第16話 決勝戦

決勝戦ということもあり、会場は最大級の盛り上がりを見せている。

そんな中で瞬殺されたらと考えてしまう俺の気持ちを想像できる奴は、果たして何人いるだろうか。


「頑張ろうな、旋弾銃、死生剣」


相棒達を磨き、心の準備も万端だ。

あとはできること、やりたいことをやりきるだけ。

今までの戦いで、すぐるは二通りの戦い方を見せた。

ロバートの時の遠距離武器に対して、そしてウィリアムとの近距離武器同士の戦いに対しての戦い方だ。

遠距離、近距離、どちらの攻撃手段も持つ俺からしたら、前例があるのは非常にありがたい。


ロバートの時は、とにかく距離を詰め、隙を見つければ強力な一撃を叩きこんでいた。

ウィリアムとの戦闘時は、とにかく相手と斬り合い、大剣の特権である高火力、そして己の能力で可能とした、高速の斬撃で相手を圧倒する。


近距離……それも剣の頂上トップであるウィリアムが敗れたのだ、俺が勝てるはずがない。

となれば、希望があるのは遠距離戦。

それも銃ならば弓と違い隙が少ない。

ロバートとは違った戦い方ができるはずだ。


「身体強化、動視強化、不可視……他の奴らと比べて、俺は明らかに火力が足りないな」


ロバート、ウィリアム、すぐると戦った二人は、どちらも効果力な技を持っていた。

炎の矢とか、爆発する斬撃とか。

だが俺は、元の武器の威力に依存するしかない。

つまり、彼らのようにすぐると正面から戦っても負けるだけだ。


だが、他の二人と違い、俺はかなり相手との距離を維持でき、かつ戦いやすい能力スキルを持っている。

距離を詰められば『身体強化』で離れ、素早く動く相手も『動視強化』でとらえる。

そして『不可視』により、近づくときも離れる時も、安全に移動できる。

やっぱり、距離を取りながら戦う方針で行こう!


「最初はこっちでいく。死生剣は、もしもの時頼むぞ!」


背中に剣を背負い、両手には銃を構える。

『不可視』で相手の動きを見て、それに応じて距離を取る。

そこからは状況次第で判断しないといけない。

あいつ相手に、前もって考えておいた作戦が完全に通じるわけがない。

きっと”予想外”がいくつも出てくる。


「開始!」


扉が開いた瞬間飛び出した俺とは違い、すぐるは堂々と、ゆっくりと歩いて出てきた。


「うおぉぉぉぉぉ!」


それと共に大歓声が上がる。

観客の方を向き、余裕の表情で手を振る。

あれがファンサってやつか……


(不可視!)


すぐるの攻撃で、範囲が遠距離に及ぶ攻撃は一つ、刃が黄色く光った時の衝撃波を飛ばす能力スキルだ。

あれさえ気を付ければ、遠距離を維持している限り、攻撃をもらうことは無い。


ドンドンドン! キンキンキン!


案の定、銃弾は通らない。

天恵てんけい』を破っても、あいつは『結界バリア』を持っている。

大量に銃弾を消費したくはないな。


「作戦が分かりやすいなぁ!」


すぐるは正面からこちらに向かって突撃してくる。

俺の後ろに残っている空間は十メートルほど。

そこまで下がれば壁、それ以上後ろには下がれない。

なら、上か!


大きく後ろに下がり、壁まで迫る。

それを追って、すぐるもこちらへ迫る。


(まだだ、もう少しギリギリ……あいつが攻撃の構えに入った瞬間!)


優の大剣が赤く光る。

赤い光……爆発か!

壁に阻まれて、爆発から逃げられないと思ってのことだろう。

前の試合で見た通りなら、爆発の範囲は会場全体、どこへ逃げようと吹き飛ぶ。

すぐるも吹き飛ぶだろうが、あいつは防御能力スキルで凌ぐだろう。


となれば、それを発動されてはまずい!


「一か八かだ!」


背中から剣を抜き、振り下ろされる刃……ではなく相手の腕を受け止める!

刃に触れれば爆発する、なら相手の”腕”を剣で止めるしかない。

俺の刃は『天恵てんけい』で止められるが、逆に相手はそれによって大剣を振り下ろせない。


「うぉ! 俺の腕を狙ってくるか! お前もなかなかにいい発想力してるな!」


だが、大剣と剣、明らかに俺が押される!

もう片方の銃もしまって、両手で剣を支える。

それでも元の体格差か、少しずつ押されている。

おいおい、こっちは身体強化しんだぞ!?


