第8話 ちょっとしたトラブル

「あいつ、暴れんてんな~ 飽きないのか?」


ダンジョンから帰還した俺は、メニュー画面を漁っていた。

帰ってきて何をしようか考えたとき、俺はメニュー画面の機能をまだあまり知らないことに気が付いた。

だからゆっくり新しい機能を探してみようと思っていたのだが……

メニュー画面を開いた時、ランキングに通知が来ていた。

見ると、世界で初めて六十階層を突破した人が現れたため、全人類に百ルディが配られるというものだった。


突破を果たしたのは佐野優さのすぐる

一位だった中野悠なかのはるかの五十七階層を追い抜き、一位の座へと就いた。

俺はというと、二十階層でランキング五位となっている。

まぁ、俺より下は全員レア武器を持っていないから、そうそう抜かれることは無いだろう。


ボーっとランキング画面を眺めていると、聞き覚えのある単語が目に留まった。

強奪ロブだ。

押してみると、十数人の名前が表示された。

それも、殆ど知っている名前だ。

父さん、母さん、そして近所の人々。

なるほど、一定範囲内の人には強奪ロブを仕掛けられるってことか。


「あれ? でも待てよ、こんなにいるのに、街には誰もいないぞ?」


名前が出ているのならいるはず。

ダンジョンにいる人に対しては、強奪ロブを仕掛けられるのかは分からないが、この人たち全員がダンジョンに籠っているわけではないだろう。

そにもかかわらず、街は静まり返っている。


「う~ん、探しに行ってみるか?」


というわけで、(勝手についてきた)父さんと母さんと共に、街で人を探してみることにする。

試しに目の前に住む、藤田さんの家を訪ねてみる。

この人は、毎朝登校する俺に笑顔で挨拶をかけてくれた優しい人だ。


ピンポーン

「藤田さ~ん、いますか~?」


インターホンを鳴らし、叫んでみても返事は無い。

玄関に誰かが来る様子もないので、留守なのだろうか?


「誰も出てこないよ。強奪ロブが怖いんだ」


ん?

この声はまさか!


振り向くと、俺より十センチほど身長が高い男の人が立っていた(ちなみに俺百七十です)


壮太そうた! お前無事だったのか、よかった!」


こいつは矢野壮太やのそうた、中学まで一緒だった俺の幼馴染だ。

会うのは一週間前、散歩してた時だな。

高校の通学時間が違うので、毎日会うことはできないが、それでもあった時は他愛のない話をして盛り上がれる仲だ。


強奪ロブって、もうそんなにみんな知ってるのかよ?」

「あぁ、というか今大都会の方では強奪ロブが大量に発生しているらしい。メニュー画面のニュースで見れるぜ、ルディがいるけど」


壮太は払ったのか。

俺はもったいないから嫌だぞ!


「まぁ、みんな出てこないのはそういうことだ。俺はこれからばあちゃん家に向かうから、これで。てるも気を付けろよ」

「安心しろって、何せランキング四位だからな!」


どれを聞いた壮太は、驚いたように目を見開いたが、すぐに走って行ってしまった。

急いでるようだな、時間を使わせてしまって申し訳ない。


「みんな出てこないなら仕方ない、俺たちも戻ろうか」


父さんと母さんにそう言い、家へ戻ろうとした時だった。


「誰か助けて!!!」


辺りに女性の声が響く。

まさか、強奪ロブか!?


「父さんと母さんは家に戻っておいてくれ! 絶対に、出るんじゃないぞ!?」


強引に二人を家に戻らせ、声のした方へ走る。

すると、壁に追い詰められた一人の女性を囲うように、三人の男が立っていた。

三人……卑怯だな。


(不可視!)


俺は姿を消し、気づかれることなく三人に接近する。

そしてそのまま、一人の男へ跳び蹴りをかました!

蹴りとは言え、身体強化が乗った攻撃だ。

かなり効いただろう。


「うわぁぁぁぁ!?」


蹴った男は、石で造られた壁をぶっ壊して、吹っ飛んだ。

あれ? 効きすぎたか? いや、壁が脆かったんだな、きっと。


「な、なんだガキ! 急に攻撃してきやがって!」

「こっちのセリフだよ! 三人で女性一人を襲って、プライドの粉もないのか!?」


「せめて欠片って言え!」


むぅ、こんなクソ野郎につっこまれるとは……

なんかプライドが傷ついた気がする!


