第9話 神の再来

「なぁ父さん、スマホあるか?」

「あるけど……何に使うんだ? 今、ネットどころか電話すら繋がらないぞ」


「浮気の証拠は入ってるか?」

「入れてねーよ!」


「入れて……ない……?」

「いや……言葉を間違えた、まず浮気すらしてない!」


そんな茶番を経て、父さんからスマホを預かり、早足で自分の部屋へと戻る。

これで俺、母さん、父さん、あと梅田さんの計四台のスマホが集まった。


(お父さん以外は)解体するなりデータを見るなり好きにしていいと許可をもらっている。

流石にデータを見るのはかなり抵抗があるので、それはしない。

じゃあ分解はするのかと言われると、まぁするけど後で直す。

これでもある程度知識はある……つもりだ。


「ここをこうして……おい! この機種はどうやって分解するんだよ!」


父さんのスマホは、全面、背面が両方に液晶が付いているよくわからない機種だ。

なんでこれにしたんだ。


バキ……

何か変な音がした気がしたけど、まぁいいだろう。

無事に四台とも解体することができた。

とりあえず、中の機械の損傷に注意しながら、スペースを探す。


「ここでいいや、ちょうどフィットするんじゃないか?」


五ミリほどの隙間に、ある機械を取り付ける。

取れないよう、しっかりと固定をして、再びスマホをもとに戻す。

ぴったりと戻ったのを見ると、他のパーツの妨げにはなっていないようだな。


今、みんなのスマホに取り付けたのはGPSのようなものだ。

昨日、今日の準備をするためにショップを漁っていたら、一つ百ルディというかなり安い値段で売られていた。

これは、装置の位置を、登録した人のメニュー画面に場所を示す装置だ。

衛星などの管理もすべてが手放された世界で、お互いの位置を知る唯一の手段と言えるだろう。

どうやって場所を計測しているのかは知らない。

神の力と言えばどうにでもなるだろう。


「よしよし、正常に機能しているな」


メニュー画面に、位置情報という項目が追加されていた。

開くと地図が表示され、赤色、青色、黄色、緑色の点があるのが確認できる。

赤が俺、青が父さん、黄色が母さん、緑色が梅田さんのスマホの位置だ。




「みんな、スマホを貸してくれてありがとう。ある機能を付けたんだが、今からそれを説明するよ」


みんなにスマホを返却し、俺は自分のメニュー画面を開く。


「みんなのスマホには、位置情報を送る装置を付けた。これで何かあっても、場所を確認することができる。スマホの電源を切るとこの装置の電源も切れるから、そこだは知っておいてくれ」




そこからしばらく、神が現れるのを待っていると、勝手にメニュー画面が起動した。

よくみると、街の空中にも巨大な画面が現れている。

来た!

その場にいた全員が、テレビに目を向ける。


「さて、何から話そうか。とりあえずは人類よ、久ぶり……ではないか」


せめてしゃべる言葉をある程度決めてから出て来いよ……

かっこ悪いぞ、かなり。


「まずは約束していたランキング、そして大会の説明から行かせてもらおうか」


ブゥン

メニュー画面が起動し、ランキングが表示される。


「ランキングには、二つの要素がある。順位、そしてランクだ」


俺の順位は四位、ランクはSだ。

良かった、どうやら落ちてはいないようだ。


「順位については、もうほとんどのものが知っている通りダンジョンの突破階層で決まる。同率の場合、より早くその階層を突破したものが上になる。もし死者が出た場合、その者はランキング上から排除され、下の者がその枠を埋める形で順位が上昇する。あぁ、まだ一階層未突破で同率の場合、順位はランダムに振り当てられるが、報酬は全員同じだから心配しないでくれ」


「次にランク。これは、その者の実力をより正確に表したものと言える。各ランクは人数が決まっている。Sは上位百人、その下の二百人がA、さらにそこから下三百人がB、さらにその下五百人がC、それ未満がDだ。ダンジョン攻略でも上がるが、もう一つの方法がある。強奪ロブだ」