これは終わったか? 

爆発したらもう俺の負け、ここで止めなければいけないが、どんどん押されてる!

……とここで、ビキビキビキ! と何かが音を立てる。

天恵てんけい』だ! もうすぐ効果が切れるのだ!


ここしかない! 

俺は全力で剣を押し込む!

バキバキバキ! と音を立て、いよいよ『天恵てんけい』が壊れる瞬間!


「残念、まだだ」


別の防御能力スキルが現れた。

結界バリア』か!

くっそ! もう少しだったってのに!

……ん?


ここであることに気づく。

天恵てんけい』は、まるで膜のようにその人を包み、発動者のみを守っていた。

だが『結界バリアー』は、その人の周りに、球状に発動している。

つまり、あの中か、後ろにいれば、爆発を防げるんじゃないか!?

よく漫画とかである、仲間の結界バリアの中に入って敵の攻撃を防ぐみたいに!

だが結界バリアの中に入るのは論外……そく斬られてしまうだろう。

なら、すぐるの大剣が爆発するとほぼ同時に、相手の後ろに回り込めば、生き残れるかもしれない!


俺が剣から力を抜けば、その瞬間こいつの大剣は地面に触れ、大爆発を起こす。

腕がもげない限りは、準備をする時間もある。

だがどうやってあいつの後ろに回り込むか……

下から……はなんか気分的に嫌だし、そもそも隙が大きくなってしまう。

なら横からか、でも下をくぐるよりも移動しないといけない距離が延びる分、リスクもデカくなる。

爆発を食らうリスクを上げてでも横を通るか、隙が大きくなるが下を通るか……か。

横だな!


三……二……一!


剣から力を抜くと同時、すぐるの背後を目指して走る。

ガン! という音と共に、背後から激しい光と熱、音が響く!


ドガァァァァン!


「……行けたか?」


伏せていた顔を上げると、辺りは煙に覆われていた。


「どうやら、無事に成功したようだ……な!」


ガァン!

すぐに立ち上がり、上から降ってきた攻撃をかわす。


「変なことを思いつくもんだ。まさか俺の結界バリアを利用して逃れるとは」


煙の中から現れたのは、無傷のすぐるだ。

今ので結界バリアは壊れたらしく、今の奴には防御能力スキルはない。


「やっと裸になったな、これでようやくまともに戦える」

「裸!?」


すぐるは大焦りで自分の服を確認する。


「なんだ、ちゃんと服あるじゃねーか」

「そっちの裸じゃねーよ! 防御能力スキルがないってことだよ!」


変なところで焦り、勝手に安堵するすぐるに呆れながら、両手に銃を構える。


「まぁ確かに防御能力スキルは無いが、果たして再発動までに俺を倒せるか?」


大剣が黄色の光を纏う。

あいつの持つ唯一の遠距離攻撃、衝撃波を飛ばす能力スキル

だがあいつはもう、俺の弾丸を防ぐ能力スキルはない。

唯一弾を防げるであろう大剣も、振れば必ず隙がある。

大剣を振った瞬間、その一瞬の隙で仕留めてやる。


「行くぞ!」


すぐる思いっきり大剣を振り下ろす!

それと同時、相手の頭に向かって俺は銃の照準を合わせる。

照準は完璧、あとはその大剣が地面に落ちたときが最後だ!


大剣が地面を揺らした瞬間、引き金を引く。

ドンドン!

左右の銃から一発ずつ、弾丸が放たれる。

それはとても正確に、まっすぐに相手の頭へと飛んでいく……のだが


ガガガガガガ!!!

地面をえぐり取るような音と共に、地面から大きな衝撃波が噴き出す。

それは柱のように高くまで昇り、俺の銃弾を吹き飛ばす!


「俺が大剣を振った瞬間に射殺……確かに、お前が見たこの技の衝撃波は低く、相手に向かってい直線に向かっていったよな?」


そうだ、だからこそ、衝撃波に邪魔されず、弾丸が通る高さである頭を狙ったのだ。


「悪いがこの衝撃波は自由自在に形を決められるんだよ!」


それは予想外だった。

なるほど、俺の作戦を分かっていての行動だったのか。

衝撃波を守りとして使われたら、銃は通用しにくいな。


「なら、それを超えるのみだ!」


すぐるの周りを走り回りながら、弾丸を撃ちまくる。

いくら早く大剣を振れたとしても、銃の手数には勝てない。

頭、足を不規則に狙うことで、より相手が攻撃を防ぎにくくする。


ズガ! ズガ! 

