第19話 謎の組織からのメッセージ

「頭らしき場所へのダメージはなし、触手は根元を切っても再生……か」


触手を減らせば、攻撃の勢いを緩められると思ったのだが、こいつはどれだけ切ってもすぐに再生する。

先の方を斬ろうが、根元から斬ろうがそれは変わらず、一瞬で治ってしまう。

頭らしき場所を射撃してみるが、特にダメージがあるようには見えない。

傷はできるが、触手と同じですぐに再生する。


「仕方ない、”あれ”を使ってみるか」


岩陰に隠れ、メニュー画面を開く。


(ショップ 特別弾丸 爆発弾、凍結弾 百ルディ 購入を確定しますか?)

はい


ショップの追加で出てきた銃専用の特別な弾だ。

一発百ルディと、少しお高め。

その特別弾の中の二種類を一発ずつ、計二百ルディ分購入する。


「そのプヨプヨボディ、砕いてやるよ!」


旋弾銃には固有能力スキル瞬間装填があるため、通常の弾丸は自動で装填されるが、この特別な弾だけは自分で装填する必要がある。

凍結弾を二発、銃へと装填する。


「じゃあ、お眠りくださいっと!」


ドン! ドン!

引き金を引くと、凍結弾が発射される。

発射された凍結弾は氷の軌跡を残しながら、ボスへと向かっていく。


パキーン

二発の凍結弾はボスに当たるとともに砕け散る。

その瞬間、砕けた銃弾から氷の粒が飛び出る。

飛び出た粒に触れた瞬間、ボスの巨体はカチコチに凍った。


「そしてさようなら!」


バン! バン!

爆発弾を装填し、再びボスに向かって発射する。

爆発弾はボスに触れた瞬間、巨大な爆発を起こす!

全身が凍ったボスは、その爆発によって木っ端みじんに砕け散った。


(報酬 一万ルディ、ランダム能力スキル


よし! 無事にクリアだ!

にしても、この特別弾便利だな~。

大会の時にもこれがあれば、もっと面白い戦い方が出来てたかもな。


能力スキル 剣志 発動者の脳と剣を繋ぐ。剣は戦いを記録し、脳へと伝える)


なんか、よくわからん能力スキルが来たな。

剣のためのものだってことは分かるが、脳とつなぐ?

剣が戦いを記録して伝えるって、伝わったらどうなるんだ?

普通にその戦いの記憶が脳に入るだけなら、大して意味がないように思うのだが……

まぁ記録するってあるし、戦いを重ねていけば段々と分かってくるだろう。


「にしても、ボスが階層を破壊してくれたおかげで、かなり早くボスを攻略で来たな」


二十七階層、二十八階層、二十九階層をスキップできたため、大幅な時間短縮ができた。

まだ昼の一時、夕方くらいまでかかると思っていたが、かなり早く終わったな。

一度ここで引き上げるか。

また途中から始められるわけだし。


(ダンジョンから帰還します)


戻ると、壁修復に精を出す両親の姿があった。

ロバートの泊まる部屋は用意できたらしく、開いていた部屋に布団などを用意し、生活できるくらいの環境を整えてあった。

流石は我が両親、仕事が速い。


関心もそこそこに、自室へと戻る。

ベッドにダイブし、メニュー画面を開く。

使わなさ過ぎて忘れていたが、メニュー画面にはいろいろな情報が乗ったページがある。

まぁ、簡単に言えばテレビやインターネットのような感じだ。

今の世間の様子を、神なのか人工知能なのかは知らんが、誰かが上手にまとめる。

それをルディを払って見る感じだ。


ある程度生活に余裕が出来たら見ようと思っていたのだ。

まぁ、完全に忘れてたわけだけど。


(ランキング世界一位 佐野優さのすぐる 六十五階層突破! 

 佐野優さのすぐる 様々な人へルディを寄付

 新世界安定組織の募集 多くの人々が応募

 佐野優さのすぐる 新世界平和組織を募集 応募者多数)


はいはい、なるほど……って! 佐野優あいつのことしか書いてねーじゃねーかよ!!!!!

しかもなんか組織を作ろうとしてるし。

新世界平和組織? 上に書いてある新世界安定組織とはまた違うのか?

というか、今世界ではすぐるの評価が爆上がりしているようだ。

ダンジョンや大会で稼いだルディを、いろいろな人に配って援助しているからだ。

なるほど、その手があったか!

でも、住む場所がある人はルディをもらえばいいけど、そうじゃない人はそれだけじゃ生活できないよな……?

もっといい方法は無いかな。




しばらく考えた末、かなりいい方法を考えた。

この世界の決まりの裏を突いた、まぁまぁな名案だ。

でも始めるにはかなりのルディがかかるため、まだすぐには実行できない。

ルディが貯まるまでは保留だな。


ちなみに先に少し言っておくと、裏を突くというのは電気や水道だ。

あれは一日分の水道を買えるが、一度買えばその家では、一日中どれだけでも、無制限に使える。

なので、まずは滅茶苦茶デカい屋敷を作る。

まぁ、それが俺の新しい家だ。

そして、余った部屋に他の住居に困っている人たちを住まわせる。

そうすれば、その人たちは住む場所が確保できる。

さらに水道などはどれだけ使っても値段が変わらないから、全員分の水道などを賄える。

うん、名案じゃね!? 俺にしてはかなり良い考えだと思う。

でも、さっきも言ったように、屋敷を作るには莫大なルディがいる。

なのですぐにはできないのだ。


「にしても、強奪ロブをしてた奴が人を援助か~あいつも成長……」


いやそんなわけね―だろ!

