第14話 優の戦いー2

『はえぇ、はえぇな! どうやってそんな速さで大剣振り回してんだ!?』

『力いっぱい振り回すだけだよ!』


狂人へんじん筋肉へんじんが、とてつもない速さで斬り合う。

相手は剣だというのに、そのスピードに大剣でついていくすぐるは本当になんなのだろうか。

神のいたずらで生まれた生き物にしか見えなくなってきた。


「やっぱ、すぐるが押してくるか」


スピードは互角、ならばそれでいて威力が勝っている大剣の方が優位に立つ。

少しずつではあるが、ウィリアムの体制はだんだんと悪くなっていく。


『剣は斬るだけじゃないんだよ!』

『ちっ!』


ウィリアムは攻撃をかわすと、すぐるの方へと剣先を突き立てる。

刃はすぐるの右肩を貫通し、かなりのダメージを与える。


『悪いがこっちも、大剣これだけが武器じゃねーんだよ!』

『あらま! 俺浮いてるぅ!! 腹痛いけど』


ウィリアムの腹へ、すぐるの強烈な蹴り上げが入る。

もろに食らったウィリアムは、二メートル程上へと吹っ飛んだ。

なんて筋力だ……


『俺は着地も普通にはしねーよ!』


落下するウィリアムは、剣を頭上へ振り上げる。

そして落下の勢いを乗せ、思いっきり剣を振り下ろした!


『おっしゃぁぁぁぁ!!!』


すぐるそれをそのまま大剣で受ける。

だが、さすがに威力が高すぎて、すぐるが押された。

すると、にやりとすぐるは笑う。

それを見たウィリアムは、早々に倒さないと、と思ったのかさらに剣に力を込める。


『これで生き残ってたやつが勝者になる』


そういうと、すぐるの大剣が赤く光る。

ロバートの時には黄色に光っていたから、あれはまた別の能力スキルか。


『怪しい奴からは離れる! 生きるための基本!』

『失礼だな、どこが怪しいんだよ』


大剣の光を警戒し、距離を取るウィリアムを、すぐるが追いかけて距離を潰す。

そして、お互いの間に、大剣を入れる。


『よくあるよな、相打ち狙いで爆弾使う奴!』


そう言うすぐるの目は笑っていた。

言葉でこの能力スキルが何かを察したウィリアムは、とっさに剣で頭を守り、距離を取ろうとバックステップを踏む。

だが、間に合いはしなかったようだ。


ドガァァァァン!!!

会場全体を吹き飛ばす勢いで、大爆発が起きる。

観客席側は守られているが、戦闘スペースは完全に大爆発に晒された。

文字通り更地……どころか地面がえぐられて陥没している。


「あれ、お前でも死ぬか?」

「いや、俺は神だぞ? 人間の使う”死”とか、そんな言葉が当てはまるような存在じゃないさ。まぁ人間は耐えられないだろうがな」


「じゃああれ何さ」


煙の中にかすかに見える、二つの人影を指さす。

何とは聞いたが、答えはもう決まってる。


『生きてるぜぇぇぇ!? お前はどうだよ爆発魔!』

『お前が生きてるのに俺が死ぬわけねーだろ』


無事に二人とも生きていた。

まず片方が死んだらブザーが鳴るからな。

なっていない時点でなんとなく察したよ。


「うぉ! すげぇ、あれで生きてるのかよ!」

「異次元すぎるだろ!」


爆発を生き延び、煙の中から姿を現した二人を見て、観衆が声を上げる。


『今のが最終手段……ってわけじゃねーだろうな!?』

『喜べよ、まだまだあるに決まってるだろ!』


すぐるの大剣が、黄色の光を纏う。

ウィリアムも能力スキルを発動し、剣が赤く光る。


『死ぬなよ!』

『終わるなよ!』


互いが距離も潰さず、その場で刃を振る。

それは、剣士同士の戦いにしては遠すぎる距離。


すぐるの大剣は、地面を砕き相手に向かって衝撃波を飛ばす。

飛んだ衝撃波は、地面をえぐりながら一直線にウィリアムの方へと向かっていく。

対して、ウィリアムの振った剣からはいくつもの斬撃が発生し、不規則な動きですぐるへと飛んでいく。


『こんな小さな斬撃、誰が喰らうんだよ』


すぐるは大剣で斬撃を受け止める。


『さっきのお返しで~す!』


攻撃を避けたウィリアムは、すぐるに向かって手を伸ばす。

その瞬間、大剣の刃へと食い込んだ斬撃は、急に小規模の爆発を起こした!

