第24話 アジトへ侵入しました

『ロバートさん、少しお話が』

『なんでしょうか?』


俺はリビングでお茶を飲んでいたロバートに声をかけた。

訊きたいことと、お願いしたいことがあったのだ。


『明日、僕は今回の事件の主犯候補、北見を探しに出ます。その間、梅田うめださんたちを守ってほしいんです』

『あなたは敵に顔が割れている。私の方が近づきやすいのでは?』


『相手に、むやみにこちらの戦力を晒したくないんです。あなたはこちらの最高戦力で唯一顔が割れていない存在だ。それに、顔が割れている俺が行くことによって、もしここがバレていたとしても敵を油断させることができる』

『分かりました。もしもの時は、この老人、全力で彼女を守りましょう』


ついさっき、部屋に来た彼女に、俺が絶対に守ります、と言っておきながら、速攻ロバートに頼っているが、まぁ許してくれ。

最終的にはこれが、彼女を守ることにつながるのだ。


『それと一つ質問』

『何でしょうか?』


『あなた、北見を知ってますよね?』

『!?』


予想外すぎたのか、彼は目を見開く。

視力を失っていると装うために閉じている左目も開けてしまうくらい驚いたようだ。


『……なぜ?』

『あなたを疑ってるわけじゃないですよ。ただ聞いただけです。”世界安定組織”を詳しく調べているあなたなら、知ってるのかと思い聞いただけです。まぁ、知ってたみたいですけど』


本当にただ、気になったから聞いただけだ。

でも、どうやら本当に心当たりがあったらしい。

いやぁ、行動に移してみるものだねぇ。


『北見……世界安定組織は彼にもメッセージを送っていたようです。ただ彼は断った。理由は、自分のやりたいことが組織の考えと敵対するものだから』

『そのやりたいことってのが、今している”これ”なら、世界の安定を目指す組織と敵対するって言うのにも説明が付きますね』


北見への疑いがどんどんと現実味を帯びてくる。

やはり、無関係では通れない存在のようだな。


『本当に、それしか知りません。でも、なぜあなたは北見が組織と関係があると思ったのですか?』

『組織はランキング上位者に声をかけている。それさえ知っていれば、予測するのは簡単でしょう?』


これで、ロバートへの要件は終わりだ。

あとは明日の準備。

北見の居る場所を探すところからだが、そこに関してはかなり早く割れそうだ。

逃がして正解だったよ……野沢くん?

これ以上俺たちと敵対しないことを条件に逃がしてやったが早速裏切ったか?



ピッピ

実は俺は、梅田うめださんの家で捕まえた野沢に、自身のスマホを仕込んだ。

俺のスマホには発信機が付いており、メニュー画面からその信号を追える。

縄をほどいて逃がしたのも、このためだ。

いやぁ、我ながらいい考え! 


信号は、さっきからずっと同じ場所で止まっている。

しかもそこは家ではない。

巨大なビル……ここが敵のアジトか?

とりあえず、行ってみる価値はあるな。

メモメモっと……


さて、今は十八時か……よし! 寝よう。

早すぎる? いやいや、明日に備えなければいけないんだ。

許してください。




次の日……


「よし、行くか!」


現在時刻、午前一時ちょうど。

次の日になってからまだ一時間というかなり速い時間に俺は起きた。

まだ空ではお月様が微笑んでいる。

だが月が微笑んでいるということは、大多数の人は寝ているということ。

つまり! 敵のアジトへの侵入が容易くなる。


今回は敵の規模が謎ということで、最悪の場合、逃走も視野に入れておく。

ということで、爆発弾を十発購入した。

凍結弾は、人に使うと危険すぎるので今回はやめておく。

何せ人が凍ったらどうなるかも分からないうえ、砕けたら死んでしまう。


爆発の方が危険だろ?

大丈夫、人には当てないよ。

壁とかを崩して追っ手をまくためのものさ。


ちなみに、銃専用の特殊弾は他にもある。

強烈な酸をまく酸弾さんだんに、相手の体内に入って力を奪うウイルスを打ち込む狂弾きょうだん……いや、グロくね?

この辺は流石に……というか当然却下だな。


「おやつは持った、地図マップも持った、弾丸も持った、武器も持った、双眼鏡も持った。準備万端だな!」


では早速出発するとしよう。

え~っと、このビルがアジト候補だから……隣のビルに移動するか。


地図マップを使い、隣に位置するビルへと移動する。

こちらの方が、アジトのビルより少し高く、上から観察することができる。


「いや、寒!?」


真夜中がこんなにも寒いとは思わなかった。

長袖ではあるが、かなり薄いものを着てしまったし、上着など持ってきていない。

う~ん、やらかした。

今から家に戻るか? いや、そもそも上着は下の階に置いているから、取に行くとみんなを起こしてしまう。

我慢我慢。


双眼鏡を使い、アジトの中の様子を確認する。

ふむ、真っ暗だな。

いくらアジトとして使っているとはいえ、電気は通っていないらしい。

窓際にろうそくが置いてあるのを見ると、光源は火か。


月光が当たる部屋しか見えないが、中にはあまり人はいないように見える。

やっぱり、計画に参加していても、家を持つ人たちはそっちにいるのか?