ここにきて出てきたか。


「例えば、ランクBの者がSの者を倒した場合、ダンジョン攻略度に関わらず、そのものがSとなる。そして、報酬の八割を占めているのがランクだ。つまり、ダンジョン攻略で高順位を取ろうが、ランクを上げなければ大きな報酬を得ることは不可能だ」


なるほど、つまりダンジョンをクリアしても、人同士の戦いを疎かにしていては大量の報酬を得ることは不可能ってことか。

ん? なら必然的に、殺し合いが必須になるじゃないか!

本当に、強者しか生かすつもりがないってことかよ……


「先ほど口にした強奪ロブについても説明しておこう。これは、一定範囲内の者に申し込める殺し合いだ。勝者が敗者の持つ能力スキルルディを得ることができる。ランクが自身よりも上なら、先ほど言ったようにランクが上昇する。ただし、ランクが下の者、同じ者に勝った場合は変動しない。強奪ロブの制限時間は二十分、これを過ぎれば引き分けとし、何も起こらない」


能力スキルも奪うことができるのは、かなりの報酬だな。

ダンジョンで集めるよりもはるかに速く、大量に能力スキルを得られる。

あ、俺はしないよ? 平和が一番だからね!


「次に大会だ。これは定期的に開催する。出場できるのはAランク以上の者のみ。トーナメント制で、勝ち抜くたびに賞金が出る。優勝金は、ランキング一位、順位Sの時よりも高額だぞ?」


てことは、大会に出られるのは上位三百人ってことか。

リーグ戦なら、あまり戦いの回数が多くなることはなさそうだ。


「あと、大会の敗者は死ぬことは無い。毎回毎回上位三百人から死者が出ると、だんだんと戦いの質が下がってくるからな、私が退屈してしまう」


大会も、こいつの娯楽の一つに過ぎないってことか。

こっちは生きるために必死だってのに。


「大会には、特別な力が働く。その特別な力が、今の攻撃で選手が死ぬと判断した場合、即座に試合を終了させる」


え、じゃあ出てもデメリットないじゃん!

負けても死なないし、勝てばお金がもらえる……メリットしかないじゃないか!


「伝えることはこのくらいだ……よな?」


不安そうな言葉を発し、神は手に持っていたらしい紙を確認する。

あいつ、メモ用紙にしゃべる言葉を書いてたのかよ……

なんか……かっこ悪い……


「ではさらばだ! せいぜい私を楽しませてくれ!」


メモ用紙を見ながらしゃっべっていたとは思えない、ちゃんと神らしいセリフを吐いて、神は消えた。




「で? 結局てるは大会に出るのか? お前はランクがSだから出られるだろ?」

「あぁ、デメリットはなさそうだし、勝つことができればかなりの報酬も見込める。出るだけ出てみるよ」


同じSランクとはいっても、俺を含めた上位五人とその下の人たちでは、圧倒的に実力差がある。

上位五人は、それぞれの武器種のレアを持っている。

正直、他の人が勝てるとは思えない。


「高橋さん、大会に出るならもうエントリーはじまってますよ!」


そういえば父さんが昨日、大会があるって言ってたな。

もう始まってるのか。


「ありがとうござましす。じゃあエントリーしてみようかな」


(第一回武闘大会にエントリーしますか)

はい


(本日十五時に、会場へと移動します。 予定の確認をしておいてください)


どこでするのかと思っていたが、会場が用意されているのか。

でも、世界中から参加してくるはず。

どうやって集めるんだ?

ダンジョンみたいに、どこかへ飛ばされるのだろうか。


(観戦者を登録しますか? 十人まで登録ができます)


どうやら、出場者の選んだ十人は優先的に観戦できるらしい。

そのほかの人は抽選で選ばれるとのこと。


「どうする? みんな見に来る?」

「俺は行くぞ」

「私も行くわ」

「私も、見に行きたいです!」


いやぁ、こんなに見られたら緊張しちゃうなぁ。

ここは一発、カッコいいところを見せないと!


