第25話 要求

「わざわざリーダーが来てくれくれるなんて。手間が省けて助かるよ、なんで先に他の奴らをこっちに来させなかった?」

「三万円に惹かれてきた奴らの実力なんてたかが知れている。無駄に死なれても、ここを掃除するのが大変なんですよ。なので待機を命じています。」


「そんなにたくさんの可能性を考えれるのに、自分が俺に殺されるって結論には至らなかったのか?」

「世界上位者だからと浮かれているようですが、あなた自身がまるで弱い。嫌いなんですよ、何の努力もせず、運だけで調子に乗る奴らが、私はとても嫌いだ」


「確かに俺は弱い。それは自覚しているし、調子に乗っているわけでもない」

「ならなぜここに一人で来たんですか? 調子に乗ってるじゃないですか」


「お前くらい、武器の性能スペックで抑え込めるってことだよ。俺の強さじゃない、”武器”の強さで……だ」


その瞬間、北見はとても深いそうな表情を浮かべる。

どうやらかなりしゃくに障ったらしい。


「それを調子に乗ってるって……言ってんだよ!!!」


さっきまでの丁寧そうな口調はどこへ行ったのやら……

完全にブチギレた表情で剣を振りかざしてくる。

でもまぁ……遅いな。

ウィリアムの剣を見たことがある奴らなら、こいつの剣がスローモーションに見えてしまうだろう。


「一般人よりは遥かに上かもだけど、まだ”頂点おれたち”には届かないね」


銃身で剣を受け止め、もう片方の銃を刃に向けて発砲する。

ここで刃が砕ける……と思ったのだが。


カンッ

刃に当たると同時、俺の放った銃弾ははじき返されて壁へとめり込む。

確実に当たったはずだが、敵の刃には一切傷がない。


「なるほど、不壊ふかいか」


俺の持つ死生剣と同じ固有能力スキル不壊ふかい

剣の形を常に保ち続ける……つまりは破壊されることがないというかなり便利なものだ。

つまり武器の破壊は不可能……


予定では、こいつの武器を破壊して無力化した後に”優しく”いろいろと聞き出すつもりだったが、それはできないらしい。

まぁ、こいつを殺せばすべて解決だが、理由も目的も分からずに殺すのはあまりいい手段ではないだろう。

もしかしたら、裏ではもっと大きな何かがあるのかもしれないしな。


「俺は優しいからさ、今のうちに選ばせてやるよ。死ぬか降伏か……どっちがいい?」

「はは、そうやって焦らせる作戦ですか? 私を殺すなんて、あなたには無理ですよ!」


……こいつ、さっきから全く能力スキルを使わないな。

確かに適当に振り回しても、当たれば致命傷になるが、俺には当たらない。

それが分かっておきながら、なぜ能力スキルを使わない?

まさか、攻撃系の能力スキルがないのか?


「ほら見ろ! さっきからお前は、私の攻撃を防ぐだけで精いっぱいだ! これが努力だ! これが努力と運の差だ! どんな天才でも幸運者でも、最大限の努力には勝てないんだ!!」


こいつ、さっきから努力努力って……明らかに普通じゃないよな? 努力への執着が。

過去になんかあったのか?

じゃなきゃ、こんな努力連呼男が誕生するとは思えない。


「お前、過去になんか悲しいことでもあったか? そんなに努力って連呼して」

「あなたなんかに話したところで分かるわけもない。さっさと消えろ!」


斬撃のスピードがさらに上がる。

流石に銃では対応しにくくなってきたため、俺も剣を抜いて応戦する。


「はっ! 剣と銃の二つ使いだと? 笑わせる。そんな中途半端な状態では、大した実力も持てないだろうに!」


こいつ、口ではこう言ってるけど、俺……全部の攻撃を防いでるんだよな。

お前、一撃も俺に当たってないからね? さっきから。

全部見えてるのよ、動視強化で。

これ以上話しても心は変わりそうにないし、一旦無力化するくらいのダメージは入れさせてもらうか。


「努力にとらわれてるお前に一つ、いいことを教えてあげるよ」

「なに……?」


俺は思いっきり死生剣を振り上げ、相手の腕を斬る。


「世界ってな、不平等なの。どれだけ努力しても、届かないものってあるんだわ」


ザク……

斬った腕から真っ赤な血が流れ出る。

うっ……自分でやったことではあるが、気持ち悪い……

人の血って、どうしても慣れないんだよな……


「わぁぁぁぁ!? 腕が……! 腕がぁ!?」


自身の腕を抑え、その場にしゃがみ込む。

斬った場所からは絶えず、赤い血液が流れ続けている。

だがまぁ、強く抑えて止血すれば大丈夫なくらいだ。

骨に届くほど深くは斬っていない。

でも、痛いのは痛いだろう。

勢いあまって結構広く斬っちゃったからね。


「な? 世界はすべての努力を認めてくれるほどやさしくないんだよ。真面目な奴が得することもあれば、人に媚びるだけの奴の方が評価されることもある」


実際、世間からの評価と個人からの評価の両立なんて不可能さ。

どちらかを犠牲にしないと、高い評価はもらえない。

そんな世界さ、今の社会は。


「それでどうする? 死ぬか、情報を吐くか」


剣の先を北見へ突きつける。

絶望に満ちた表情で、涙を浮かべながら北見は俺の方を見る。

おいおい、そんな泣くなよ。

なんか罪悪感が出てくるんですけど!?

この事件を始めたの、君だからね?

