第15話 大会最後の戦いへ

(不可視!)


今回の相手は……大剣か!

今まで戦ったことのない武器種だな……

すぐるの戦いを見るに、相手の攻撃を見極め、隙をついた強力な一撃を入れる……っていうのが戦い方っぽいけど。

なら、下手に近接で戦うよりも銃で戦った方がいいな。

大剣の威力なら、一撃でやられてもおかしくない。

何せこちらは防御系の能力スキルなんて一つも持っていないのだ。


(照準、追跡)


ドン! ドン! ドン! ドン!

不可視が切れる前に、四発の弾丸を撃ちこむ。

相手はどこから撃ってきたのか分からないだろう。


「はぁ!」


ところが相手は避けることすらせず、大剣を地面に突き刺す。

何やってんだ? そう思ったが、弾丸はもう彼の頭手前まで迫っている。

終わりだな、そう思った時だった。


ガンガンガンガン!!!

まるで金属にでもぶつかったような音を鳴らし、弾丸が弾き落される。

なに!?


相手の周りには、彼を覆うようにものすごい勢いで風が吹いている。

あれが俺の弾丸を弾いたんだな?

にしてもなんて能力スキルだ。

俺の銃の威力は他は比べ物にならない程に高い。

普通の防御系能力スキルでは防げない。

それこそ、他の武器の持つ『天恵てんけい』レベルのものでないと、だ。

てことは、あれはただのスキルじゃないな。


でも、俺の弾を防ぐってことは、生身の体なら余裕で吹き飛ばされるよな?

あいつ、攻撃できなくね?


予測が当たっているのか、相手は一向に動こうとしない。

その場でずーっと立ち止まっている。

こりゃ、はたから見たらただの竜巻だな。

って、笑ってる場合じゃねぇ。

銃が通らないなら、剣で行くしかない。


「どぉりゃ!」


死生剣で殴ってみるが、ガーンという音と共に剣hがはじき返され、俺の腕に激しい衝撃が返ってくるだけだ。


「いてぇな……」


一応死生剣の固有能力スキル不壊ふかいによって、剣自体が壊れることは無い。

というか、殴り続ければ壊れるのは俺の腕だろう。

俺、一応身体強化してるのに……

そんなレベルで、こいつのこの防御能力スキルは硬い。


でも、こいつも攻撃できないなら試合が終わらないよな?

こいつはどうやって今まで勝ってきたんだ?

敵が全員、バカみたいに突撃して粉々になったわけじゃないだろうし。


仕方なくしばらく攻撃せずに観察していると、急に動き出した。


「え? え? え? ちょっ! 嘘だろぉ!?」


しかも、こちらに向かって。

おまけにかなり速い!

その瞬間、俺は理解した。

何で気づかなかったんだ!

そうだよ、敵が突撃してこなくても、こいつが突撃してくれば相手はやられるじゃん!


俺をミンチ肉にする気満々なのか、相手はしつこく俺を追いかけてくる。

追い付かれたらミンチ肉! 追い付かれたらミンチ肉!

走れ俺! 心の中で叫びながら、会場内を全力疾走する。

危ない、身体強化がなかったら、今頃ブザーが鳴って俺が負けるところだった。


とはいえどうする!?

いくら身体強化があっても、体力が無限にあるわけじゃない。

のんきに鬼ごっこをしていては、やられるのは俺だ。

準決勝での敗因が、鬼ごっこに負けてミンチ肉だけは嫌だ!

それだけは絶対に避けなければならない。

せめて、ロバートやウィリアムみたいに、激闘の末に敗北……の方がいい!


とはいえどうする!?

こちらの攻撃は全く効かない。

防御能力スキルなら、一定量のダメージを与えるか、時間経過で消えるのか?

時間経過……を待ってたら俺がミンチ肉になる可能性が大きい。

ならダメージを与えるか?

近づいたらだめだし、銃で行くしかないけど……弾丸足りるか?

まぁ、この銃の威力なら十分だろ。


ドンドンドンドンドン!!

ある程度の距離を確保してから銃を何発も撃つ。

近づいてきたらまた距離を取って銃を撃つ。

キンキンキン!!

全ての弾は撃ち落とされ、一見ダメージが入っていないようにしか見えない。

ただ、確実にダメージは入っているはずだ。




ドンドンドン!

(残弾が五十パーセントを切りました 残り二百五十発)


もう半分になったのかよ!?

まだまだあいつの能力スキルがきれる様子はないぞ……

最悪の場合、剣でいくしかないか。

だが、その時まで俺の身体強化は続くのか?