「とにかく、さっさとこの場から消えろ。かっこ悪いぞ? 三人で襲うとか。一人じゃ勝てないのか? 弱虫!」


少々煽りすぎたか……残った二人の表情が、もう怒りの頂点に達している。

言われて怒るなら最初から卑怯なことすんなよ……というのは黙っておこう。


「ガキ……手を出さなかったら好き放題言いやがって、忘れたのか? 今の世界のルールを!」


男二人が、大剣を手に握る。

強奪ロブが開始されます)


複数人からの強奪ロブだと、名前が表示されないのか。

これは、使い方によってはかなり害悪になりそうだな。


「教えてやる! この世界のルールを!」


そう叫び、二人で斬りかかってくる。

全く、さっき言ったはずだよな? 俺。

一人じゃ勝てないのかって。


「教えてもらわなくて結構。 もう十分理解してるよ」


ドン! ドン!

迷うことなく、男たちの手を撃ちぬく。

死にはしないだけ、運がいいと思ってほしいな。


「うわぁぁぁ!? 手が、手がぁ!?」


血が流れ出る手を見て、男たちは悲鳴を上げる。


「覚えときな、狩るってことは、狩られるってことだと」


そういうと、男たちは叫びながら逃げ去っていった。

最初の蹴りで吹っ飛んだ仲間を置いてけぼりにして……

やはり所詮はクズの集まりだったか。


「大丈夫でしたか?」


ポカーンとした様子でこちらを見つめる女性に声をかける。

なんだ、よく見ると俺とほとんど年が変わらないんじゃないか?

高校生くらいに見える女性は、我に返ったかのように立ち上がると、頭を下げてお礼を言ってきた。


「あ、ありがとうございます! あなたがいなかったら、私は……」


よほど怖かったのか、その場で泣き出してしまった。

えぇぇぇ……こういう時ってどんな対応をしたらいいの!?

俺、異性と関わったことがほとんどないんだよぉ!!!

あ、モテなかったんだね……とか思わないでくれよ?

関わらなかっただけで、実はモテてたかもしれないだろ?


変な対応をしてしまうのが怖かった俺は、結局彼女が泣き止むまで静かに待つことにした。




しばらく待って、落ち着いた彼女に再び問う


「何があったんですか?」

「実はあの三人、かなり前から付きまとってきていた人たちなんです。直接いうのが怖くて、警察に相談したこともありました。おかげで、しばらくは近寄ってこなかったんですけど……昨日から世界が変わって、弱かった私は生きることができない状態でした。そしたら、ルディを上げるから、俺たちと来いよってまた近づいてきて、逃げてたんです」


なるほど、それでその時に偶然近くに俺たちがいたと。

にしても、女性が助けを求めているのに誰も外に出ないなんて、よっぽど強奪ロブが怖いんだな。


「まぁ、昨日から世界は大混乱ですよね。今までのライフラインは何も機能していない。街も、あってないようなものです」


梅田由井うめだゆい


梅田……中学校の先輩にいた覚えはないから、学区外の人か?

いや、というかこの服、そこの高校の制服だよな?


ここからすぐの所にある高校の制服……だと思う。

毎日、駅からこの制服を着た生徒が降りてくるのを見ているため、間違いない。

いや、でもそこの高校にこのあたりで通っている人はいなかったはずだ。

なら遠くから来た人……でもそれならここにいるはずないよな?

だって昨日は日曜日、学校は休みのはずだ。


「家はどこなんですか? このあたりじゃないですよね?」

「電車で来たんです。昨日学校のイベント準備のために来たら、例の出来事のせいで電車が止まって帰れなくなってしまって……」


やっぱりこのあたりの人じゃなかった。

あれ? じゃあさっきの男たちもこのあたりの人間じゃないよな?

まさか……わざわざ電車でこっそりついてきたのか……? さすがに俺も引くぞ。


「今のところ、ルディじゃ交通手段を買うことはできないようです。歩いて帰るか、しばらくこのあたりに留まるかでしょうね。歩いて帰れる距離ですか?」

「いえ……かなり厳しいです……」


……仕方ない、すこし気が引けるが、家に招待してみるか。

これは犯罪に触れない……よな!?


「帰れないんだったら、しばらく家にいますか? すぐ近くなので……とはいっても、急に知らない男の家なんて嫌ですよ――」

「本当ですか!?」


いや、はやぁ!?

即答じゃん。

もう少し考えなくていいの? いくら助けたとはいえ、まだ出会って一時間未満だよ?


