世界分断編

第17話 二度目の不法侵入者、しばらくの別れ

ピンポーン!

家でくつろいでいると、インターホンが鳴った。


「私出てきましょうか?」

「いや、こんなところに来るって言ったら、俺か両親の知り合いでしょうし、俺が出ますよ」


代わりに出る! という梅田うめださんを止め、玄関へと向かう。

真昼間に誰だ? この時間なら、皆ダンジョンに行ってそうだけど……

不思議に思いながらも扉を開ける。


「はーい、どちらさ……ま?」


そこに立っていたのは、体つきのいい青年、すぐるだった。

バタン! ガチャ

無言で、すぐに、迷いなく扉を閉めて鍵をかける。

そして何も見ていないふりをして、リビングへと戻る。


「どちら様だったんですか?」

「いえ、”全く知らない人”でしたよ。住所を間違えたようです」


笑顔でそう返し、カードゲームの続きを再開しようとした……そのとき!


「間違えてねーだろ! 何無言で閉めてんだよてる! ひどくないか!?」


鍵を閉めたはずなのに、なぜかすぐるが家に入ってきていた。

俺は手に持っていたカードをぶん投げる。

カードは彼の顔面ギリギリを飛び、後ろの障子しょうじへと突き刺さった。


「不法侵入の前科がある奴を家に入れる奴がどこにいるんだよ! さっさと出てけよ!」

「ひどい! 大会で疲れているであろうお前を癒してあげようと、はるばるここまで来たというのに!」


そういってすぐるは、背負っていたカバンから様々なものを取り出す。

マッサージ器や栄養ドリンク、目を温めるアイマスクなど、様々だ。


「お前が来たせいで余計疲れるわ! 過労死するから出ていけ!」

「とか言いつつ、持ってきたやつはしっかり取っていくのかよ!」


ちっ、バレたか。

手に抱えたマッサージ器やアイマスクを元の位置へと戻す。


「とにかくだ! さっさと帰れよ、なぜに俺の休息を邪魔する!?」

「邪魔しに来たんじゃなくて癒してあげに来たんだよ!」


「ありがた迷惑だ!」

「ひーどーいーぜー!!!」


しがみついてくるすぐるを引きはがし、玄関へと押し出す。

このまま放り出そうと思い、扉に手を振れた瞬間


バキバキバキ……ズドーン……


悲しい悲鳴を上げながら、扉が取れた。

扉の固定器具は、自然ではありえない壊れ方をしており、明らかに力任せに開いた感じだ。

俺がさっき出たときは普通だった、そして何より、力でこの扉を壊せる奴……一人しかいない。


「おい……すぐる、お前だな?」

「お、おう……だって、お前が閉めたのが悪いだろ!?」


「人のせいにするなよ! ここは俺の家なんだから、入れるも入れないも俺の自由だ! なんで入れてもらえるのが当たり前みたいに言ってんだよ!」


やったことは認めたものの、それを俺のせいにしてきやがった。

本当に、こいつといると休める時間も休めなくなってしまう。


「とりあえず、そのドアを直すまでお前は入ってくるな!」


そう言って、すぐるに扉(だったもの)を持たせ、外に放置した。






「……完全に俺の判断ミスだ……なんでこいつにやらせてしまったんだ!


それから一時間後、俺は自身のミスに気づき、絶望した。

直ったぞ~! っとノリノリで”窓から”部屋へと不法侵入してきたすぐるに、完璧だから見てくれ! 言われて玄関へ見に行くとこれだ。


扉はビニールテープで修正……というかグルグル巻きで固定され、開け閉めをすることはできない。

なぜ、こいつが玄関ではなく窓から入ってきたのかを、今理解したよ……


「これじゃただ扉の形をした壁じゃねーか!」

「形になればいいだろ!? ほら、”外見は”元通りじゃねーか!」


「ビニールテープぐるぐるの扉なんか見たことねーよ! 外見も悪化してるわ!」


家にあった道具を渡し、再びすぐるを外に放置した。




「好かれてるんですね、彼に」

「もはやストーカーレベルですけどね」


部屋に戻り、みんなでカードゲームを再開する。


「よっしゃ! 俺の勝ち~!」


平均レベルの頭脳を駆使し、無事に一位で勝利した。

他の三人は、二位を取るために必死だ。

ちなみに最下位は、罰ゲームがある。

何かは知らんが。


ピコーン

(ロバートからメッセージが届いています)


ん? ロバートが? 俺に? なんだろう。

連絡先を交換した時に、たまに話し相手になってくれと言っていたが、まさかそれか?


(こんど、日本そちらへ行こうと思いまして。可能であれば、その期間中家に泊まらせてはくれませんか? もちろん、生活に必要なものは自分で揃えます)


まさかのお泊りのお願いだった。

日本に来る? でもあの人どうやって来るんだ? 海を泳いでくる……わけないし。


(泊まるのは全然オッケーですよ! でもどうやって来るんですか?)

地図マップで行きますよ。あなたの家の場所を教えてくだされば助かります)


地図マップ? 何それ?

メニュー画面を確認してみるが、そんな機能は無いぞ?


地図マップって何ですか?)

(最近……というか今日追加された移動手段です。一回購入すれば永久的に使えますよ)


あ、ショップに追加されたものだったのか。

しかも今日。

知らないはずだ。


(ありがとうございます、確認してみます。 住所はこの後転送しておきますね)

(ありがとうございます。 では、明後日に向かわせてもらいます)


急に日本に来るなんて、何かあったのか?

それとも、前から計画自体はしていたのだろうか。




よし、俺も地図マップとやらを確認してみるか。

ショップの……最新で出るかな?


