第13話 優の戦いー1

「簡単に終わるなよ!?」


すぐるは大剣を構え、ロバートに向かって突っ込む。

対してロバートは、その場から動かず、落ち着いて弓を構える。

そして手を放し、矢を放つ!


しかし、矢は放たれた瞬間に姿を消した。


「な!?」


思わず声が出た。

放たれて姿を消した矢は、すぐるの後ろに……しかも五本、六本に増えて姿を現した!


「おいおい、マジシャンかよ!?」


すぐるは進むことを止めて振り向き、全ての矢を斬ってしまった。

なんであいつ、大剣をあんなブンブン振り回せるんだよ……

小さい時から、筋トレとプロテインが日課だったのか?


「……」


ロバートは無言のまま、再び一本の矢を手に取り、弓を引き絞る。

正確にすぐるを狙い、再び矢を射る。


また矢が消える……と思ったが、矢は先ほどと違う動きをした。

矢は炎を纏い、一直線に飛んでいく。

炎の軌跡が残るのは、まるで赤い流れ星のようだ。


「受けてやるよぉ!」


すぐるは真正面から、矢に向かって進む。

そして思いっきり大剣を振り下ろす!


炎と大剣が交わった瞬間、激しい衝撃波が発生する。

その衝撃波は広がり、観客席にも迫る。


「やばくないか!?」


だが闘技場に備わっている保護機能なのか、見えない壁により、熱風も衝撃波も、観客席に達する前に消える。

はぁ、良かった。

危うく、全員がこんがり焼肉になってしまうところだった。


「……」


攻撃により発生した土煙で、ロバートの視界は大きく制限される。

こうなれば、相手に近づいて攻撃できるすぐるの方が有利だ。


「こっちだよ!」


なぜ言う!?

すぐるは、わざわざ叫んで相手の左後ろから姿を現した。

もう、大剣を横に振っている。

すぐにロバートは反応し、弓で大剣を受け止める!


しかし、もう攻撃を開始していた上に相手は大剣。

まともに受けられるはずがなかった。


「……!」


大きく吹き飛び、壁へ激突する。

だがまだ試合は終わっていない。

あれでは死なないってことだ。


「うぉぉぉ! あれを人間は耐えられるのか!」

「ん? だからなんでお前ここにいるんだよ!」


「シー、ここには他の人も沢山いる。あまり大声を出さないでくれ」


いつの間にか横に座っていたのは、神出鬼没の自称神だ。

本当に、いつの間にか居たな……

まぁいい、気にせず試合の続きを見よう。




「よっしゃ! 終わりだぁ!」


ロバートが激突した壁に向かって、すぐるは剣を振り下ろす。

ドガッと大きな音が響いたが、大剣が斬ったのは、壁から崩れ落ちた石だけだった。


「なに!?」


次にロバートが姿を現したのは、すぐるの背後だった。

彼は弓を構えているが、今度は上に向かって矢を放つ。

すると飛んだ矢が何百に増幅し、雨のごとく相手へ降り注ぐ。


「こりゃぁまずいな!」


すぐるは壁へと走ると、大剣で壁を切り裂く!

そして切り取った大きな破片を、自分の頭の上へと持ち上げる。


「臨時の傘だ! 発想力で勝つ!」


すぐるの手作り岩傘は、見事に、矢の雨を防ぐ。

だんだんと欠けては来ているが、あの分厚さと大きさならまだまだ持つだろう。


「……まぁ、見てるだけなわけねーよな」


横を見ると、弓を弾き絞るロバートの姿があった。

矢は次第に炎を纏い、先ほどよりも高威力の矢となる。


ヒュッ

矢は通った場所を焼き尽くしながら、相手へと向かっていく。

すぐるも、迎撃の準備をしていた。

能力スキルなのか、大剣の刃が黄色く輝く。


「どぉりゃぁぁぁぁぁ!!!」


矢の到達と同時、すぐるも大剣を振る。

矢と大剣は、ものすごい勢いでぶつかる。

勝ったのは大剣だった。

矢を弾き飛ばし、そのまま地面を砕く!

刃が地面に接した瞬間、激しい衝撃波が発生し、一直線にローバーとの方へ飛んでいく。

一直線に凝縮された衝撃波の威力は想像を絶するものだった。

ロバートの居た場所は、跡形もなくえぐり取られ、まるで大量の爆弾が爆発したようになっていた。


「まだだな」


ガンッ

すぐるは大剣を後ろに振る。

その刃は、いつの間にか後ろに移動していたロバートの弓を弾き飛ばす!


武器を飛ばされたロバートは、弓を取ろうと手を伸ばす。

だがそれが仇となった。


「今度こそ、終わりだな!」


上から振り下ろされる大剣を、もろに食らったのだ!