(登録が完了しました。 本日十五時、会場へと移動します)


「……だそうだ、みんなそれぞれ準備はしておいてくれ」


まぁ、何を準備すればいいのかは分からないけどな。

とりあえず、十五時は会場へ移動しても大丈夫なようにしておこう。


現在の時間は十一時。

まだあと四時間ほどある。

まぁ、それまでは適当に時間を潰しておこう。





適当に時間を潰し、十四時五十五分となった。

あと五分後か~

不思議と緊張はしないな。

思えば、今までそれほど緊張したことは無かったな。

ポジティブなのかバカなのか……バカだろとか言わないでね?


「それにしても、どんな戦いなんだろうな」

「そりゃあ、武器を使って戦うんだろ。当然血も流れるだろうし、気分が悪くなったら観るのをやめなよ」

「高橋さんの戦い、楽しみです! もしかして優勝したりして」


「ないない、だって一位は、俺よりも三倍ダンジョンが進んでるんだよ?」


そう、すぐる……前戦った時は運よく時間切れになったが、あいつがどんな能力スキルを得ているかは分からない。

この前みたいに、ただ大剣を振り回すわけがない。


(会場へと移動します)


通知と共に、俺たちを暗闇が包む。

特に移動した感覚は無かったが、暗闇が晴れると、俺たちは別の場所へ移動していた。


「なんか……すごいな」


コロシアムの超巨大バージョンのような場所に、俺たちは移動した。

俺たちと同じく、何人もの人たちが会場へと移動してくる。

よく見ると、周りにも同じような会場がいくつかある。

まぁそうだよな。

参加者だけで三百人いるんだ、一つの会場でやってたら日が暮れてしまう。


「選手は中央まで移動してください」


機械的な女性の声で、案内がかかる。


「じゃあ、行ってくるよ」

「頑張って!」




中央へは、二十人ほどの選手が集まっていた。

一つの会場に二十人……つまり、あと十五個会場があるのか。


ブゥン

(トーナメント表を確認してください。 試合は右から順に行われます)


右……俺が最初じゃん!?

対戦相手は日本人ではない……う~ん残念。

もし日本人なら少し話してみたかったのに。


(この会場で一位となった選手が、次へと進めます)


てことは、ここを抜けたら、もう選手の数が十五人に減ってるのか。

すっくな!?

しかも奇数なら、戦わない選手もいるのか。

そこに入れたらいいな~。


(十分後、試合が開始します。 出場する選手は準備してください)


ピコーン

(試合出場の案内)


お、便利だ。

自分の番になったら通知が来るのか!

これなら、寝坊常習犯の俺でも、試合を忘れることは無いな。

まぁ、一分間隔でアラームセットしても寝坊したんだけど……




案内の元、選手がスタンバイする入口へと来た。

試合開始と共に、この扉が開く。

その瞬間から戦いは開始だ。

となると、完全に開くのを待たなくてもいいのか。

銃を使う選手だったら、少し開いた瞬間に撃ってきそう……こわい!


「これより、第一回戦を開始します」


おっと、始まる。

スゥー、ハー。

なんか、自然と笑っちゃう。

正直、とても楽しみだ。

殺し合いじゃない、けどお互いが本気で、殺す気でぶつかる。

戦闘狂ってわけじゃないけど、本気の戦いが楽しいって言う人たちの気持ちが分かる気がする。


ガチャ

右手に死生剣、左手に旋弾銃を構える。

もう一丁の銃はまだ使わない。

ダンジョンに行った時、剣を使うわないといけなくなった時の練習だ。


「開始!」


その声で、扉がガコンと音を鳴らして動き始める。

さぁ、試合開始だ!!!

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