第4話 ダンジョン実践

「おらおら! 物足りないぞー!!!」


……っと、調子に乗ってダンジョンを走り回っている俺。

引き金を引くだけという簡単な作業で、俺は一気に十階層まで上ってきた。


十階層のボスは、ミノタウロスというモンスターだ。

まぁ、簡単に言うと筋肉マッチョ巨大牛だ。

三メートルほどの身長で、手には斧を持っていた。

訓練モードでは、こちらに角を突きたてながら、ものすごい勢いで突撃してきた。

まぁ、引き金引いて終わったのだが。


「さっさと終わらせるか」


ダンジョンはボスの階層にのみ、扉が設けられている。

上ってすぐにボスと鉢合わせる……ということを防ぐためだろう。

まぁ、神の優しさってことか。


扉に触れると、自動で扉が動く。

ゴゴゴゴと大きな音を立てながら、”こちらに”向かって開いた。


「そういえば引き戸だった!!!」


間一髪、後ろにダッシュして回避する。

危ない、もう少しで扉に吹き飛ばされるところだった……

普通こういうのってさ、押戸じゃね?

向こう側に向かって開くもんじゃね?

なんならそのままボスを吹き飛ばしてくれてもいいです。


ちなみにこの流れを、俺は訓練モードでもやった。

それどころか、一回目はボーっとしててケツを強打しました。

人類初じゃね?

自動ドアにケツ叩かれるとか。


まぁそれはそうとして、とりあえずは目の前のボスを倒すだけだ。

訓練で得た情報では、あいつはこちらを認識してから、すこし経ってから襲ってくる。

襲うまでの少しの時間は、こちらの動きを見極めるように見つめてくる。

訓練の時は俺が背を向けたから突進してきたんだと思う。

なら、今回も背を向けて走り、突撃してきたところを仕留めるだけだ。


両手に銃を構え、部屋の中へと進む。

部屋の中に、ボスの姿はない。

俺は訓練モードでここに一度来たから知っている。


「このダンジョンは――」


ドォォォォォン!!!

大きな衝撃音と共に、床が大きく揺れる。

突風が発生し、危うく吹き飛ばされそうになる。


「上からボスが降ってくるんだよな!」


突風の吹いてくる方向、この部屋の中心、そこには、巨大な角と斧を携えた筋肉牛……ミノタウロスが立っていた。

赤い瞳でこちらを凝視する。

相変わらず、いかつい顔だ。


「よっしゃ! 来いよ!!」


ミノタウロスに背を向け、俺はダッシュする。

追いかけてこい、その時がお前の最後だ!


「ブモオォォォォォォ!!」


ミノタウロスは予想通り、雄たけびを上げてこちらを追いかけてくる。


「それでいい、じゃあ……な……?」


頭に弾丸を撃ちこもうとした瞬間、ある違和感に気づいた。

訓練モードでは、角を突き立て、無防備に突撃してきたのにも関わらず、今回は頭の部分に斧を被せながら突撃してきた!


「ちっ、狙いが定まらない」


斧によって邪魔されているため、照準が頭に合わない。

これでは撃ったとしても、当たる保証がない。

どちらにせよ、このままだと押し潰されて死亡だ。

それだけは絶対に嫌だ!


「ここだ!」


ミノタウロスの足へと照準を合わせ、弾丸を撃ちこむ。

放たれた二発の弾丸は、正確に両足首を撃ちぬいた。


「ブモォォォォォォォ!」


足を撃ちぬかれ、バランスを失ったミノタウロスは、頭から地面に突っ込む。

走ってきた勢いのせいで、こちらへと突っ込んできたが、ぎりぎり横に飛んで回避!

ナイスだ、俺の動体視力!


倒れたミノタウロスは、腕の力で体を起こすが、もう立ち上がることはできない。

とどめを刺すために、ミノタウロスへ近づく。

しかし、近づいてくる俺を認識したミノタウロスが突然、大きな咆哮を上げる!


そして大きな口を全開にして、なんと匍匐前進ほふくぜんしんでこちらへ這ってきた! 腕の力だけで!


「うわぁぁぁ!? キモイキモイ!!」


俺はとっさに頭に照準を合わせ、ミノタウロスの頭を撃ちぬいた。

撃ちぬかれたミノタウロスは即死、小さな箱を残し、消えた。


「び、ビビった……」


流石に予想できないよな?

牛が腕だけで匍匐前進匍匐前進してくるとか。

きもすぎだろ!

まじでビビったよ~

寿命が縮むかと思った。


とはいえ、意外とあっさり倒せたものだ。

予想外のことはたくさん起きたが、何とか無事にボスを倒すことはできた。


だが一つ、どうしても気がかりなのはミノタウロスの行動だ。

あいつは頭を守るようにしてこちらへ突っ込んできた。

銃の存在を知っていた? そんなはずはない。

神は、一人一つダンジョンを用意したと言っていた。

そしてここは俺のダンジョン、他の人が入ってくることはない。

そうなれば考えられるのは……


「訓練モードか?」


今以外に、唯一俺とミノタウロスが対面した瞬間、それは訓練モードだ。

まぁ確かに、訓練モードは死なないってだけでそれ以外は普通のダンジョンと変わらない。

恐らく、ボスモンスターは普通のモンスターよりも知能が高い。

だからこそ、訓練モードの時の俺の行動を覚え、対策したのだろう。


なるほどな、訓練モードも本番も、モンスターは共通の奴なのか。

なら、むやみに訓練モードで戦略をさらけ出すのは悪手か。


「ま、そんなことはここを出てから考えればいっか! とりあえず、報酬を確認するとしますかね~」


ミノタウロスのドロップアイテムを確認する。

箱を開けると、中には何枚ものルディがつまっていた!