ビー!!

「試合が終了しました。勝者、佐野優さのすぐる!」

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


大歓声と共に、すぐるが勝利を収める。

ロバートは静かに見つめていたが、フッと笑い、背を向けて立ち去ろうとした。


『待てよ』


そんな彼に、優が声をかける。

言語が通じるのか?


『いい試合だった。ありがとう』

『……こちらこそ、楽しい戦いをさせてもらったよ』


二人はギュっと握手を交わした。

それを見て、再び大歓声が起きる。

そうしてすぐる対ロバートの激闘は幕を閉じた。






「どうよ? すごかっただろ、俺らの試合」

「あぁ、すごかったよ。それはそうと、くっついてくるな!」


「えぇ!? ひどいな! 俺はお前が好きだからこうしてくっついてるのに」


いや、お前の立ち位置が絶世の美女とかならよかったよ?

可愛い顔で、あなたが好きだからって甘えてくっついてくる。

最高じゃないか。

でもな? お前は違うぞすぐる

世の中にはいるだろうが、俺はお前みたいな筋肉質男性にくっつかれて喜ぶ人間ではない!

はっきり言って暑苦しい!

なんでこんな好かれてんだ?

俺、一回こいつと殺し合ったよな?


「じゃあ、お前が知りたいこと一つ教えるから、十秒だけ許可してくれ!」

「……まぁ、十秒だけなら。でもその前に俺の質問に答えてもらおうか」


「いいぜ! なんでも聞きな!」

「お前、ロバートと話してたよな? 言語は通じるのか?」


「ん? いや、メニュー画面に翻訳会話機能があるだろ」

「……なにそれ?」


どうやら、メニュー画面には、自分の話したことをリアルタイムに翻訳し、相手の脳へ届けるという便利機能があったらしい。

それを今の今まで俺は知らなかったということだ。

え? じゃあ俺、そんなことでこいつに十秒も抱き着かれるの? 嘘だぁぁぁ……




……さてと、気を取り直していこうか。

地獄のような思いで、なんとか十秒耐えた。

まだ~っとお願いしてくるすぐるを押しのけ、ロバートの方へと向かう。


『なぁ、ロバートさん』

『ん? あぁ、君は確か高橋輝さん。聞いていますよ、第一試合では、あの中野悠なかのはるかを破ったとか。お会いできて光栄です』


かなり礼儀正しい人だったようで、丁寧に話してくれる。


『一つ聞きたいんですけど、あなたはなんで左目を瞑ってるんですか?』

『気づいたんですか?』


『えぇ、あなた実際は見えてますよね?』

『ふふ、バレてましたか。ちなみに、どうしてお気づきに?』


『さっきの戦いで、すぐるがあなたの左後ろから斬りかかった時、かなり速い速度で反応していた。振り返っていたとはいえ、左目が見えていなければあの速度の反応は無理だ』

『目を瞑っていても、バレるんですね。そうです、私は左目が見えている。でも、それは能力スキルのおかげで、実際の私の体は本当に左の視力を失っています』


話を聞くと、彼は能力スキル狩人の目かりうどのめ』を持っているらしい。

これは、聴覚、嗅覚、触覚、などの感覚を最大まで強化し、その情報を視覚データへと変換する能力。

難しいが、簡単に言えば、匂いや音で周りの状況を把握できるってことだ。

そのため、実際に見えていない左目も、疑似的に視力を取り戻しているらしい。


確かに、彼は左後ろからすぐるが現れていた時、左目が見えていたとしても視認できていないだろう、という段階で反応していた。

なるほど、『狩人の目』によって、後ろの情報も得ることができるのか。


『なるほど。よくわかりました、お時間を取らせてしまいすみませんでした』


疑問が解けたので、その場を立ち去ろうとすると、ロバートに呼び止められた。


(ロバートから、連絡先交換の申請が来ています)

ん? まぁ……(はい)


『どうかまた、この老人の話し相手になってくれませんか?』

『ぼくでいいなら、全然大丈夫ですよ』


『ありがとうございます』


ロバートはやわらかい微笑みを浮かべた。

なんだ? 俺とこの人は今が初対面だったはずだけど……





「お~い! てる、お前が次だぞ!」


戻ると、すぐるが焦った様子で叫ぶ。

やべ!? そうだった!


急いで入り口まで向かう。

あっぶね~ 遅れて負け判定になるところだった。

これは、すぐるに感謝だな。


「開始!」


到着してすぐ、準備をする間もなく試合が開始される。

おっとっと! 危ない、ギリギリ準備できた!


(不可視!)


最初の動きは前回と同じ。

相手の視界から消え、武器などを観察する。

そして武器によって、こちらが有利となる距離を確保する。


今回の相手の武器は……銃じゃん!