地図マップ。 設定した地点へと移動する)


簡単な説明と共に売られていたのは、本当によく見る地図だ。

縮小、拡大、移動ができ、設定した場所へと瞬時に移動できるらしい。

値段は……五万ルディか……

思ったよりは安かったな。

ずっと使えて、どこにでも行けることを考えると、かなり破格なように感じる。


(購入を確定しますか?)

はい

ゴトッ


地図マップが入れられた箱が出現する。

買ってしまった……

でも、現状唯一の移動手段なのだから、買って損はないよな?


早速開封!

箱を開けると、一般的なタブレットサイズの薄い地図が入っていた。

地図と入っても、紙ではなく、プラスチックのような素材で出来ている。

早速操作をしてみると、自動で自分の家が登録された。

指で地図をなぞると、表示される場所が変わり、二本の指で操作すれば拡大、縮小ができる。

おいおい、想像よりも快適じゃねーか!


というか……これを使えば、梅田うめださんは家族の元に戻れるんじゃないか!?

そうだ、これを使えば、彼女を家に戻してあげられる。

彼女の家族も今、きっと心臓が張り裂けるような思いで最愛の娘を待っているだろう。

これは、一刻も早く知らせてあげないと!]


「|梅田さ……ぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!?」

てるぅぅぅぅぅぅぅ!」


廊下を走っていると、バキバキバキ!!! と音を立てながら、急に何かが横から突撃してきた。

すぐるだ。


「なんだよ……って! なに壁をぶち壊してんだよ!」


さっきのバキバキという音は、すぐるが壁を突き破ってきた音だった。

しかも、一枚だけでなく、何枚も突き破っており、外が見えている。


「扉を直したことを、お前に一刻も早く伝えたくてな、最短距離である直線できた!」

「廊下を使え! なんで壁をぶち壊してくるんだよ! 扉が壊れたことよりもこっちの方が問題だわ!」


「わざわざ回り道をするのはめんどくさいだろ!? だから直線距離で来た!」


だめだ……こいつには、常識というものが通じないのか……

これ以上状況を悪化させないための最善策……それはこいつを”今すぐに”帰らせることだ。


「扉を直したならもういいから、今日は帰ってくれ! 用事があるんだよ!」

「えぇ……分かったよ……」


案外素直に、深く落ち込んだ様子ですぐるは帰っていった。

はぁ……まあこれで、家が破壊されることは無い……が


「これ……どうするんだよ……」


壊れた壁から、冷たい風が吹き込んでくる。

明日は、重労働だな……


とりあえず、ブルーシートを壁に打ち込み、穴をふさいだ。

まだ風は入ってくるが、かなりマシにはなっただろう。






梅田うめださん」


リビングでカードゲームを見ていた彼女を呼ぶ。

どうやら二位を獲得したのは彼女のようだ。

残った両親が、カードゲームをしているとは思えない程真剣なまなざしで、オーラを放ちながら戦っている。


「実は今日、ショップに移動手段が販売されたんですよ。これ」


地図マップを取り出す。

そして簡単に使い方を教えてあげる。


「これがあれば、家族の元に帰れるんじゃないですか?」


その言葉を聞いた梅田うめださんの目が輝く。


「これは五万ルディ、俺がその分のルディを渡します。それでこれを買って、家族の元に帰るといいですよ」

「そこまでしてもらうわけには……」


「じゃあ、言い方を変えます。早く家に帰れ! あなたの両親は、今も心臓が張り裂ける思いであなたの帰りを待っているはずだ!」


急に俺が叫んだのに驚き、ビクッと体を震わせる。

びっくりさせる気はなかったのだが……


梅田由井うめだゆいに連絡先交換を申請しますか?)

はい


梅田うめださんは申請を見て、迷いながらも承認する。


(送金額五万ルディ 最終確認 よろしいですか?)

はい


(送金しました)


「遠慮しなくてもいい時はあるんですよ。少なくとも今は、遠慮よりも先に、家族の元へ帰るべきだ」

「すばらしい! いいことを言うな、我が息子よ!」


「いたのかよ!? 父さん」


いつから聞かれていたのか、物陰から父さんと母さんが出てきた。


梅田うめださん、てるの言う通りです。私たちも、てるがダンジョンへ向かった時、まだ帰ってこないのかと心配でたまりませんでした。今、あなたの両親も同じ、いやそれ以上の気持ちであなたを待っています」


「……分かりました! みなさん、本当にありがとうございますす!」


先ほど渡したお金で、彼女は地図マップを購入した。

先ほど操作方法などを伝えたし、あまり難しい操作もないため、無事に使えそうだ。


「それがあれば、いつでもすぐ会えるんですから。また親でも連れて遊びに来てください。しばらくの別れです」

「はい!」


彼女は自分の家がある場所を選択する。

すると、彼女の体が光に包まれ、一瞬で消えた。

無事に帰ったのだ。


「感動の別れ……って言うほど重い別れではないな」

「いつでも会えるなら、寂しがることもないさ」


「寂しがりはしないけど、母さんたちの喧嘩を見守ってくれる人がいなくて、俺は不安だよ」

「どういう意味だよ!?」


「そのままの意味」


かなり急な別れにはなったが、これでよかっただろう。

世界が変わってから……彼女が家に帰れなくなってから五日。

短いようで、彼女、彼女の親からすれば恐ろしいほど長い時間だっただろう。

そう考えれば、さっき俺が叫んだのも間違いではなかったよな?


「あ! もう数万ルディくらいあげればよかったかな?」

「送金はいつでもできるんでしょう? また彼女たちの生活が苦しそうなら渡してあげなさい」


「そうするよ」


また、そう遠くない日に会えるだろう。

さて、彼女の自分の日常に戻ったんだ。

俺も、打倒すぐるに向けて、ダンジョンにでも行ってみるか。

三日ぶりくらいか? モンスターたちよ、覚悟しとけよ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る