ドンドンドン!!

さらに撃ち続けていると、相手の動きが変わった。

今まで俺を追いかけてきてはいたが、より早く、俺に追い付こうとスピードを上げてきた!

しびれを切らしたのか? いや、もうすぐあの魔法が終わるから焦っているのか!

勝ち筋が見えた! 弾丸はあと百発、行ける!


ドン!

打ち込んだ一発の弾丸が命中した瞬間、相手の周りを囲んでいた強風が消えた!

よっしゃ! 

相手の頭に照準を合わせるため、銃を構える。

しかし、相手はものすごい勢いでこちらに突っ込んできていた!

それは動視強化でも捉えるのが難しいほどのスピード!

最後の抵抗ってことか。


ガン!!

剣を構える時間すらなかったため、とっさに銃で受ける。


メキッ!

流石にノーダメージで受けることは厳しいか……

右の手首がへし折れた。

強烈な痛みが走るが、今がチャンスなのだ、逃すわけにはいかない!


「すごい能力スキルだったよ」


左の銃で、相手の頭を撃ちぬく。


ビー!!

「試合が終了しました。 勝者 高橋輝たかはしてる


パチパチパチパチ!!!

よし! 何とか勝てた。

けど本当に強力な能力スキルだったな。

何せ、俺の銃弾を四百発耐えたんだ。

この銃、ダンジョンのボスですら一発なのに……


『高橋輝、すごい戦いをありがとう。 この能力スキルを破られたのは初めてだよ。俺もまだまだだったってことだな』

『一歩違えば負けたのは俺だったかもしれない。すごかったよ』


相手と握手をして、控室へと戻った。





「お疲れ! 輝!」

「ほんとに疲れたよ。 まさかあんなに走り回ることになるとは……」


「癒してやろうか?」

「逆に疲れそうだから遠慮しとくよ」


部屋に入って速攻、待っていたかのようにすぐるに話しかけられた。

まぁ、お疲れ様という言葉は本音だろうから、そこはありがたく受け取らせてもらう。


にしても、次はこいつと戦うのか……

ここまでの戦いを見ている人たちなら分かるだろうが、俺絶対負けるぞ?

だって、もう全部が桁違いじゃん。

火力も耐久力も、どちらの能力スキルも兼ね備えてるこいつに勝てる気がしない。


「これからもこの世界が続くなら、この戦いは歴史に残るだろうな。俺たちは歴史に名を刻むんだ! 全員にいい戦いを見せないとな!」

「お前がすごくても、それを俺が受け止められなかったらダメだろ。俺、多分瞬殺されるぞ?」


「う~ん、前のお前は、そんな弱気な人間じゃなかったのにな?」

「前って……俺たちが初めてあたのは二日前じゃねーか。しかも不法侵入で!」


「おいおい、人聞きが悪い言い方するなよ? 家にお邪魔しただけじゃねーか」

「世間では、勝手にお邪魔することを不法侵入って言うんだよ!」


「まぁ、今から三十分休憩だし、俺は少しここを離れるぜ。お前も家族の所に行ったらどうだ? 前の休憩の時は行ってないだろ?」

「あぁ、そうしようかな」


すぐると共に、俺も椅子から立つ。

俺とは反対方向から出ていくすぐるを見送り、出ようとした時、俺の席を占領して爆睡していた神と目が合った。

起きてたのか。


「変わったのはお前だけだな」

「どういうことだ?」


こいつもすぐると似たようなことを言うな……

なんだ? 実は俺たちは小さい頃に出会っていて、それを俺が忘れてるだけ……みたいな?

いやいや、そんなわけがないだろ。






「お疲れ、輝!」


観客席に戻り、一番最初に出迎えてくれたのは、頭から血を流した父さんだった。

いつからここはホラーになった?


「また喧嘩したのかよ……俺、やめろって言ったよな?」

「母さんが一方的に殴ってきたんだよ。ほら、俺はいい旦那だからさぁ、嫁に手を出すなんてできないよ」


いや、父さんも瓶を片手に殴り合ってただろ、何を言ってるんだ……


「すみませんね、梅田うめださん、はるかさん。ずっとうるさくて」


「いえ、迷惑になることを気にして、一番後ろで殴り合ってましたから。特に気になりませんでしたよ」


ならよかった。

まぁ、良くはないんだけど……


「次の決勝戦は、俺が負けること前提で見ててくださいね。十秒耐えたら褒めてください」

「高橋さんならいけますって! 絶対に勝てますよ!」


うぅ……そう言ってくれるのはうれしいけど、逆に負けたときが嫌なんですよ……

まぁ、俺一応言ったからね!? 絶対負けるって言ったからね!?