小規模とはいえ、それがいくつも、しかも至近距離で爆ぜたのだ。

人間ならば軽く全身が吹き飛ぶだろう。

だが、試合終了を知らせるブザーはまだ鳴らない。


『近接武器って優遇気味だよな』


爆発を耐えたすぐるの周りには、ひびが入ったバリアのようなものがあった。

天恵てんけい』とは別の能力スキルのようだ。

近接武器には『天恵てんけい』があるのに、あいつはまだ別の防御能力スキルを持ってるのかよ。


「あれは剣、大剣にのみついている固有能力スキル結界バリアだな。天恵てんけいと同じで、一定量のダメージを防ぐことができる」

「……なぜ、同じような能力スキルを二つもつけた?」


「ん? そりゃ、他の武器と比べて攻撃を受けるリスクがでかいからだよ」

「槍もなかなかにリスクあると思うけどな……」


この神、能力の割り振りを案外適当にやったんじゃないか?

すぐるが自分で言ってたが、本当に近接武器がかなり優遇されてる気がする……


『もうそろそろ、お前に刺された肩が痛んできそうだからさぁ、本気で行かせてもらうぜ!』


すぐるの目つきが変わる。

それと同時に、圧倒的威圧感も放つ。


『じゃあ俺も、本気で行こうかね! この斬り合いで決めてやるよ!』

『あぁ、後のことは考えない。これで決める!』


互いに雰囲気が変わる。

あれで両方本気を出してなかったのかよ……


『よっしゃぁぁ!』

『行くぜ!』


互いに地面を強く蹴り、中央で激突する。

二人が蹴った地面は激しくえぐれている。

そんな脚力で突撃した二人から、激しい衝撃が生まれる。


『これだよこれぇ! 俺を満たしてくれる最高の”楽しさ”! これを求めてたんだよ!』

『なら思う存分楽しめや!』


衝撃の中心部で、二人は何度も刃を交える。

斬り、はじき、また斬る。

すさまじいスピード、あり得ない威力で互いの刃はぶつかり続ける。


これには観衆も、俺の横にいる怠け者も興奮を隠せない。

今まで以上の、最高の盛り上がりを見せる。


『さぁさぁさぁ!! スピードが落ちてきてるんじゃないか!?』


肩に傷を負っているすぐるは、その分スピードが遅くなっている。

しかも、動かしている分だんだんと傷はひどくなっていく。

威力で補ってはいたものの、だんだんとそれが出来なくなってくる。

すぐるの一撃の間に二発、ウィリアムの攻撃が入ってくる。


『落ちたんじゃねぇ、落としたんだよ』


すぐるの大剣が炎を纏う。

そして斬り合いの最中にも関わらず攻撃を止め、大剣を頭上まで振り上げる。

その間の攻撃は、『天恵てんけい』と『結界バリア』で防ぐ。

だが本気のウィリアムの攻撃を防ぐには耐久力が足りない。

三発防いだところで、どちらもが砕ける。

そしてそのまま二発の斬撃を、すぐるは腹と腕に受ける。

だがそれに耐えきり、ついに大剣を思いっきり振り下ろす!


『終わり……だ!!!』


大剣の重さ、そこに落下の勢いと体重すべてを乗せた超高火力の一撃。


天恵てんけい! 結界バリア!』


二重の防御能力スキルを展開し、ウィリアムは防御しようとする。


『そんなので防げるかぁ!』


一撃必殺と言ってもいいその技は、触れた瞬間にウィリアムの防御能力スキルを吹き飛ばした。

そしてそのまま勢いを弱めることなく、相手へと刃が降る。


ドガァァァァァン!!! ビー!!!!

