第7話 抜けた剣と、抜けない鞘

「もう朝ぁ? ついさっき寝た気分なんだが……」


よほどぐっすり眠れたらしい。

目を瞑って開けたら、もう朝だったように感じる。


神が世界を変えてから今日で二日目。

初日はいろいろなことがありすぎたが、今日はのんびりとやっていこう。

何せ、昨日稼いだ千五百ルディはもうすべて使ってしまったのだ。

それで分かった、この世界で生活するのに、一日千五百じゃ全く足りないってことが。


「とりあえず、目を覚ましてダンジョンへ向かうか」


っと思ってのだが……

やらかした! 水が出ないから顔が洗えない! 飯もないから朝ごはんも食べられない! しかもルディはゼロ、何も買えない!

仕方ない、何もないんだったら尚更ルディを稼がなくちゃいけない。

ダンジョンに行くか。

スライム倒してれば目も覚めるだろ。


(訓練モードではありません。 確認の上進んでください)

はい、だ。




ダンジョンへと到着すると、毎回恒例のスライムの歓迎がある。

一階層にいるスライムは一匹、余裕だ。


「じゃあ、バイバイ」


そういって銃の引き金を引いた。

……しかし


ガチャ

発砲音の代わりに、引き金を引いた音だけが俺の耳に届く。

あ、あれ?


ガチャ、ガチャ

なんど引き金を引いても、弾が出ない。

引き金を引く音がなるだけだ。


(弾薬が不足しています 購入しますか? 五十発 十ルディ)


最悪を知らせる通知が、俺の目の前に現れる。

嘘だろ!? こんな完璧なタイミングで弾切れするか!? 普通。

だが現実は無慈悲だ。

ただ弾がないという通知だけが、俺の視界に入ってくる。

そして五十発を十ルディで買えという案内。

安い気がするが、今の俺は一文無し! 

弾薬すら買えない!


「し、仕方ない……これでやるしかないか」


俺は背中から(一度も使っていない)鉄剣を抜く。

剣術は全く分からないが、スライムくらいなら倒せる……はずだ。


「おりゃあぁぁぁ!」


剣を振り上げ、スライムに向かって走る。

スライムも体をポヨポヨと揺らし、飛び跳ねながらこちらへ向かってきた!


見える! 遅い! 

能力スキルの力を借り)簡単にスライムを斬り捨てる。

ふぅ、心配して損したって感じだな。

まぁ、能力スキルがなかったら、スライムの動き自体見えていたか分からなかったけど。


「ルディを回収っと。これで弾薬が買え……ねーじゃねーか!!!!」


弾薬のお値段は十ルディ。

一階層のスライムがドロップしたのは一ルディ。

あらま、なんということでしょう!

十分の一しか稼げなかったではありませんか。


「え? 何? 俺結構詰んだ奴?」


この時の俺は、ダンジョンから離脱し、再び一階層のスライムを狩る……という方法を思いつくことはなかった。

なぜならバカだから。




「よ、よし……十ルディ、ゲットだ」


現在三階層をクリアしたところだ。

ここが少し厄介で、スライムが五匹同時に出てくる。

銃があれば楽勝だったのだが、今回はそれができない。

鉄剣で戦ったわけだが、やはり数が厄介だ。

いくら能力スキルで敵の動きを確実に見極められ、回避行動に移せるとは言っても、同時に来られた場合、少しでも判断が遅れれば、死ぬ可能性があった。

最初の俺のように、バックリと呑まれてね!

そんな死に方は嫌なので、一刻も早く弾薬を購入しなくては。


(弾薬 五十発 十ルディ 購入を確定しますか?)

はい


弾薬五十発がつまった箱が出てくる。

その内から十二発が銃に装填され、残りは三十八発だ。

残りの弾薬は、腰につけた弾薬専用のケースに入れておく。


「さ~て、銃も戻ったことだし、一気に進むぞ!!」


五階層、六階層……と、無双していき、二十階層まで来た。

ここが少々問題だ。

前回の戦いで、ボスはだんだんと学んでくるという仮説を立てた。

今回のミノタウロスは、前回ととくに変化がなく、斧で頭を隠してきただけだった。

それ以上の対策が思いつかなかったのだろう。


となると、二十階層のボスはどんな動きをしてくるだろうか?

