何を言っても話してくれないだろうから。


「はぁ~ とりあえず助かりましたね」

「びっくりしましたよ、あんなのと戦うって言いだすんですから」


正直言うと、死を覚悟した。

だが突如現れたウィリアムによって、何とか助かった。

まぁ、あいつは別に俺を助けようとしたわけじゃなかったみたいだが……


とりあえず、この件はみんなに知らせる必要がある。

特に、新世界安定組織に所属する人たち……ロバートさんにも。

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