第18話 ダンジョン攻略再開です

「……ってわけだから、準備してて。俺はダンジョンに行ってくるから」

「いや……急に言われても……ぶっ壊れた壁はどうするんだよ?」


「父さん、DIYすきだろ? 任せた!」


ロバートの宿泊、そして~すぐるがぶっ壊した壁の修理を両親に任せ、ダンジョンへと向かう。


今まで俺は、わざわざ一階層から始めていたのだが、どうやら一度クリアした階層からスタートできたらしい。

出来ることなら、今までの俺を嘲笑いたいぜ。


「さてと、二十一階層か。今までとあまり変わらないな」


雑魚モンスターを斬りながら、奥へと進む。

やっぱり、この武器たちの性能スペックが高すぎてこの辺は楽勝だな。

とはいえ油断は禁物、防御能力スキルを持っていない俺は、攻撃を食らってしまえば普通に死ぬ。

攻撃を受けなければ一方的にボコれる攻撃力はあるから、油断してダメージを受けることだけ気を付けておこう。


「……ん? なんだこれ? ぶどうジュース……ではないな」


二十階層から進み、二十五階層へと到達した。

まるで洞窟のようなこの階層を歩いていると、池を発見した。

ただ、溜まっている液体が、紫色なのだ。

透き通った水でも、青い水でもない、紫の”何か”だ


生物の本能なのか、俺の脳が全力で、触るな! と警告する。

普通に考えてかなりやばそうな液体だし、普通に触りたくない。

こんな時は……あ、いいのがあるじゃん。


ベキ!

洞窟の天井からぶら下がっていた細長い石をへし折り、池へと近づける。

う~ん、匂いは問題ないし、近づけても問題はなさそう。

入れてみるか。


シュワァァァァァ……

炭酸が抜けるような音と共に、石は白い気体を発して溶けた。

……なにこれ? 超強い酸?

とにかく、触らなかったのは正解だ。

もし触ってたら、俺の指が天国への片道切符を手に入れてしまうところだった。


「この周りで戦うのはやめとこう、落ちたら確実に死ぬ」


よく見ると、この階層には同じような池がいくつも存在していた。

ここ、モンスターよりもこの池の方が何倍も危険じゃね?




「……おい、神。お前これは悪意しかねぇなぁ!」


さらに進んだところでモンスターを発見した。

二メートルほどのクラゲのようなモンスターだ。

ぷかぷかと宙を漂い、一見弱そうに見える……が、今言ったように、かなり悪意の詰まったモンスターだ。


チュッ!? チュー!!!!

たまたまそのクラゲの前に出てしまった別のモンスターが、目を付けられる。

ガシッといくつもの触手で掴まれ、そのまま宙へ浮く。

獲物を掴んだクラゲは、そのままプカプカと浮いて、ある場所へ向かう。

そう、あの池だ!


ジューーーーー!!!

「!!!!!」


断末魔すら上げる暇なく、掴まったモンスターは池へ落とされ、一瞬で溶けてしまった。

クラゲは溶けたモンスターから出た白い気体をスーっと吸い込む。

なるほど、溶けたときに出るあの気体を食べるってことか。

というか、なんて恐ろしいんだ!

掴まったモンスター、悲鳴すら上げられずに溶けたぞ!?

ある意味では楽に死ねたのかもだが、怖すぎるだろ……

これは流石に、神の悪意で生まれたとしか考えられない。


「あの神、次会ったらぶん殴ってやる!! ……ん?」


気のせいだろうか。

背後から何か気配を感じる……それに、なんか後ろから触手のようなものが伸びてきてる気がするんですけど!?


「おりゃぁ!」


やられてたまるか! と、思いっきり剣で後ろを斬る。

ズバッという手ごたえと共に、ドサッとモンスターの死骸が落下する。

あ、あぶない。

やはり後ろにあのクラゲがいた。

もう数秒気づくのが遅れてたら……

ゾワッと背筋に冷たいものが走る。

もう、こんなところ早く抜け出そう!