訓練であった時は、俺の周りを体で囲み、だんだんと真ん中に追いやるという害悪戦法を見せてきた。

まぁ、弾丸一発で終わったのだが。


「扉に触れたら後退……後退……よし行くぞ!」


扉にケツを吹き飛ばされないよう、すぐに後ろへ下がる準備をしてドアに触れる。


「下がれ下がれ下がれ!!!!!」


誰もいないのに、俺は叫びながら全力で後ろへ下がった。

扉に衝撃は……ない! 俺の勝ちだ!

”無機物相手”に勝利を喜んで後ろを向く。


「しまった!! そういえばここは押戸だった!!」


扉はこちらに向かって……ではなく、奥に向かって開いていた。

つまり、別に走らなくても俺のケツは無事だったのだ。

あぁ、なぜだろう。

扉が俺を笑っている気がする。

恐らく、この場に誰かがいたら俺はもう立ち直れなかっただろうというレベルの恥を晒した。

あぁ……恥ずかしい!


その場から逃げるように、ボスの部屋へと入った。

部屋の中は暗く、あるのは黄色に光る二つの……目?


「キシャアァァァァァァァァ!!!」


目が合った瞬間、辺りに高音の鳴き声が響く。

間違いない、この部屋のボスだ!


ボスが辺りを移動しているのか、ゴゴゴゴと巨体が地面と擦れる音が響く。

その音が止まった瞬間、部屋の明かりが一斉に点灯する。


「なんかお前、デカくなってね? 前回は半分くらいのサイズだっただろ」


視界に飛び込んできたのは、二百メートルは超えているであろう大蛇の姿。

ボスの巨大化に伴い、部屋も広くなっている。


ボスは長い舌を口から出し入れしながら、こちらを睨んでいる。

こいつも俺の動きを見てから動くタイプか。


そう思い、その場に固まっていると、後ろからゴゴゴゴゴゴゴ!!! という音がこちらに向かって近づいてくる。


「ん? うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」


間一髪、真上に飛んでそれを回避する。

危うく、俺の背中にボスの尻尾がヒットするところだった。

こんなの食らったら、腰痛どころの話じゃねーぞ!


「お前、さては策士だな!? 俺の動きを見ていると見せかけて、不意打ちしてくるなんて!」


その返事の代わりなのか、大蛇は口を大きく開ける。

ん? もしかして言葉が分かるのか?

そう一瞬期待したが、もちろんそんなことは無い。


口から紫色の液体を吐き出し、こちらへ飛ばしてきた!


「返事がつばとか聞いた事ねーぞ!」


ぎりぎりで避ける。

紫色の液体がかかった地面は、ジュワーと音を出しながら溶けてしまった。

あ、危ない。

俺もあんな風になるところだった……


「ただ、銃への対策はしてないみたいだな」


巨大になったり不意打ちをしたり、多少立ち回りを変えてきてはいるが、結局頭がガラ空きだ。

銃の照準を頭に合わせ、二発の弾丸を放つ。

弾丸が放たれれば、もうその巨体で防御は間に合わないだろう。

案の定、大蛇はもろに弾丸を二発くらい、絶命した。


「まぁ、このこまでは訓練モードとほとんど変わらなかったな。問題はこの先か……」


俺が訓練モードで進んだのはここまで。

この先はまだ未知だ。

今回進むのはここまでにしておいた方がいいだろう。

何せ命は一つなのだ。


ピコーン

(報酬 二千ルディ ランダム能力スキル レアドロップアイテム)


よしよし、かなりいい稼ぎだ。

って……ん?

レアドロップアイテム?

なんだそれは?

気になりタップしてみるが、謎のメッセージが表示された。


(まだ取得していません 二十階層にて取得してください)


ここだよな?

取得って言われても、何をすれば……


そう思い辺りを見渡すと、地面にさやごと一本の剣が刺さっているのが見えた。

よくアニメの展開で見る、勇者が抜く剣みたいな雰囲気で。


「……もうちょっとカッコいい刺さり方しない?」


みんなも思ったことがあるのではないか?

なぜ、こんな刃の先しか刺さってないのに抜けないんだ? と。

その疑問を吹き飛ばすように、この剣はつかの部分まで深々と刺さっていたのだ!