俺ちゃんとさっき聞いたよ? 死ぬか降伏かって。


「ま、待ってくれ! 俺は梅田うめださんに会いたかっただけなんだ! それだけなんだよ!」


ほ~う? 面白いことを言うね。

会いたかっただけなのに誘拐しようとしたと?

ちょ~っと無理があるんじゃないでしょうか?


「ほんとうだ! ちょっと不器用だから、こんな形になってしまったけど……会いたかったのは本当だよ!」


ちょっとどころじゃねーだろ。

お前、俺が見た中で一番不器用だわ!

住所も分かってんなら自分で会いに行けよ!

なぜ誘拐しようとした!?


「とにかく、ここに彼女を連れてきてくれ……もちろん君も一緒でいい。だから頼むよ……な?」


急に弱々しくなったな。

まぁ、恐怖に勝てる人間なんてそう簡単にはいないってことだな。

とはいえ、俺同行でもいいって言うなら、彼女次第では連れてきてやってもいい。


「今から帰って聞いてきてやる。来る来ないにしろ、今日中に俺が連絡しにもう一度ここへ来る。それまで待ってろよ? 絶対に!」


念のため少し圧をかけ、俺はアジトを後にした。




「はぁ、まだ午前二時過ぎ……梅田うめださんを起こすのは流石に申し訳ないよなぁ?」


とりあえず家には帰ってきたが、まだみんなぐっすり眠っているようだ。

部屋を隔てるぶ厚い壁を貫通して、父さんのいびきが聞こえてくる。

壁に張るタイプの防音シートってのがあるらしいし、俺も買って張ろうかな?


とりあえず、起こすのは申し訳ないという結論に至り、七時に目覚ましをセットする。

今から七時まで寝て、その後に聞くとしよう。

そうだ、北見あいつには”今日中”と伝えたんだ。

別に急ぐ必要はない。

それにあいつも腕の傷を治療する時間が必要だろう。






ジリリリリリリリリリ!!!!!

はっ……!

もう七時か……五時間ってこんなに早く過ぎるものだっけ?

まぁ、太陽がにっこり顔を出しているのを見ると、本当にもう七時のようだ。


てるさん、侵入の方はどうなったんですか?』


下に降りて一番に、ロバートが声をかけてきた。

あぁ、そういえば今日アジトに行くとは伝えたが、あんなに早くに行くとは伝えてなかったな。


『もう行ってきましたよ。それで、今から梅田うめださんに結果を伝えに行くところです』

私も聞いていいですか?』


『全然かまいませんよ。どうぞ』


ということで、俺とロバート、梅田うめださん一家の計五人で集まり、俺が結果を報告する。

俺の両親には上で待機してもらってる。

居るとうるさいし、何より狭いからだ。


「まず結果から言いますと、北見が今回の計画の主犯です」

「やっぱり、先輩が……」


「それでなんですけど、あいつから一つお願いをされまして……梅田うめださん自身に決めてもらいたいんですが……」

「私に? なにをですか?」


「北見が会いたがってるんです。僕が同行でもいいとのことなので、北見に会いますか? ということを」

「反対です! あいつは娘を誘拐しようとしたんですよ!?」

「ちょっとあなた、落ち着いて!」


「……すみません。取り乱しました……」


梅田うめださんのお父さんが興奮して立ち上がる。

それをとっさにお母さんがなだめるが、まぁ気持ちはわかる。

というか、俺も会わせたい会わせたくないで言えば、会わせたくはない。

なにせ、あいつが何を考えているのかも分からないのだ。


「彼の目的が何かは、俺も分かりません。ただ、俺が行くからには彼女に触れさせませんよ。そこだけはお約束します。で、それを踏まえたうえで、梅田うめださんに判断してもらいたいな~って」

「……行ってみます」


「おい!? 由井!?」

「父さん! 先輩だって、本当の悪者ってわけじゃないと思うの。それに、てるさんが絶対に守ってくれるんですよね?」

「はい、必ず」


「ほら、ならデメリットは何もないでしょ? 行くだけ……それだけでいいんだから」


あぁ、なんというポジティブ思考。

もし俺が守れなかったらということを全く考えていない、俺への絶対的信頼!

いやぁ、嬉しいな。


「……それでもだ、由井。相手はお前を誘拐しようとした奴だぞ!? そんな奴に悪者以外の何がある?」

「そうやって表だけ見るから、世界からは裏がなくならないの!」


「……っ! 分かったよ……でも、絶対に帰って来いよ?」

「分かってる」


お父さんはついに折れたのか、無言でその場から立ち去ってしまった。

お父さん、分かりますよ? そりゃ、娘が自分を誘拐しようとした男の所に行くってなったら、不安だよ。

ここは一旦、俺が直接言って少しでも不安を和らげるか。


そう思い、お父さんの後を追った時だった。

玄関の扉の先……外からお父さんとお母さん、二人の話す声が聞こえた。


「なんであんなに由井のことを心配しているのに、自分もいかせてくれって言わなかったの? あなたの性格なら、絶対に言うと思ったけど」

「悔しいが、俺は無力だ。俺が言ったとしても、てるさんの邪魔をしてしまうだけだろう。それに、彼は娘を保護し、無事に私たちの元へと返してくれた。彼以上に信頼できる人など、今はいないだろ」


……あぁ、そんなに信頼してくれているなんて……

これは俺も、絶対に応えないとだな。

約束しますよ、お父さん。

貴方の娘さんは、必ず守ります!






「じゃあ、行きましょうか。場所はここです。ついてきてくださいね?」

「はい、分かりました。じゃあお父さん、お母さん、行ってきます」

「……絶対に、帰って来いよ!」


梅田うめださんを連れ、俺は再びアジトへと戻った。

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