第3話 怖い時はまず訓練から
「……なるほど、やってくれるじゃねーか」
武器を使って攻略するため、俺はダンジョンへと入ろうとした。
その時に、いろいろと注意事項が表示された。
真面目な俺は、じっくりとその注意書きを読み込んだわけなのだが、その中に一つ、圧倒的に注意しなければならない項目があった。
それがこれだ。
(訓練モードではない場合、ダンジョン内の死は現実の死と見なされます)
つまり、死んだら死ぬと。
文字に起こしてみれば至極当然のことだが、違うんだ。
金稼ぎでさ、ふつう死にます?
いや、自衛隊とか、警察とか、世の中には常に死と隣り合わせの職業なんていくらでもありましたとも。
でもさ、俺ただの高校生よ?
武術なんてさ、体育の授業で竹刀振ったくらいだよ?
振っただけね、実際に試合をしたことは無い。
俺には最強の銃があるじゃないか! 何を恐れている! 敵はスライムだぞ!?
そう心の中で叫ぶ俺もいますよ。
でもさ、生物って死の恐怖には抗えないじゃん?
百回に一回の確率で死ぬけど一万円上げるよ~とか言われてもさ、押さないでしょ?
そういうことなんですよ。
怖いです、普通に。
何なら俺、一回スライムに殺されてるんですよ。
抱こうとしたら吞まれたんですよ、トラウマです。
「仕方ない、訓練モードで自信が付いたら行くことにしよう」
訓練モードの欄へチェックを入れ、ダンジョンを開始する。
(訓練モードで開始します)
ダンジョンへと飛ばされる。
目の前には、俺の
ポヨポヨと体を揺らしながら、こちらへと近づいてくる。
あぁ、そうだそれだよ!!!!
その可愛さにやられて、俺はバックリ呑まれたんだよ!
「今回はやられてたまるかぁぁぁぁ!!!!!」
俺は腰から銃を抜き、何度も引き金を引く。
バン! バン! バン!
銃声が鳴り響き、弾丸がスライムへと放たれる。
放たれた三発の弾丸は、見事に目の前のスライムへと命中する。
「!!!!!?」
撃たれたスライムは、四方八方へ霧散して消えた。
無事に倒したのだ。
しかしやはり訓練モードは
まぁそうだよな。
そうだったらみんな訓練モードに籠るだろうし。
スライムを倒したら、奥の壁がゴゴゴゴと音を立てながら割れる。
その奥には、さらに通路が続いていた。
なるほど、その階のモンスターを倒せば次に進めるってことか。
なら、行けるところまでどんどん行ってやる!
どうせ訓練モードなんだ、死のうが戻れる!
死への恐怖がなくなった時の俺は無敵だ。
だって手元には最強の銃、撃てば当たる!
何を恐れればいいのか聞きたいくらいだね!!
というわけで俺は、止まることを知らない勢いでダンジョン(訓練)を突破していった。
階層が上がるごとに、確かにモンスターは強くなってくる。
二階層ではスライムが三匹、四階層では全身に鎧を着たゴブリン。
六階層ではスライム十体が出迎えてくれた。
まぁ、そのすべてを撃ちぬいたわけだが……
「これ、まだ限界じゃないのか……?」
流石に疲れてきた。
戦闘時は引き金を引くだけだが、ダンジョンを進むのには体力がいる。
自慢じゃないが、俺は体力テストでB評価すら取ったことがない。
体力の”無さ”には絶対的な自信を持っているのだ!
なのに、どれだけ階層を攻略しても、つまずく様子がない。
どいつもこいつも、引き金を引けば終わってしまう。
貰った
そうなれば、あとは照準が教えてくれたタイミングで引き金を引き、外しても追尾で攻撃してくれる。
ひたすらにこの繰り返しだ。
ちなみに現在の階層は二十一階層だ。
十階層のボスは、巨大な牛のモンスターだった。
大きな角で突撃してきたが、正面から引き金を引いて終わり。
二十階層のボスは巨大な蛇。
多分全長が百メートルはあった。
まぁこれも、頭を狙って引き金を引いて終わりだ。
なんか、滅茶苦茶自信が付いてきたぞ?