大爆発が起きる。

それと同時、試合終了を知らせるブザーが鳴り響く。


「試合が終了しました。勝者、佐野優さのすぐる!」


「うぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「すげえぇぇぇ!」


大歓声と共に試合が終了した。

負けたウィリアムは、意外にも満足げな笑顔を浮かべてすぐるに歩み寄った。


『楽しかったぜぇ、次は俺の勝利だがな』

『俺も、楽しませてもらった。だが勝者の座はまだ俺のものだ』


握手を交わし、それぞれお互いの控室へと戻っていった。





「お疲れ、すごい戦いだったな」


今回の戦いは本当にすごかった。

お互いにほとんど実力は同じ、その中でも一歩先を行ったすぐるを素直にすごいと思い声をかけた。

だが、それが悪い方に結果を傾けた。

俺からお疲れ、と言われたのがうれしかったのか、再びべったりとくっついてきやがった!


「離れろよ!」

「頑張ったんだからいいだろ?」


「俺にメリットがねーだろ! 俺は自分に利があることしかしないんだよ!」

「嘘つけよ、実際にお前が人のために動いているのは知ってんだぞ?」


と、当たり前のように俺のことを語りだした。

ストーカーの疑いがあるか、通報してもいいかな?


「まぁ、これで俺とお前が決勝で戦えることは確定しただろ? 喜べよ」

「なんなら次の試合で負けてこようか?」


「そしたらお前の立場はかなり落ちそうだな。 雑魚に負けた世界五位って」

「雑魚って言うなよ。みんな自分たちの状況で、できる限りのことをしてるんだからよ」


「でも、それが社会だ。どれだけ努力していても、認められなければ、結果が出なければ雑魚、役立たずと罵られる。俺はそれをよく知っている」

「あぁ、そうですか。だが少なくとも俺はそうじゃない」


「だからお前が好きなんだよ。 今まで俺の周りにはいなかったタイプだからな!」


唐突な告白と共に、さらにギューッと抱き着いてくる。

体格が違いすぎて、抱き着くというよりは、もはや覆われるの方が正しいかもしれない。


「まぁ、とにかく次は俺の試合なんだ。そこをどけ、遅刻してしまう」

「前回は俺のおかげで遅刻しなかっただろ?」


「うっ……」


最後にダメージを入れられたが、まぁいい。

とりあえず試合を終わらせる。

今はそれだけでいい。

その後が憂鬱なんだけどな……


入り口まで行くと、小学生くらいの女の子が三人立っていた。

もちろん俺の記憶にこの子たちの顔は無い。

完全なる初対面だ。


「え~っと、誰かな? ここは観客の人は入っちゃだめだから、見つかる前に出たほうがいいよ」

「高橋さんですよね!? 実は、サインが欲しくて! 貰ったらすぐに戻りますので!」


そう言って、白い紙とペンを渡してくる。

おいおい、まさか俺のファンってか?

小学生なのが残念だが、俺もモテるんじゃねーか。

しかも三人から! 

一よりも二よりも多く、四よりも少ない数字、そう! 三人からモテている!


とは言っても、俺は今までモテたことは愚か、サインが必要な状況になったことすらないので、何を書けばいいのか全く分からない。

よくアイドルや有名人が自分の名前をかっこよく描いているが、俺にそんなセンスは無い。


仕方ない、それっぽいのを書いておこう。

ゆっくりと、文字全体を意識しながら、動画で見たものを思い出して書いた。

ローマ字を少し崩しただけだが、案外それっぽくなった。


渡すと女の子三人は、大喜びで走っていった。

誰かに見つからないことを祈りながら、その背中を見送った。


よし! そろそろ試合が開始だ。

とはいえ、さっきの試合の後だと、どうしても自分がかすんで見えそうでなんか嫌だな。

あいつらを最後に出してほしかったぞ……


「開始!」


これに勝てば決勝、すぐるとの戦いだ。

あいつと戦いたいわけではないが、負けられない!

気合いを入れて臨もう!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る