あいつが善意で人を援助? ありえない。

恐らく何か裏があるはずだ。

じゃなきゃ、つい数日前に人を殺したやつが心変わりするはずがない。


「こりゃ、ちょっとあいつを問いただすしかないようだな!」


なにかとんでもないことをやらかされては困る。

あいつのことだ、そりゃぁもうえげつなso式いことを考えているに違いない。

例えば世界を乗っ取るとか……ん? 世界を乗っ取る……?


ここで、頭にある言葉が思い浮かぶ。

それは、すぐるが作ろうとしている”新世界平和組織”だ。

応募者多数……新世界安定組織があるのに、なぜもう一つ組織を作る?

そして応募者多数……


「あいつまさか!」


まだ、分からないことが多すぎて予測でしかないが、一つの考えが浮かぶ。

あいつが人に恩を売っている理由、それは自分を支持する奴を増やして、巨大な組織を作るためなんじゃないか!?

平和組織……聞こえもいいし、あいつが声をかければ、恩のある人たちは迷わず入るだろう。


でもこの考えにはいくつか疑問が残る。

まず、組織を作ったとしても、どうやって世界を乗っ取る?

きっと、入った人たちも世界を乗っ取ってやろうと思って入るわけではない。

なら、あいつの目的を知れば、どんどんと人は抜けていくだろう。


そしてもう一つ、今の俺の考えの逆の可能性だ。

世界安定組織が何か悪いことを企んでいて、それを止めるためにすぐるが立ち上がったという可能性。

ただ、これは俺の中ではありえないと思う。

理由にはならないかもしれないが、あいつがそんなことをするとは到底思えないのだ。

だって、強奪ロブで人を殺す奴だぜ? しかも平気で。

こんな世界だ、強奪ロブをせざるを得ない時はいつかくるだろう。

でもあいつは違う、”生きるために”奪ったわけじゃない。


「あぁ! 佐野優あいつと連絡先交換しとけばよかった!」


そういえば俺、今あいつがどこにいるのか知らない!

連絡先を交換しとけば、メッセージから聞けたのに……

まぁ、多分あいつは知らんぷりするだろうが。


「都合よくでてこないかな」


だってあいつ、いらない時にはよく来たじゃん?

なんなら、家を破壊していったじゃん?

これで来なかったらさ、もう俺は神に見離されてると考えてもいいと思うんだよね。






「うん、来るわけないな……」


一時間ほど経ったが、あいつが来る様子はない。

なんだよあいつ! 来たい時に来て家をぶっ壊していったくせに、俺の必要な時には来ないのかよ!


(ピコーン)

ん?

ここで一通のメッセージが届く。

一瞬すぐるか!? と期待したが、そんなわけがなかった。

だが、少し重要そうなメッセージだ。


「力のみですべてが解決する世界になってしまった今、社会のバランスは絶望的なまでに崩壊しています。なので、あなたのような力もつ人々を中心に、全員が幸せに暮らせる世界を目指そうと思っています。詳しいことはまた出会ってからお伝えするので、ここまで来ていただけませんか?」


というメッセージと共に、東京のビルの写真が送付されていた。

ここで分かった。


「あぁ、ロバートやはるかさんが受け取ったメッセージはこれか」


と。

恐らく、ここに行くために二人とも日本へと来るのだろう。

まぁ、はるかさんはこれがなくても帰国していただろうけど。


一見普通のメッセージだが、いくつか気になることがある。

まず、送信主が”新世界安定組織”だということ。

先ほどから何度も俺が名前を出しているが、最近メンバーを募集している組織だ。

何を目的としているのかは知らんが、組織名から見るに、新しい世界でも、みんなが安定して暮らせるようにしましょうって感じだろう。

そんな組織が、俺に何の用なんだ? それにどんな手段で安定を目指すのか。

これが一つ目の気になること。


そして二つ目、これが何よりも俺が気になったところ。

俺は、こんな奴と連絡先を交換してはいない。

さっき俺が、すぐると連絡先を交換しとけばよかった!!!!って叫んでただろ?

そういうことだ、メッセージを送るには、連絡先を交換しないといけない。

それを完全に無視している。

それに、送信主の名前が組織名なのも疑問だ。

送信主の名は、送った奴の名前が表示されるはずだからだ。


う~む、怪しいな。

応募者多数って言ってたし、変な組織ではないのだろうけど、俺は不安なことはしない主義なのだ。

そうやって、今までの人生も安定して送ってきたのだから。

スリルのない暇な人生って言われたこともあるが、スリル味わって失敗したらそれこそ後戻りできないだろ?

俺はこの人生の進み方でいいのだ。


ということで、情報集めをしよう!

どうやって集めるかって? それはもちろん、この組織のことについて知っている人たちに聞くのさ!

ちょうど、三人で集まる予定を立てている。

もう分かったかな? そう、はるかさんとロバートだ。


まぁ、まだ集まりまでは時間があるし、このメッセージについても急ぐことは無い。

それまでゆっくり、俺自身で情報を集めてみるとしよう。

でもまずは腹ごしらえだ!

今帰るぞ! マイホーム。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る