後ろから不意打ちという、かなり卑怯な手でクラゲをし続け、なんとか二十六階層へとたどり着いた……のだが


「おぉぉぉいぃぃぃぃ!! ここも変わらねーのかよ!」


二十六階層も、変わらずクラゲたちがプカプカ浮いていた。

おいおい、ここもこいつらの領域テリトリーかよ!?

しかも、さっきより数が多い……

なるべく池から離れたところを歩こう。


「音が大きいから銃は使えないし、いちいち背後から剣で切るのは面倒だな……」


プルプルとやわらかい体のため、簡単に倒すことはできるが、わざわざ背後に行くのは正直面倒くさい。

かといって銃を撃ってしまえば気づかれて一網打尽にされてしまう。

数が数なので、下手をすればやられてしまう。

いやぁ、数って恐ろしいね。


(ピコーン)

通知……誰かからのメッセージか。

今はちょっと無理かも……でも緊急だったら?


岩陰に隠れ、通知を開く。


「なんだ、はるかさんからか」


メッセージを送ってきたのははるかさんだった。


(ショップの追加見ました? 地図マップです!)

(見ましたよ、便利そうなのでもう購入しました)


(そうだったんですか! 実は、家族の分も買って、日本に帰ろうと思うんです!)


そういえば、前に話した時も日本に帰りたいと言っていたな。

やっと帰れるのだから、かなり嬉しいのだろう。

メッセージにビックリマークを使っているのをみると、かなり気分が高揚しているのがうかがえる。


(よかったですね! そういえば、日本にまだ家があるんですか?)

(管理をしてくれる人がいたんですけど、今はどうか分かりません。なにせこんな世の中ですし。でも、世界が変わってからまだ一週間ほどなので、住めないことは無いかと!)


一週間管理なし……住める……のか?

掃除とかをすれば住めそうだが。

というか、海外にいる間も家を管理してくれる人がいるなんて、まさかかなり金持ちだったのか!?


(それと、すぐるさんの方にもメッセージが来ましたか?)

(メッセージ? いえ、ロバートとはるかさんんからしか今日は来てませんんね)


(ロバートさんからも? なんて言ってたんですか?)


こういう場合、言ってもいいのかな?

まぁ、口止めされてないしいい……よな?


(日本に行くから、その間だけ止めてくれないかって)

(なるほど、じゃあきっと、彼もメッセージが届いたんですね)


(来なかった僕は嫌われてるんでしょうか……?)

(いえ……多分待っていれば来るかと……あなたに来なかったら、私に来るはずないですし)


俺に来ないとはるかさんに来るはずがないメッセージ?

なんだろう。


(とりあえず、ロバートさんも来るならちょうどいいです。私もそっちに行ったら、一度三人で集まりませんか? 彼には私から言っておきます)

(僕はいいですよ。基本的にいつも暇ですし)


(なら、集まるのは決定ってことで! 詳しくはまたお知らせします)

(了解です。 じゃあ、僕はちょっとダンジョンにいるのでこれで)


(あ、ダンジョンにいたんですね。すみません)

(いえ、僕が自分で返信したんだから、気にすることないですよ。では)


(はい!)


……ロバートに続いてはるかさんも日本に来る、か。

彼女の場合は帰国だが、このタイミングは偶然じゃない、なにかあるな。

実際、彼女の話から二人ともが何かメッセージを受け取っていたと分かる。

なら、ウィリアムやすぐるにもメッセージは届いてるのか?


