第8話 ちょっとしたトラブル
「あいつ、暴れんてんな~ 飽きないのか?」
ダンジョンから帰還した俺は、メニュー画面を漁っていた。
帰ってきて何をしようか考えたとき、俺はメニュー画面の機能をまだあまり知らないことに気が付いた。
だからゆっくり新しい機能を探してみようと思っていたのだが……
メニュー画面を開いた時、ランキングに通知が来ていた。
見ると、世界で初めて六十階層を突破した人が現れたため、全人類に百ルディが配られるというものだった。
突破を果たしたのは
一位だった
俺はというと、二十階層でランキング五位となっている。
まぁ、俺より下は全員レア武器を持っていないから、そうそう抜かれることは無いだろう。
ボーっとランキング画面を眺めていると、聞き覚えのある単語が目に留まった。
押してみると、十数人の名前が表示された。
それも、殆ど知っている名前だ。
父さん、母さん、そして近所の人々。
なるほど、一定範囲内の人には
「あれ? でも待てよ、こんなにいるのに、街には誰もいないぞ?」
名前が出ているのならいるはず。
ダンジョンにいる人に対しては、
そにもかかわらず、街は静まり返っている。
「う~ん、探しに行ってみるか?」
というわけで、(勝手についてきた)父さんと母さんと共に、街で人を探してみることにする。
試しに目の前に住む、藤田さんの家を訪ねてみる。
この人は、毎朝登校する俺に笑顔で挨拶をかけてくれた優しい人だ。
ピンポーン
「藤田さ~ん、いますか~?」
インターホンを鳴らし、叫んでみても返事は無い。
玄関に誰かが来る様子もないので、留守なのだろうか?
「誰も出てこないよ。
ん?
この声はまさか!
振り向くと、俺より十センチほど身長が高い男の人が立っていた(ちなみに俺百七十です)
「
こいつは
会うのは一週間前、散歩してた時だな。
高校の通学時間が違うので、毎日会うことはできないが、それでもあった時は他愛のない話をして盛り上がれる仲だ。
「
「あぁ、というか今大都会の方では
壮太は払ったのか。
俺はもったいないから嫌だぞ!
「まぁ、みんな出てこないのはそういうことだ。俺はこれからばあちゃん家に向かうから、これで。
「安心しろって、何せランキング四位だからな!」
どれを聞いた壮太は、驚いたように目を見開いたが、すぐに走って行ってしまった。
急いでるようだな、時間を使わせてしまって申し訳ない。
「みんな出てこないなら仕方ない、俺たちも戻ろうか」
父さんと母さんにそう言い、家へ戻ろうとした時だった。
「誰か助けて!!!」
辺りに女性の声が響く。
まさか、
「父さんと母さんは家に戻っておいてくれ! 絶対に、出るんじゃないぞ!?」
強引に二人を家に戻らせ、声のした方へ走る。
すると、壁に追い詰められた一人の女性を囲うように、三人の男が立っていた。
三人……卑怯だな。
(不可視!)
俺は姿を消し、気づかれることなく三人に接近する。
そしてそのまま、一人の男へ跳び蹴りをかました!
蹴りとは言え、身体強化が乗った攻撃だ。
かなり効いただろう。
「うわぁぁぁぁ!?」
蹴った男は、石で造られた壁をぶっ壊して、吹っ飛んだ。
あれ? 効きすぎたか? いや、壁が脆かったんだな、きっと。
「な、なんだガキ! 急に攻撃してきやがって!」
「こっちのセリフだよ! 三人で女性一人を襲って、プライドの粉もないのか!?」
「せめて欠片って言え!」
むぅ、こんなクソ野郎につっこまれるとは……
なんかプライドが傷ついた気がする!