ピコーン

(報酬 千ルディ、ランダムスキル)



持ち物に、通貨が追加される。

やった~!

これで今日の分の食料は大丈夫そうだ。

ここに来るまでの階層分を合わせると、千五百ルディを獲得することができた。

他の物の値段を見ていないから分からないが、少なくとも人参十五本は買うことができる。

人参十五本……嬉しいよなうな嬉しくないような……


能力スキルを選択してください)


あ、そういえば十階層ごとのボスを倒せば、追加で能力スキルをゲットできるんだった。

さて、どんな能力スキルをもらえたのかな?


能力スキル 身体強化しんたいきょうか 発動時、自身の身体能力を大きく向上させる)


う~ん、これは当たり……だよな?

身体能力が上がれば、敵の攻撃もかわしやすくなるわけだし……あれ!? 俺の|動視アップと相性抜群じゃね!?


だって、ボスに挑む前の俺は、ドアにケツをぶっ叩かれた。

見えてはいたが、体が追い付かなかったのだ。

でも、これがあればそれが解決できるかもしれない!


「ふふふ……ははは!! 自分の運が怖いぜ!」


でもそのせいで、後から何か嫌なことが起きそうで怖いです。

だって、何種類もあるであろう能力スキルから、こんなに相性のいいものを二つも引けたんだよ?

俺、かなり運を消費しちゃってるんじゃないか?

いや、レア武器を引いた後でもこんな神引きをしたんだ。

俺の運はまだまだ尽きないはず!


「とりあえず、区切りがいいからひとまず戻ろう」


(ダンジョンから帰還します)


ふぅ、戻ってきた。

意外といけるもんだな。

ダンジョンについて、少し情報も得られたし、初めての挑戦にしてはかなり良い成果ではないだろうか?

個人的にはもう大満足だ、自分をなでなでしてあげたい!


「輝! 無事だったのか、本当に良かった!」

「うおぉ!? 父さんか。あぁ、無事だよ」

「本当に良かった……」


「母さんまで、泣くなよ。言っただろ? 大丈夫だって」


両親は、目に涙を浮かべながら抱き着いてきた。

俺がダンジョンに潜っている間、まだ戻らないのかと気が気じゃなかったらしい。

俺がケツを強打されて涙している間、二人は必死に俺の無事を祈ってくれていたのだ。


「疲れたから少し休むよ。そうだ、街は今どんな様子なんだ?」

「テレビは電気、ガスや水道まですべてが止まっている。おかげで今の世界の様子はさっぱりだ。この機械でニュースが見れるらしいが、ルディが必要だ。」


こんなところでもルディを取ってくるのかよ!

まぁ、テレビやインターネット変わりだと思えば納得でき……ないな。

うん、できないわ。

命かけて稼いでんだから、そのくらいは無料にしてほしかった。


「そっか、ありがとう父さん」

「あぁ、じゃあゆっくり休めよ。俺たちは少し外に行って様子を見てくる」


父さんと母さんは支度をして、外へと出て行った。

恐らく、街も大混乱だろうな。


「とりあえず、ランキングを見てみるか。かなり上がっているはずだ」


ベッドに飛び込み、メニュー画面を開く。

なんか、ゲームをしてるみたいだ。

強さで何もかもが決まってしまう。

強い奴は強い敵を倒してどんどん強くなる。


「あの神からすれば、俺たち人間もそんな小さな存在なのかもな」


(ランキング 現在順位五位 ランクS)


おぉ、ものすごい上がるじゃん。

八十億位から五位!?

何桁減ったんだ?

ランクもDからSに上がっているぞ!


(今月の報酬 二百万ルディ)


「はい勝ちました! 私の完全勝利です!」


思わず叫んでしまった。

落ち着けよ俺、冷静さが取り柄だろ?


とはいえ、興奮するのも仕方がないよな?

だって、ダンジョンに籠る前の俺の報酬を思い出してくれ!

たったの”二”ルディだったんだぜ!?

それが今、百万倍です、百万倍!

天に昇りそうだ。

だって、もう俺今月絶対貧乏しないぞ、これ。


とはいえ、十階層のクリアで順位一桁に乗るということは、他の人は大分苦労しているみたいだな。

ランキングを見ると、上位にいる人たちの武器が銃と弓に偏ってきている。

やはり、安全性を求めたらそうなるか。


ピコーン

ここで、新しい通知が届く。

俺は迷わずその通知をタップし、内容を確認する。


(生存者 残り七割)


「……は? 生存者……七割?」


何のことを言ってるんだ?

生存者? ゾンビゲームか何かか?


「おい! 輝、大変だ!」

「と、父さん!? どうしたんだ?」


息を切らし、血相を変えた父さんが、部屋に飛び込んできた。

さっき外を見に行ったはずじゃ?


「やっぱりだ、これからもっとひどくなる!」


パニックになりかけているのか、父は言葉があいまいだ。


「一旦落ち着け! 何があったんだよ?」

「……」


父さんは、口を震わせて俺を見上げる。

目には、少し涙が見えた気がした。


「みんな、死んでいく!」


父の突然の発言を、俺は理解することができなかった。

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