第10話 強すぎる対戦相手

(不可視!)


最初の二秒間、相手から姿を視認されないようにする。

その二秒間で相手の武器を確認し、立ち回りを決める。


向こう側の扉から出てきたのは、かなり体格のいい外国人だ。

武器は銃……あんなに良い体格なのに銃なのか。

警察や軍に所属していたのか?


まぁいいさ。


「そこ!」


相手の斜め前に姿を現すと同時、照準を定め、引き金を引く。

ドンッ! という発砲音と共に、弾丸はまっすぐ相手へと飛んでいく。

相手はかろうじて、こちらの姿を視認できただけだろう。

防御も、反撃も、何もできず、弾丸に頭を貫かれる……直前


ビー!!!

「試合が終了しました。勝者、高橋輝たかはしてる!」


警報音のような音と共に、アナウンスが流れる。

いつの間にか俺と相手は、それぞれ入口へと戻されている。

なるほど、こんな感じで、どちらかが死ぬ直前に試合を終わらされるのか。


パチパチパチパチ!!!!

一瞬で試合が終わったので、観客もあっけにとられるかと思ったが、まさかの盛大な拍手をもらえた。

いやぁ、ありがとう! ありがとう!


(賞金 一万ルディを入手しました)


お! 今までの俺の稼ぎの約三倍の報酬だ!

神が言っていた通り、かなり報酬は良いみたいだな。

よしよし、この調子で勝ち続けてやる!!




……って調子乗ってたらさ、こうなるんだよな……

第一試合が終わり、たった今、第二回戦のトーナメント表が発表された。

次の俺の対戦相手の名前は中野悠なかのはるか、元ランキング一位、現ランキング二位の人だ。


終わったあぁぁ!!!!

どうしてこうなる!? 神はこうも俺のことが嫌いか!?

神に嫌われることなんてしたことないぞ!


「今から三十分間、休憩時間を設けます。選手の皆さんは、自由に移動してください」


あ、やっと戻れる!

選手は、他の人が戦っているときは特別な控室で待機させられていた。

俺は試合を観戦しながら、カゴに入っていたお菓子を食べていたよ。


「あ、戻ってきたか、輝」

「あぁ、三十分間はゆっくりできるよ」


みんながのところへと行き、空いていた椅子へ腰を掛ける。


「一回戦は瞬殺でしたね! この調子なら優勝もできるんじゃ!?」

「いやぁ、まだ一回勝っただけだし、次がなぁ……」


俺の表情を見て、梅田さんはハテナの表情を浮かべる。


中野悠なかのはるか……元々ランキング一位、現二位のやつだよ」


流石父さん、情報が早い!

毎朝新聞を読んで、会社に遅刻しかけていただけのことはある。


「二位……ものすごい人じゃないですか!?」

「そうなんだよな~ 当たりが悪かったと言えばそうだけど、まさか二回戦で当たるとは……」


というか、同じ会場だったのか。

会場が十五個あるんだぞ!?

なぜ被るんだよ!


「確か槍使いだったな。それなら輝の銃の方が有利じゃないか? 槍なら剣とか見たいに銃弾を斬るってことはできないだろうし」

「さぁ、でもあいつの持ってる武器には固有能力スキルがいくつか付いてるんだ。普通の武器よりも強力だから、なにが付いてるか分かったもんじゃない」


実際、すぐる強奪ロブを仕掛けられた時、あいつに俺の銃弾は通用しなかった。

あいつの大剣の固有能力スキルだとしたら、近接武器にはあんな感じで、防御関係の能力スキルが付いているのかもしれない。


もし槍が無限に伸びますとか言われたら、俺もう逃げることしかできない。

いや、もしくは投げた槍が手元に戻ってくるとか!?


まぁどちらにしても、最初から強気に仕掛けるのは危険だな。

あいつの一回戦、見ていたが特に能力スキルを使っていたようには見えなかった。

相手の攻撃をかわして、そのまま反撃して終わりだ。

こちらも様子見をして、慎重に動く必要があるな。


「今回もお前が最初だ。相手も段違いに強いだろうが、ここで勝てばお前の印象は最高だ、頑張って来い!」

「簡単に言うなよ~ でも、そうだな。頑張るよ!」


高橋輝たかはしてる様、中野悠なかのはるか様がお呼びです。 可能であれば、待機室までお越しください」


機械的な女性の声でアナウンスが流れる。

え? 俺? しかも中野悠なかのはるかが?