なら遠距離に持っていくか? おそらく俺が撃ち勝つ。

相手が撃った弾丸も、『動視強化』と『身体強化』で回避できる。

確実なのはこれだな。


相手からそれなりの距離を取った場所に、姿を現す。

元から照準を合わせ始めていた俺と、急に現れた俺に照準を合わせ始めた相手。

当然、俺の銃の方が速く弾を撃ちだす。

ドン!……ドン!


俺よりも本当に少しだけ遅れて、相手の弾も撃ちだされる。

だが、とっさに撃ちだした弾は的外れな方向へと飛ぶ。

まぁ、一般人が銃を使うのはかなり難しいよな。


対して、『照準』と『追跡』の二つの能力スキルによって、俺の弾は正確に相手の頭へと飛ぶ。


ビー!!!

あっけない、実にあっけない。

観客も、拍手はするが、先ほどのように大歓声は起きない。

まぁ、こんなもんだろう。

さっきのすぐるたちの試合を見てからでは仕方がない。

恐らく、大いに盛り上がりを見せる試合は後二回。

すぐると世界三位ウィリアムの戦い、そしてその試合に勝ったどちらかと俺の戦いだ。

楽しみにしていてくれ。

まぁ、そんなのと戦う俺は憂鬱だけど……




「お疲れ、余裕ってところか?」

「まぁ、武器差があるからな」


「使い手にもよると思うけどな~ そんなに自分を落とさなくてもいいだろ?」

「それが俺の思っている、自分への評価だよ。落とすも何もない」


「まぁ、お前が言うならそれでもいいが……レア種を運で得た思ってるなら間違いだぞ?」

「どういう意味だ?」


「さぁ? まぁいずれ分かるさ」


そう言ってすぐるは、どこかに行ってしまった。

全く、自由な奴だな……それはそうと


「お前は何してる!」

「っ……うるさいな、みんながいるから静かにって言っただろ?」


「ならせめて、俺が静かでいられるように行動してくれ」


俺のスペースを占領し、椅子に寝転がる神に向かって怒鳴る。

だが、反省の様子はなく、フードを深くかぶり、再び目を閉じる。


「ね! る! な! 他の場所に行け!」

「ここが一番日当たりいいんだよ。もう少し神を敬って――」


「上でも言ったが、俺はお前を信仰の対象にはしてないんだよ!」

「いてっ!? 流石にこれはひどいだろ!?」


寝転がる神を、俺は椅子から突き落とす。

はぁ、静かにしてくれって言うが、こいつがうるさくさせてるんだろーが。


「大人しく試合を見てられないのかよ?」

「弱者の戦いなんて、子守歌にも満たないんだよ」


「じゃあなんでこんな世界にしたんだ? バランスが崩れれば、世界が崩壊することなんて目に見えるだろ」

「そうだな、権力による支配バランスは崩れた。だがな、世界はいつも何かに支配されてるんだよ」


「もっと分かりやすく言えよ。要するに、これからは権力ではなく、実力という”力”が世界を支配するってことだろ?」

「あぁ、楽しみだ。これから世界はもっと面白くなる」


「……?」


なにを言ってるんだ、こいつは。


「まぁ、次の戦い……第三試合は面白くなりそうだろ」

「そうだな、とっても楽しみだよ。あぁ、決勝戦も期待しているよ」


「俺に期待した奴らはみんな、落胆するんだよ。期待をかける奴は選んだ方がいい。期待しなければ、落胆することもないからな」

「つまり、期待をかけなければ味わえない喜びもあるってことだな」


どうとったらそうなるんだよ……

変な奴だな。

まぁ、神は俺たちとは考え方が違うんだろうけど。


「おっ、すぐるとウィリアムの戦いが始まるみたいだ。ほら、てるも見ようぜ」

「って、それ俺のお茶じゃねーか!」


逆に感心するくらい、当たり前のように神は俺のお茶を飲む。

まだ一口も飲んでないってのに……


「ん? 飲みたいのか?」


仕方ないな……って顔で、神はお茶を差し出してくる。

だ! か! ら! 俺のお茶だって!

しかも飲みさしを渡してくるなよ!


「開始!」


あぁ! もう、始まってしまった!

仕方ない、お茶は諦めよう。




『剣使い……同じ近距離同士、いい戦いになりそうだな!』

『互いの体が血しぶきをあげながら戦う、なんと美しい戦いか!』


戦闘狂みたいなことを言っている、あの三十歳くらいの男がウィリアムだ。

体中に傷跡があり、この世界が変わる前から、どんな生活をしていたのか疑問だ。

ただまぁ、お互い楽しそうだからいいか。


『よっしゃぁぁぁ!』

『ヒャッホーウ!』


過去最大にやばい奴らの戦いが、今始まった。






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