「とにかく、さっさとこの場から消えろ。かっこ悪いぞ? 三人で襲うとか。一人じゃ勝てないのか? 弱虫!」
少々煽りすぎたか……残った二人の表情が、もう怒りの頂点に達している。
言われて怒るなら最初から卑怯なことすんなよ……というのは黙っておこう。
「ガキ……手を出さなかったら好き放題言いやがって、忘れたのか? 今の世界のルールを!」
男二人が、大剣を手に握る。
(
複数人からの
これは、使い方によってはかなり害悪になりそうだな。
「教えてやる! この世界のルールを!」
そう叫び、二人で斬りかかってくる。
全く、さっき言ったはずだよな? 俺。
一人じゃ勝てないのかって。
「教えてもらわなくて結構。 もう十分理解してるよ」
ドン! ドン!
迷うことなく、男たちの手を撃ちぬく。
死にはしないだけ、運がいいと思ってほしいな。
「うわぁぁぁ!? 手が、手がぁ!?」
血が流れ出る手を見て、男たちは悲鳴を上げる。
「覚えときな、狩るってことは、狩られるってことだと」
そういうと、男たちは叫びながら逃げ去っていった。
最初の蹴りで吹っ飛んだ仲間を置いてけぼりにして……
やはり所詮はクズの集まりだったか。
「大丈夫でしたか?」
ポカーンとした様子でこちらを見つめる女性に声をかける。
なんだ、よく見ると俺とほとんど年が変わらないんじゃないか?
高校生くらいに見える女性は、我に返ったかのように立ち上がると、頭を下げてお礼を言ってきた。
「あ、ありがとうございます! あなたがいなかったら、私は……」
よほど怖かったのか、その場で泣き出してしまった。
えぇぇぇ……こういう時ってどんな対応をしたらいいの!?
俺、異性と関わったことがほとんどないんだよぉ!!!
あ、モテなかったんだね……とか思わないでくれよ?
関わらなかっただけで、実はモテてたかもしれないだろ?
変な対応をしてしまうのが怖かった俺は、結局彼女が泣き止むまで静かに待つことにした。
しばらく待って、落ち着いた彼女に再び問う
「何があったんですか?」
「実はあの三人、かなり前から付きまとってきていた人たちなんです。直接いうのが怖くて、警察に相談したこともありました。おかげで、しばらくは近寄ってこなかったんですけど……昨日から世界が変わって、弱かった私は生きることができない状態でした。そしたら、
なるほど、それでその時に偶然近くに俺たちがいたと。
にしても、女性が助けを求めているのに誰も外に出ないなんて、よっぽど
「まぁ、昨日から世界は大混乱ですよね。今までのライフラインは何も機能していない。街も、あってないようなものです」
(
梅田……中学校の先輩にいた覚えはないから、学区外の人か?
いや、というかこの服、そこの高校の制服だよな?
ここからすぐの所にある高校の制服……だと思う。
毎日、駅からこの制服を着た生徒が降りてくるのを見ているため、間違いない。
いや、でもそこの高校にこのあたりで通っている人はいなかったはずだ。
なら遠くから来た人……でもそれならここにいるはずないよな?
だって昨日は日曜日、学校は休みのはずだ。
「家はどこなんですか? このあたりじゃないですよね?」
「電車で来たんです。昨日学校のイベント準備のために来たら、例の出来事のせいで電車が止まって帰れなくなってしまって……」
やっぱりこのあたりの人じゃなかった。
あれ? じゃあさっきの男たちもこのあたりの人間じゃないよな?
まさか……わざわざ電車でこっそりついてきたのか……? さすがに俺も引くぞ。
「今のところ、
「いえ……かなり厳しいです……」
……仕方ない、すこし気が引けるが、家に招待してみるか。
これは犯罪に触れない……よな!?
「帰れないんだったら、しばらく家にいますか? すぐ近くなので……とはいっても、急に知らない男の家なんて嫌ですよ――」
「本当ですか!?」
いや、はやぁ!?
即答じゃん。
もう少し考えなくていいの? いくら助けたとはいえ、まだ出会って一時間未満だよ?