……なんだ?


「一応行ってみるよ」




待機室に行くと、一人の女性が座っていた。

年は二十歳行っいないくらいか。

かなり若いな。


「高橋さんですか?」

「はい、そうですけど……何か用ですか?」


俺、なんかやらかした?


「いえ、特にこれといった用はないんですけど、ランキング上位で数少ない日本人だったので、話してみたくて」


確かにランキング上位は外国人が多いな。

上位五の内、三人が日本人だったが、まぁそこは偶然だろう。

実際、上位五はレア武器を引いたからであって、真に実力を持っている人たちではない……と思う。

少なくとも俺はそうだ。


その反面、それ以外の人たちは己の能力で順位を上げるしかない。

そうなると、遺伝子的、文化的に身体能力が高かったり、戦闘に慣れている人たちの方が有利になる。


「あなたの銃、レア種ですよね? どんな能力なんですか?」

「……」


「あ! すみません……今から戦うのに、それを言っちゃだめですよね」

「まぁ、戦えばすぐにわかる能力ですよ」


「この世界……どうですか?」

「どう? 世界から見ての良し悪しか、それとも自分から見ての良し悪ですか?」


「どちらもです。まだ三日目ですが、それでももう多くの犠牲者が出ている。でも逆に、この世界になったことで生活が安定した人だっている。私とか」

「僕はまだあまり変化はないですかね、ただ生きるために動いてる。ただ、少し楽しくも思ってますよ。何気ない日常に、変化が訪れたことが」


私とか……?

この人は、生活が厳しかったのだろうか。

まぁ探ることはしないでおこう。


「私は、そう遠くないうちに世界が分かれると思っています。力の使い方を巡って」

「自身のために使うか、人のために使うか……ですか?」


「それもですが、もっと大きな問題です。この世界、誰が管理すると思いますか?」


そりゃぁ神……は見てるだけだな。

今まで政治をしてくれていた人たち……いや、バランスの崩れた今は、もう無理だな。

となると……


「力を持った人たち……ですか」

「そうです」


「まぁ、この話、僕の意見を言おうとすればかなり時間が必要です。今はもうあまり時間がない。また今度、ゆっくり話しましょう」

「あ! もうこんな時間か。そうですね、また今度」


ピコーン

(中野悠から、連絡先交換の申請が来ています)


こんな機能があるのか。

初めて知った!


(承認)


「では、また後で」

「……高橋さん」


「ん?」

「本気で、ぶつかりましょうね!」


静かな雰囲気だった彼女の目つきが変わる。

言った通り、本気で戦おうという目だ。


「えぇ、手加減なしで!」


俺は笑って返す。

元よりそのつもり……というか本気じゃないと負ける!


「これより、第二回戦を開始します。選手 高橋輝、中野悠」




相手は、現世界二位、まごうことなき最強格。

油断すれば負け、一つのミスでも負ける。


「何を緊張してるんだ? いつも通りいけよ。今までのお前も、そうやって乗り切ってきたんだろ?」


自分に言い聞かせる、これが一番!

結局、実力が同等な人同士が戦う時、気持ちが強い奴が勝つ。


「開始!」


合図と共に、扉がゆっくりと開く。


「うおぉぉぉぉ!」


俺たちの姿が見えた途端、大きな歓声が上がる。

おいおい、照れるじゃねーか。


中野さんの方を見ると、彼女もみんなに手を振っていたが、こちらを見てほほ笑む。

そして互いに目を合わせ、ギュッと武器を握る。

互いに動かず、相手の動きを観察する。


槍、俺の死生剣の三倍は間合いがあるな。

だが長い分、近づけば攻撃を食らうことはなさそうだ。

俺の戦える距離は遠距離と近距離。

槍の使える距離は中距離、近づかれれば振れず、遠すぎれば当たらない。

俺の方が有利か。


まずは距離を取りつつ、相手の動きを探る!


(不可視!)