俺って、自分で思っている以上に強いんじゃないか?
まぁ、正確には武器が強いんだけど。
ちなみに鉄剣の方は、一回も使うことがなかった。
だって銃が強すぎるんだもん。
「とりあえず戻ろう。本番でも、二十階層までは余裕なのが分かった」
(ダンジョンから帰還します)
一瞬辺りが真っ暗になり、次に景色が見えたときは、毎日見る家のリビングだった。
両親はまだメニュー画面と対面している。
だが俺を見るなり
「帰ってきたか! 無事でよかった」
と声をかけてきた。
どうやら、ダンジョンには体ごと行っているらしい。
俺がダンジョンに入った瞬間に、俺の姿が消えたとのこと。
本番のダンジョンにこれから向かうことを告げると、両親は全力で止めてきた。
「危ないぞ! 死んでしまうんだぞ!?」
「そうよ、死んだらそこで終わり……終わっちゃうのよ!?」
そうは言ったものの、見た感じ、あの神が言っていたことはすべて事実だ。
今や世界が大混乱に陥り、まともに社会は回っていないだろう。
事実、俺が訓練ダンジョンから戻ると、部屋の電気は消えていた。
発電所はもう止まったらしい。
恐らく、電気も
もうみんな、他人のことを考えている暇はないのだ。
今まで通りの仕事をしても、生きていくことはできないのだから。
「だから俺は行ってみるよ。大丈夫、最強の武器を持ってるから!」
親はまだ納得していない様子だったが、俺は強引に了承させた。
俺からすれば、両親がダンジョンに向かうことの方が不安だ。
それに、正直俺は焦っていた。
ダンジョン内でどれほど
なら、ある程度の
なるべく早く、稼がないといけないのだ。
餓死なんて絶対ヤダ! い、や、だ!!
ダンジョンに入るため、メニュー画面を開くとランキング画面にビックリマークが付いていた。
開いてみると、通知だった。
(
中野悠……見たところ、現在ランキング一位だ。
ん? 二位、三位、四位もかなり進んでいるな。
五位以降の人たちが十階層以下なのに対して、上位四人は三十階層以上を突破している。
明らかに異様だ。
「はは~ん、こいつらも……だな」
上位四人が使っている武器は、それぞれ槍、剣、大剣、弓だった。
つまり、恐らく俺のように、レアな武器を引き当てた四人だろう。
それぞれの武器に、一つずつレアがあるとすれば、説明が付く。
実際、銃の使用者で最もランキングが高いのは七位の八階層だ。
銃のレアは俺がもっているため、他の銃使いにレアを持っている奴はいない。
ってことはさ~?
「俺、この世界で最強レベルじゃね?」
そうだ、この世界は実力ですべてが決まる世界。
理不尽にも、最初の武器で大きな差が付いているが、結局は力なのだ。
武器の力、運、己の能力……なんでもいい。
とにかく強くなった奴が勝ち組なんだ!
つまり、レア武器を持つ俺も、必然的にその勝ち組枠に入ることになる。
そうなれば、俺の生活安泰は約束されたようなもの!
あぁ、なんて素晴らしいのか!
自信がついた。
いやつきすぎた!
もう、今の俺は何を言われても止まる気がしない。
スライムに殺された? そんな話なんてさっさと忘れてしまいなさい、恐怖する俺の心よ!
今の俺は、この世界で最強の人間の一人なのだ!
「そうともなれば、すぐにダンジョンへ行くぞ! 狩って狩って儲けるのだ!」
(最終確認 これは訓練ではありません。確認したのち、ダンジョンへと進んでください)
「ゴーだ!」
俺は迷わずダンジョンへのボタンを押した。
その瞬間、辺りが再び暗闇に閉ざされ、ダンジョン内へと飛ばされる。
目の前には、三度目のスライムが待ち構えている。
だが、そんなものにいちいち構っていられるほど、今の俺は暇ではない!
「すまないな、スライム!」
さっと照準を合わせ、引き金を引く。
ダンジョン内に発砲音が響きわたり、スライムが霧散する。
そしてそこには、一枚のコインのみが残る。
「
さぁ、どんどん行こうか。
金稼ぎの始まりだ!
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