二発の弾丸がすぐるの太ももと腕を貫通する。

一瞬そこから力が抜けたように体がガタッと傾くが、すぐに力を込め体勢をもどす。


「やっぱり、お前が一番おもしれーや! そこまでシンプルな戦い方、能力スキル決勝ここまで来たんだからな!」


そう叫ぶと、すぐるは大剣を大きく振りかぶる!

あの構え……見覚えがある。

ウィリアムとの戦闘の最後、決定打となった最高火力の一撃!


「させるか!」


止めるため、銃を乱射する。

キンキンキン!!


「ちっ!」


もう『天恵てんけい』が再発動したのかよ!


地面が揺れ、炎が噴き出す!

違う! あのときの技じゃない! 全く別のものだ!


「俺の持つ攻撃能力スキルは固有を除いて七つ……その中で最強の技だ!」


彼の構える大剣も炎を纏う。

周囲の空気が一気に変わる。

直感で分かる。

あぁ、今この場は奴に支配されてるんだと。


奴の大剣から炎が噴き出す。

それはまるで巨大な炎の刃だ。


炎打斬えんだざん!」

「っ…… こんなの、誰が勝てるんだよ……」


大剣が振られると同時、巨大な炎の刃が俺に向かって振ってくる。

そして会場は業火に包まれた。


ビー!!

「試合が終了しました。勝者、佐野優さのすぐる!」

「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


はぁ、負けたか……

だが、自分で思っていたよりは善戦したんじゃないか?

それに、あいつを倒すという一つの目標もできた。

悪くない大会にはなったはずだ。


てる、いい試合だったな!」

「あぁ、いい試合だった」


互いに握手を交わし、退場する。





「楽しかったか? いい戦いだったように見えたが」

「まだいたのかよ。あぁ、楽しかったよ。今だけは、戦いが楽しいって心から思ってる」


「次は勝てると良いな」

「次は勝つさ、もっといろんな能力スキルをゲットして、あいつにリベンジしてやる!」


「まぁ、死なないように頑張れよ」


そういって神は立ち去って行った。

そうだな……大会と違って、ダンジョンは”死ぬ”。

人同士の戦いでも、強奪ロブなら”死ぬ”。

そんな戦いは楽しくないんだよ。





「お疲れ、輝」

「あ、高橋さん! お疲れさまでした!」


観客席に戻ると、両親と梅田うめださん、はるかさんが出迎えてくれる。


「負けちゃったよ、やっぱりあいつ、つえーや!」

「いい戦いでしたよ、見ている皆も楽しそうでした!」


確かに、会場にいる人たちの表情を見ると、退屈はさせなかったみたいだ。


「あ! 高橋さんだ!」


こちらを見たひとりの女の子が叫ぶと、周りの人たちもこちらを振り向く。

そして我先にと言わんばかりに押し合いながら近づいてきた!


「すげぇ戦いだったぞ!」

「すごいです! かっこよかったです!」


みんなが賞賛の声をかけてくれる。

あぁ、なんて気持ちいんだ。

まさか、これが頑張った俺へのご褒美か!?


「握手しよ!」

「うん、いいよ」


女の子と握手をして、俺はしばらくみんなと話していた。

大会の疲れが吹き飛ぶくらい、嬉しかった。

みんなが俺を見てくれて、賞賛してくれている。


「見事一位の座を勝ち取った佐野優さのすぐる選手へ、盛大な拍手を!」

「お! すぐるだ」


会場の中心で、優勝賞金を受け取るすぐるの姿が見えた。

パチパチパチパチ!!!


俺もみんなも、彼に盛大な拍手を送る。

お調子者のあいつは、両腕を大きく振って、全員へ笑顔を見せていた。


「二位、三位は表彰されないんですか?」

「あれは表彰じゃなくて優勝賞金を受け取ってるだけだよ。この大会も、本当の目的はルディ稼ぎだからね。実際の所、一位、二位になったからって何かがあるわけでもないんだ」


決勝まで進んだ俺も、かなりの金額を得ることができた。

予選の分と合わせれば、相当な額になる。

とりあえず、これで生活は安定かな。


「さぁ、じゃあ俺たちも帰る準備をしよう。多分もうすぐ移動させられるはずだ」


準備を始めて二分ほどたった後、アナウンスと共に、全員が元の場所へと戻された。

次、この闘技場を見るときはすぐるへのリベンジを果たす時だ。

待ってろよ、きっと今回よりも盛り上がる、熱い戦いを見せてやる!






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