「あ、あなたがいいなら……ですけど。少なくとも、食べるものはありますよ」
「あ、ありがとうございます!!!」
ということで、我が家に一名、臨時で住人が増えました。
「あ、あんた! 誰だいその子? まさか、脅して連れてきたんじゃ……」
「そんなわけないだろ! 全く……あ、すみません、どうぞどうぞ上がってください」
母の余計な言葉を振り払い、家に上げた。
「改めて、助けていただきありがとうございます。私、
「俺は
お互いの名前を紹介したところで、母さんがお菓子を持ってくる。
大量の和菓子だ。
「……母さん、これどうしたの? まさか盗んできた?」
「元から家にあったやつよ。もとからある食べ物なんかは消えないみたいだから」
確かに、もし消えるなら、今俺たちは快適に家の中で過ごしていないか。
ん? じゃあ別に、しばらくは食料の心配はいらなかったじゃないか!
「そういえば、梅田さんの両親は大丈夫なんですか? 今はこんな世界ですけど」
「お父さんがプロの剣道家なので、ある程度は大丈夫だと思います。ただ、私はダメです。ダンジョン一階層だけでもう……」
まぁ、俺も最初バックリ呑まれてるから何も言えない……
実際、この銃がなければ俺は二階層をクリアできたかくらいだろう。
ありがとうな、旋弾銃……
そういって、布で銃を掃除していると、梅田さんがじっとこちらをのぞき込んでいた。
ん? と思いそちらを向くと、慌てて目を逸らす。
「きれいな銃ですよね。助けてくださったときも、その銃を使ってましたね」
「相棒ですよ。後、俺の命の恩人。まぁ、元は剣を使う予定だったんですけどね」
さっきダンジョンで手に入れた死生剣を取り出す。
刀身は淡く白に光っていて、黒い柄部分とは対照的な雰囲気を出している。
自分で行っちゃうのもあれだが、はっきり言ってとてもきれいだ!!
「高橋さんは強いんですね。三人をあっという間に倒してしまうなんて」
「俺が強いのかは分かりませんけどね。少なくとも、そのおかげで今生活の心配はあまりないです」
その後からは、しばらく梅田さんと母さんの話が始まった。
女性同士だからか、とても盛り上がっている。
最初は硬かった梅田さんの態度も、だんだんと馴染んできてやわらかいもとになる。
俺たち男性陣はというと、机を女性陣に譲って、部屋の隅でひっそりとその話を聞いていた。
何が悲しくて、父さんと壁に挟まれにゃならんのだ……
「そういえば輝、お前明日はどうするんだ?」
「明日? あぁ、神が説明するってやつか」
「メニュー画面を漁って、できる限り情報を見たんだが、どうやら明日、第一回の大会が開催されるようだ。説明を受けてすぐの大会、準備が万全な者はあまりいないだろう」
「利があるなら出るかもだけど、利益と代償を測りはするよ。少なくとも、無理して出る必要も俺は無いからな」
そう、俺はランキングで今の順位を保てば、約束されている!
夢の二百万ルディが!
報酬が出るのは月末、あと一週間後だ。
それまで、必要がないならダンジョンに籠るのはやめる。
現実の状況を見るに、恐らくはダンジョンに籠る奴らよりも、
実際、普通の人たちはまだ十層をクリアしている人が一割にも満たない。
十階層未満なんて、何時間潜ってもその日の食費が稼げるか程度の収入しかない。
ダンジョンは、実力者だけの狩場ともいえるだろう。
その点
他者の命を奪えば利益が出て、しかもランクが上がる。
ランクが上がればランキングでもらえる報酬も増える。
いつ、父さんたちにその刃が向いてもおかしくはない。
「ここから、人同士の殺し合いが始まるだろう。きっとその時、生き残れる奴らが神の言っていた強者だ。そこには入れなければ生きてはいけない。今は、準備するんだ」
その時どう動くかで、全てが決まると言っても過言ではない。
社会が停止した今、ルールなんて存在しない。
弱肉強食の世界を生き残らなければいけないんだ。
「生き残ってやる。そしていつか、この世界を戻してもらうぞ」
さぁ、明日は分岐点だ。
いい方向に進めるよう、準備をしていかないとな。
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