「あ、あなたがいいなら……ですけど。少なくとも、食べるものはありますよ」

「あ、ありがとうございます!!!」


ということで、我が家に一名、臨時で住人が増えました。


「あ、あんた! 誰だいその子? まさか、脅して連れてきたんじゃ……」

「そんなわけないだろ! 全く……あ、すみません、どうぞどうぞ上がってください」


母の余計な言葉を振り払い、家に上げた。


「改めて、助けていただきありがとうございます。私、梅田由井うめだゆいって言います!」

「俺は高橋輝たかはしてるです。よろしくお願いします」


お互いの名前を紹介したところで、母さんがお菓子を持ってくる。

大量の和菓子だ。


「……母さん、これどうしたの? まさか盗んできた?」

「元から家にあったやつよ。もとからある食べ物なんかは消えないみたいだから」


確かに、もし消えるなら、今俺たちは快適に家の中で過ごしていないか。

ん? じゃあ別に、しばらくは食料の心配はいらなかったじゃないか!


「そういえば、梅田さんの両親は大丈夫なんですか? 今はこんな世界ですけど」

「お父さんがプロの剣道家なので、ある程度は大丈夫だと思います。ただ、私はダメです。ダンジョン一階層だけでもう……」


まぁ、俺も最初バックリ呑まれてるから何も言えない……

実際、この銃がなければ俺は二階層をクリアできたかくらいだろう。


ありがとうな、旋弾銃……

そういって、布で銃を掃除していると、梅田さんがじっとこちらをのぞき込んでいた。

ん? と思いそちらを向くと、慌てて目を逸らす。


「きれいな銃ですよね。助けてくださったときも、その銃を使ってましたね」

「相棒ですよ。後、俺の命の恩人。まぁ、元は剣を使う予定だったんですけどね」


さっきダンジョンで手に入れた死生剣を取り出す。

刀身は淡く白に光っていて、黒い柄部分とは対照的な雰囲気を出している。

自分で行っちゃうのもあれだが、はっきり言ってとてもきれいだ!!


「高橋さんは強いんですね。三人をあっという間に倒してしまうなんて」

「俺が強いのかは分かりませんけどね。少なくとも、そのおかげで今生活の心配はあまりないです」


その後からは、しばらく梅田さんと母さんの話が始まった。

女性同士だからか、とても盛り上がっている。

最初は硬かった梅田さんの態度も、だんだんと馴染んできてやわらかいもとになる。


俺たち男性陣はというと、机を女性陣に譲って、部屋の隅でひっそりとその話を聞いていた。

何が悲しくて、父さんと壁に挟まれにゃならんのだ……


「そういえば輝、お前明日はどうするんだ?」

「明日? あぁ、神が説明するってやつか」


「メニュー画面を漁って、できる限り情報を見たんだが、どうやら明日、第一回の大会が開催されるようだ。説明を受けてすぐの大会、準備が万全な者はあまりいないだろう」

「利があるなら出るかもだけど、利益と代償を測りはするよ。少なくとも、無理して出る必要も俺は無いからな」


そう、俺はランキングで今の順位を保てば、約束されている!

夢の二百万ルディが!

報酬が出るのは月末、あと一週間後だ。

それまで、必要がないならダンジョンに籠るのはやめる。

現実の状況を見るに、恐らくはダンジョンに籠る奴らよりも、強奪ロブで稼ぐ奴らの方が多いと予測したからだ。

実際、普通の人たちはまだ十層をクリアしている人が一割にも満たない。

十階層未満なんて、何時間潜ってもその日の食費が稼げるか程度の収入しかない。

ダンジョンは、実力者だけの狩場ともいえるだろう。

その点強奪ロブはいい。


他者の命を奪えば利益が出て、しかもランクが上がる。

ランクが上がればランキングでもらえる報酬も増える。

いつ、父さんたちにその刃が向いてもおかしくはない。


「ここから、人同士の殺し合いが始まるだろう。きっとその時、生き残れる奴らが神の言っていた強者だ。そこには入れなければ生きてはいけない。今は、準備するんだ」


すぐるはるかなど、ランキング上位者はおそらく大会に出る。

その時どう動くかで、全てが決まると言っても過言ではない。

社会が停止した今、ルールなんて存在しない。

弱肉強食の世界を生き残らなければいけないんだ。


「生き残ってやる。そしていつか、この世界を戻してもらうぞ」


さぁ、明日は分岐点だ。

いい方向に進めるよう、準備をしていかないとな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る