「まぁ、考えるのは時間があるときってことで!」


剣を抜き、正面まで迫ってきていたモンスターを切り裂く。


「バレてたのか……待ってくれてたのは優しさか?」


気づけば、四方八方をクラゲのモンスターに囲まれていた。

一斉に攻撃してこなかったのはなぜだ? 待ってたのか? 優しいな。


だが、まだ攻撃してくる様子がない。

ずっと俺の周りをプカプカと浮遊している。


「敵意がない……ってわけじゃねーな」


いつでも準備万端と言わんばかりに、全員が触手を伸ばしている。

それでもなお一斉に攻撃はしてこない。

俺の存在を警戒しているわけではないよな。

警戒してるなら、なおのこと一斉に攻撃してくるはずだ。


「ピーピー、ピッピピピ」

「ピーピー、ピッピピピ」


突然、クラゲたちが耳に響くような、高い謎の音を出す。

そして一体のクラゲが発光し始めた。

他のクラゲが、そのクラゲに向かって突撃する。

向かっていったクラゲたちは、光るクラゲにどんどんと吸収されていく。

それに応じて、光るクラゲはどんどんと大きさを増していく。


「これは……まずいな!」


本能的にそう感じた俺は、階層の入り口に向かって走る。

その間にも、背後ではどんどんとクラゲが巨大化する。


「あいつ、圧死するんじゃねーか!?」


大きくなりすぎて天井と地面に挟まれ、クラゲは身動きが取れなくなっている。

にもかかわらず、まだまだ巨大化を止めない。


バキバキバキ、ゴゴゴゴゴ、ビキビキビキ

天井や地面がひび割れ、揺れる。

この階層はもう限界だ。

崩壊する!


そう思った直後、バキバキバキバキバキ! と大きな音と共に、地面と天井が崩壊した!


(二十五階層から三十階層崩壊。 ボスが出現しました!)


まじかよ!?

二十五階層から三十階層、そのすべての地面と天井が破壊され、一つの巨大な空間となった。

二十六階層にいた俺は、三十階層までの五階層分の深さまで落下する。

こんな展開、誰が予測できるんだよ!?


ドンドンドン!

落下する間、先に下に落ちていったボスに向かって発砲しまくる。

確実に当たっているはずだが、まったく効いているような反応は無い。


「ちょっとまずいって!」


空中にいる俺を捕えようと、長い触手を伸ばしてくる。

剣で触手を切り裂き回避するのだが、斬り落とした触手はなんと、瞬時に再生した!


「再生能力が高いのか、こりゃ急所を攻撃して一発で仕留めるしかないな」


だが問題は、どこが急所かということだ。

今までのモンスターと違い、こいつの脳や心臓がどこにあるのか分からない。

いや、まずあるのかすら謎だ。


さっき周りの奴らを吸収していた発光クラゲが核だとしたら、そいつを殺せば倒せるのか?


グキッ

「う! お、おぉぉぉ……」


すこし着地をミスし、足首がかなり変な方向に曲がる。

はは、身体強化でも、運動音痴は補えないか……


「ピーピーピ、ピ」


再び謎の高音を出しながら、ボスが近寄ってくる。

やる気満々だな。


「お前が三十階層まで壊してくれたおかげで、数階層得したぜ! もう要は無いから倒させてもらう!」


結構ひどいこと言っているように思うかもだけど、こいつ一応敵だからね?

倒すか倒されるかの関係だからね?

俺、ひどくはないよ?


「ピーーーーーーー!!!」


ボスもその気らしく、触手をこちらに伸ばし、叩きつけてくる。

ドガーン!!

おい、さっきのちびだった時の触手とは威力が全然違うんだが?


叩きつけられた地面には、触手の後がくっきりと残った。


「まぁ、やりますか!」





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ピコーン

「あ? 通知? 誰からだよ……新世界安定組織? なんだそりゃ」


俺がダンジョンでクラゲ狩りをしているとき、すぐるは一通のメッセージを受け取っていた。

送信主は新世界安定組織。


「力のみですべてが解決する世界になってしまった今、社会のバランスは絶望的なまでに崩壊しています。なので、あなたのような力もつ人々を中心に、全員が幸せに暮らせる世界を目指そうと思っています。詳しいことはまた出会ってからお伝えするので、ここまで来ていただけませんか……だと?」


メッセージと共に、一枚の写真が送付されていた。

それは、東京にある超巨大ビルの写真だ。


「みんなが幸せに暮らせる世界……ねぇ」


すぐるがニヤリと笑う。

それは、悪意に満ちたような邪悪な笑み。


「そんなものは実現できねぇんだよ。もしお前たちがそんな組織を作るなら、俺はお前たちの敵だ!」


(メッセージを削除しますか?)

はい。


「いいねぇ、もしかしたらお前たちと俺は敵対するのか! 世界が割れるなぁ、分断されるな! あの時みたいに!」


そういってすぐるは、笑い声をあげながらどこかへと向かった。

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