相手の視界から消え、横へと回り込む。

銃を構え、相手の頭へと一発の弾丸を撃ちこむ。

ここまでで一秒。


そしてそのまま後ろへ回り込み、もう一発の弾丸を放つ。

二秒、ここで俺の『不可視』の効果が切れる。


キン! キン!

弾丸が当たる直前、まるで見えない壁に弾かれたように、弾丸が跳ね返される。

やっぱりか、レア種の近接武器には、防御能力スキルが付いていると考えてよさそうだな。


発動条件はなんだ? 無条件に常に発動するのか? 耐久値はあるのか? それとも一定以上の威力の攻撃でのみ破れる?


「な……!?」


瞬きをした瞬間、彼女が俺の視界から消えた。

こういう時は大抵……


「後ろ!」

「グッ」


右手に持っていた剣を、思いっきり後ろへ振る。

ガキーン!!という音と共に、俺の腕に強い衝撃が走る。

ヒットだ!!


俺の振った剣は、後ろに現れたはるかの槍を受けた。

危うく串刺しになるところだった……


「身体強化……ではないみたいだな」


俺も使っているが、瞬き一つの間に消えることができるほど、速くは動けない。

となると瞬間移動? 予備動作なしとなると厄介だな。

今はたまたまた予測した後ろに現れたからよかったが、次もそうとは限らない。


「なら!」


地面を強く踏み、彼女の周りを不規則に動く。

瞬間移動とはいえ、どこにどう動くか分からなければ、移動のしようがないだろう……とか、そう簡単なわけがなかった。


「うわぁぁぁぁ!?」


俺が足を踏み出そうとすると、ちょうどそこに槍が突き刺さった!

硬そうな地面は、いとも簡単に深々とえぐられている。

あ、危ない……足を踏み出してたら……


死ぬ前に試合は終わるけど、死なないなら、どんな重症でも試合は終わらない。

ギブアップするまで……


サァァっと、俺の顔が一気に青ざめる。

まじで、怖いって……


いや、切り替え切り替え!

なんで彼女は俺の動きが分かった?

酔っ払い顔負けの不規則な動きで動いたはずだ!


動いてもダメ、止まってもダメ……つまり詰みと。

かなりまずいぞ。


「頑張れー!!!!」


はっ!

声がした方を向くと、父さんたちが大声で俺を応援してくれていた。

そうだ、俺は期待されている、勝てると信じてもらっている。

父さんたち以外にも、(多分)俺を応援してくれている人がいる。

諦めるな、とにかくやれることを全部しろ!!


(不可視!)


今一番の脅威は、『瞬間移動』で攻撃されることだ。

なら、彼女の至近距離で攻撃をすればいい。

『瞬間移動』で距離を取られた場合は、できる限り再び距離を潰すしかない。

大丈夫、『動視強化』があるから、動きを捉えられない……ということは無い。


「おりゃっ!」


彼女に接近し、思いっきり剣を振る。

『不可視』を発動しているため、まだ彼女は俺の居場所を把握していない。


ガリガリガリ!!!

俺の剣は、銃弾のように弾かれることはなく、まるでバリアを削るような音をたてた。

攻撃によって、俺の居場所を把握した彼女は、思いっきり槍を俺に向かって突き刺す!

しかし、頭をひねりギリギリで躱す。

その瞬間、『不可視』の能力が切れた。


「うおぉぉぉりゃぁぁぁぁ!!!!!」


バリアによって止められていた剣に、思いっきり力を込める。

すると、バリバリ! と音を立て、彼女の周りにあった”何か”が砕けた。

直後、彼女は俺とは反対側へと瞬間移動し、距離を取る。


ドンッ!!

それを見て、銃弾を撃ち込む。

すると彼女は、槍で銃弾を防いだ!


今なら、見えない何かは無いようだな。

恐らく銃弾も通る、だがいつ回復するか分からない。

攻撃で破れたということは、やはり一定以上のダメージを与えるのが解除方法のようだ。

それが分かっただけで、かなりの進展だ!


「ここからは強気に行こうか!」


弱気に行けば、相手の波に吞まれてしまう。

呑まれるのは、スライムの時でもう十分なんだよ!


ここからは俺が攻める側だ。

絶対に勝ってやる!

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