いや? かっこ悪いんだけど……嫌じゃない? 柄まで刺さってる剣とか。

見栄えが……うん……


まぁ文句を言ったって仕方ない。

刺さっているのだからなにも変わらない。

とりあえずは抜けばいいのだ。


「ただこれは……かなり力が必要そうだな」


関節をポキポキと鳴らし、いかにも力が強そう(実際は体育テスト平均以下)アピールをして、剣の元へ向かう。

そして、体の全エネルギーを手と腕に込め、思いっきり剣を引き抜く!


「うおぉぉぉ!!!! おりゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」


俺の本気の雄叫びとは対照的に、剣はスポンっといとも簡単に抜けた。


「……え?」


そんなことは全く予想せず、思いっきり後ろに体重をかけていた俺は、そのまま勢いよく後ろへと倒れる。


「いったぁぁぁぁぁぁ!?」


思いっきり倒れたせいで、腰を痛めた。

身体強化のせいもあり、倒れたときの勢いはものすごい。

腰が裂けていないのが不思議だ。


「ま、あぁとりあえず抜いた……ぜ?」


目に涙を浮かべながら、戦利品へと目を向ける。

しかし、それを見た俺は絶望した。


確かに、”剣”は抜けた。

とても簡単に。

だけど、抜けてなかった……


「鞘がないじゃねえかぁぁぁぁぁ!!!」


地面には、まだ深々と……いやほとんど全体が埋まった鞘だけが刺さっていた。

そうだよな!? 普通に考えたら、剣は鞘から簡単に抜けるもんな!?

鞘が刺さってるんなら、その中の剣は簡単に抜けるよな!?


今理解した。

なぜ勇者たちが抜く剣はどれも、鞘ごとではなく剣本体のみが刺さっているのか。

こういうことですね……


「てか、じゃあこの鞘抜くの不可能じゃね?」


なぜなら、鞘は全体が埋まっているから。

持てる場所がないのだ。

地面を掘る? いや無理だ。

なぜならここの地面、滅茶苦茶硬いから。

鉄剣は一発で刃が使い物にならなくなり、旋弾銃も、浅い傷がつくだけだ。


「あ、そうだ。今抜いた剣!」


右手に握っていた剣を見て希望が湧いてきた。

試しにその剣を地面に突き立ててみる。


「お、おぉ! いけるぞ、これなら!」


滅茶苦茶深く刺さったわけではないが、五センチほどの傷を地面につけることができた!

これなら何とかなりそうだ!


早速俺は、休む暇なく地面をひたすらに剣で掘りまくった。

何十分も掘り続けてようやく、鞘おの半分以上が姿を現した。


「今なら抜けそうだ……うおぉぉぉぉ!!!!!」


思いっきり引っ張ると、鞘はガタガタと少しづつ抜けてきた。

そして、ついに鞘が地面から抜けた!!!!


俺はしりもちをついて倒れる。

いてぇ……でもさっきの腰よりましか。

ひりひりと痛む尻を優しくさすりながら立ち上がる。


鞘は金属のように硬い素材で出来ているが、とても軽い。

刃がちゃんと重い剣とは素材が違うようだな。


(アイテム入手 死生剣 切れ味四千 耐久値――)


おぉ、なんか強そうな名前だ。

というか、切れ味が化け物すぎじゃね?

鉄剣が五百七だから……約八倍!?


(固有能力スキル 不壊)


不壊?

なんだそれ。


(その形を保ち続ける)


滅茶苦茶簡単な説明だな。

その形を保ち続けるってことは、切れ味が落ちることがないってことか?

おいおい、強すぎだろ!


(スキルを入手しました 不可視)


十秒に一回発動可能なスキルで、二秒間周りから姿が見えなくなるらしい。

強い……のか?

あまり使い道が思いつかないが、対剣士とかだと強そうだな。


「今回の収穫は十分すぎるな。一度戻ろう」


そういえば俺、朝ごはん食べずにダンジョンに来たんだった。

それを思い出させるかのように、腹がグ~っとなった。

分かったわかった、今食べるから!


(ダンジョンから帰還します)


今日はもうダンジョンに入るのはやめておこう。

明日の神からの発表に備えて準備しないといけない事があるからな

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