だとしたら彼らは、家すらもない人たちか、それとも護衛として集められている人たちか……


北見らしき人物の姿は見えない。

まぁ、リーダーなら建物の奥にいるってのがお約束だよな。


「リーダーは奥……ビルなら最上階付近……だよな?」


これ以上観察しても進展はなさそうだ。

乗り込んでしまおう。


「一……二の……三!!!」


走り幅跳び三メートルという、平均を大きく下回る記録の持ち主、高橋輝たかはしてるが、今ビルの屋上から飛び降りました!


とはいえ、こちらのビルの方が高いし、身体強化もあるということで、俺の脚力でも簡単にアジトの屋上へと飛び移ることができた。


グキッ

「うっ……あぁ……」


まぁ、身体強化があっても着地が下手ならこうなるのだが。

両足でかっこよく着地するのが理想だったが、片足ずつで着地……しかも右足は変な角度で地面に着いたため、無事に右足首から悲鳴が上がった。

俺、前もダンジョンで着地をミスし、うめき声をあげた気がするんだが気のせいかな?


少し座って、右足首から痛みが消えるのを待ってから、ついにアジトの中へと侵入する。

ドアの音が大きいことを恐れたが、今回のドアは良質だったようで、スーっと素直に静かに開いてくれた。

そこから階段を降り、一階下へと降りる。


神が俺に微笑んでいるのか、ちょうどビルの構造が示されたパンフレットを見つけた。

早速それを一枚頂戴し、構造を見る。


今俺がいるのは最上階……十六階だ。

この階は三つの部屋に分かれており、休憩室、ミーティング室、そして社長室だ。

ここは何かの会社だったのか。


敵がいるとしたら……休憩室か。

社長室は窓が多く、外から丸見えだから絶対にないだろう。

ミーティング室は出入り口が一つしかない。

つまり敵が入ってきたら逃げられない。

だが休憩室は出入口が四つあるうえ、かなり広い。

窓も小さいものが二つ付いているだけなので、人目にも付きにくい。

まぁ、こんな高所を見られるところなんて、この辺りだとさっき俺がいたビルだけだろうけど。


休憩室……ここから一番遠いな。

それにもし戦闘となった時、下から敵が上がってくるかもしれない。

そうなった時にどうするか。

爆発弾で床をぶっ壊してもいいが、下の階にいる奴らが死んでしまう可能性がある。

それは嫌だな。

死なれたら俺の記憶に嫌な思い出が刻まれてしまう。


あれ? でも待てよ。

俺って前回ダンジョン行った時、二十六階層から三十階層まで落ちたよな?

その時着地はミスしてしまったが、けがはなかった。

それだけ身体強化の効果が大きいということ。

というか、このビルの高さよりもダンジョンで落ちたときの高さの方が高いような……

いや、確実にダンジョンの方が高い!

なら、最悪の時は壁をぶっ壊して飛び降りればいいじゃないか!

よし、決まりだ。




ソロ~……ソロ~

足音をできる限り消し、休憩室を目指す。

歩くのはいいのだが、辿り着くまでに二つの難所がある。

その二つとは、ドアだ。

しかもパンフレットを見た感じでは、スライド式のドアではなく、押戸だ。

つまりスライド式のドアのように静かに開いてくれるか分からないのだ。


二分ほどゆっくり歩き、一つ目の難所ドアへとたどり着いた。

やはり、押戸だ。

しかも……かなり古そう。

なんで屋上の扉は新しいのに、ここの扉は古いんだよ!


まぁ愚痴を言っても仕方ない。

祈りながら開けるだけだ。


ドクンドクン

心臓が激しく鼓動するのが分かるほどの緊張感の中、ドアノブへと手をかけ、ゆっくりとひねる。

そしてそのまま、前方向へとドアを押す。


ギィィィィィィ!!!

反抗期か! と思うほど素晴らしい不快な音を立て、扉が開く。

慌てて開くのをやめたが、バレてしまったかもしれない。


…………

しばらく待ってみるが、敵が来る様子はない。

よかった、全員ぐっすり寝てくれていたらしい。

なら、多少音が鳴っても起きないだろう。


ギィ……ギィ……

ゆっくりと、慎重にドアを開ける。

少し音はなるが、ゆっくり開けたので比較的小さな音だ。

さっきの音で起きないのに、これで起きるなんてことは無いはずだ。


とりあえず、一つ目の難所は超えた。

あとはもう一つのドアを突破し、右に曲がればすぐだ。


「よ~し、ちゃっちゃっと済ませるか!」


再び目的地に向かって足を踏み出した、その時だった!

ズガッ!


「おう……」


急に左の壁から刃が出てきた。

しっかりと壁を貫き、俺の目の前を切り裂く。


ガガガガガ

そしてそのまま刃は移動し四角形に壁を切り取る。


ズガァァン!

そして斬られた壁を蹴り飛ばして出てきたのは、一人の若い男。


「……北見」

「始めまして、高橋輝たかはしてるさん?」


早速リーダーの登場だ。

手間が省けたと言っていいだろう。

感謝しないとな!

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