「あ、そういえば高橋さんは誰かにサインくださいって言われました?」

「はい? 言われましたけど……」


まさか、はるかさんも言われたのか? まぁ、強いし美人だもんな~

あ、邪な感情ではないよ?


「ロバートさんが大変そうでしたから、もしかしたら輝さんも大変だったのかな~って……ほら」


指さされた方向を見ると、何十人という人だかりができているのが見えた。

そしてその中心にいるのは、ロバート!

なにぃ!? 俺の十倍……いやそれ以上だと!?

しかも全員紙とペンをもってやがる! 間違いない、サインだ。


何かは分からないが、圧倒的敗北感が襲ってくる。

なぜだ……なぜあんなにも人気が出るんだ……確かに彼は男前だし強いし、優しそうだし……

うん? 今俺、全部言ったな。

自分の疑問に対しての答えを全部言ったな。


あまりの敗北感に、そこから目を背けると、反対側の席にぽつりと座るウィリアムの姿が見えた。

狂人の彼もうらやましいのか、ジーっとロバートの方を見つめている。

彼の周りには、誰もいない。

おそらく全員ロバートの方に行ったのだろう。


「あぁ……お前もか、ウィリアム」


悲しそうな彼の姿を見ながら、俺はつぶやいた。


「ちなみにはるかさんはどうだったんですか?」

「四十人くらいに言われましたよ。全員に書くのに苦労しました……」


ああぁぁぁぁぁぁ!!!!!

なんだよ……なんなんだよ!

二桁!? 八でも九でもなく、二桁だと!?

俺の……三人の喜びはなんだったんだよ!


「輝……あまり悲しむな。世の中、複数人にモテればいいってもんじゃない。実際にこんな俺でも、素晴らしい妻を迎えられたのだから」

「あ、あなた!」


父さんの一言に、怒りで顔を真っ赤にしていた母さんの顔が、より赤くなる。

もちろん、怒りではなく嬉しさで。


「当然だろ、君みたいな女性には、もう出会えないと思っているよ」

「私もよ……」


なんだろう、慰めてくれてたのに、目の前でいい雰囲気になるのやめてもらっていいですかね?

結局全員敵じゃん、唯一の救いは、ウィリアムのあの悲しい姿……


「はっ!」


心を慰めようと、再びウィリアムの方を見ると、十人ほどの女性が紙とペンを持って近づいているのが見えた。

それを見たウィリアムは、嬉しそうに紙とペンを受け取り、自分のサインを書き込んだ。


なんだよ!

結局お前もかよぉぉぉ!?


俺は逃げるかのように、その場を立ち去った。

こんな光景を見てたら、決勝まで心がもちません。





控室に戻ると、さっきまで俺の席で爆睡していた神の姿がなかった。

なんだ、やっと俺の席をどける気になったか。

そう思いながら座ると、ぎゅむっという謎の感触と共に


「ぐえ!」


という悲鳴が下から聞こえた。

ん? と思い下を見ると、先ほどまでいなかった神が俺のケツの下で寝ころんでいた。


「何やってんだよお前!?」

「こっちのセリフだ! 神の腹を踏み潰すとはどういうことだ!?」


「さっきまでお前いなかったじゃねーか!?」

「お前も持ってる不可視だよ! そのくらい見破れ!」


「見えないから不可視なんだろ!? 分かるわけねーだろ!」


どうやら、一人で寝ていたら他の選手に見られるので、不可視を発動して寝ていたそうだ。

そこに戻ってきた俺が座っちゃったてわけ。

俺、悪くないよね?


「まぁいい。俺は心が広いからな。今回のことは不問にしてやろう!」

「どこまでも上から目線な奴だな! まず人の席を占領するのやめろ!」


その言葉も意味をなさず、神は再び眠った。

はぁ、どうして俺の周りには変な奴が集まってくるんだ?


「まもなく、決勝戦が開始されます。 選手の二名は入り口まで移動してください」


もう開始間近か。

なぜだろう、全く休憩できなかった気がする……




入り口に向かう途中、すぐるに出会った。

俺を見るなり笑って、ポンと肩に手を乗せてきた。


「いい勝負にしようぜ、お互い悔いのないように」

「あぁ、全部出し尽くしてやる」


奮発して、弾丸を二千発購入した。

まぁ、大会の賞金があるから、ルディはまだまだ余裕だ。


さぁ、今大会ラストの戦いの始まりだ!

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