第2話 状況を整理しよう

世界が大混乱の中、俺は比較的落ち着いていた。

焦っても何にもならないと知っているからだ。

まぁ、それでもこれだけ落ち着いているのは、自分でも怖い。

ちなみに両親は、あの後からずっとメニュー画面を見つめている。

俺と同じように、少しでも情報を集めようとしているんだ。

まったく、親子そろってこんなに落ち着いていると、なんだか逆に怖いな。


とりあえず、少し首の機械をいじってみた。

首からの着脱は可能だが、捨てることはできない。

いつの間にか手元に戻ってきている。

ハンマーでぶっ壊そうとしても見えない力で防がれた。

あれか? アニメでよく見るバリアとかいうやつか?


あと、この機械には燃料や電池は無いようだ。

見たところ、バッテリーの表示みたいなのは無いし、そもそもこれが充電切れになれば、もう生きていけない。

あれ? なら俺がこの機械壊そうとしたのって自殺行為じゃね?


まぁともかく機械が壊せないし、手元からも無くせない以上、本当にあの男が言ったように、ダンジョンでルディを稼ぐしかないようだ。

だが、スライムに殺された俺がそんなことできるか……?

いや無理だろ。


ピコーン

能力スキルを選択してください)


通知音と共にメッセージが表示される。

ん?

あぁ、そういえばそんなこと言われてたな。

忘れてたよ。


通知を開くと、三つのスキルが表示された。

一、攻撃力アップ

二、水刃アクアブレード

三、動視どうしアップ

だそうだ。


ランダムとは言っていたが、本当にバラバラだな。

三つのスキルは一つも共通点がない。

まず攻撃力アップだ。

これはそのまま、自身の攻撃力……筋力を増加させるものだ。


次に水刃アクアブレード、これは水の刃を生成して相手に飛ばすもの。

水とはいえ、ダンジョン序盤の敵に通用するくらいの切れ味はあるらしい。


最後に動視どうしアップ、これは動体視力を底上げするスキルだ。

動体視力……俺にピッタリじゃないか。


俺は動体視力が異様に低く、体育で球技をしようものなら、ボールを見失うのなんて当たり前だった。

それを補えるのなら、これがいい。

俺はそのスキルに魅かれ、導かれるように選択した。


能力スキルが選択されました。適応しています……完了しました)


能力スキルが適応されたらしい。

しかし、一見なにも変化がない。

あ、視力を上げるものなのだから当然か。


端子に、机に置いてあった花瓶を掴み、上へと投げる。

今までの俺ならば、花瓶をまともに認識できずにそのまま落とす。

だが、能力スキルによって強化された今ならば!


「お、おぉ! 見える……見えたぞ!」


見える!

認識できる!

アニメとかでよくある、物がゆっくり見えるとかではない。

しかし、はっきりと花瓶の姿を認識できた。

今までだと、ただのブレた物体にしか見えなかったものが、今でははっきりと認識できる。

あぁ、なんて素晴らしいんだ!

あれ……でも……


一度冷静になって考えてみる。

確かに俺は、常人をはるかに超えた動体視力を得た。

これにより、敵の攻撃が認識できない! なんてことはないだろう。

でも、それでどうするんだ?

認識できても、体が動かなければ意味がない。

銃弾が飛んできたとしても、認識できるだけで体が動きに間に合わない。

つまり、ダンジョンに高速で動くモンスターがいた瞬間、俺は死ぬ。

何もできず、ただ斬られる俺の体を認識しながら……


「おい! 明らかに水刃アクアブレードの方がよかったじゃないか!」


くそ!

でも、もう戻ることはできない。

今の俺にできるのは、ダンジョンに行った時、高速で動くモンスターがいないのを祈ることだけだ。

あぁ、なんて惨めなんだ。


ピコーン

(ランキング更新。あなたは現在八十億二十三位。 ランクD)


なにやらとんでもない数字と共に、自分のランキングが表示される。

八十億二十三位?

え~っと、今の地球全体の人口が約八十億人だから……ほぼ最下位じゃねーか!?

何それ!? 上位の人たちはどうやって上げてるんだよ!?


そしてランクDというのも、何を指しているのか分からない。

まぁ今までの経験上、SもしくはAが一番だから……やっぱり最下位じゃねーか!?

S、A、B、C、と来てのDだろうから、俺のランクは相当下らしい。


「ん? 報酬?」


ランキング画面の右上には、報酬というボタンがあった。

なんとなくそれを押すと、現在の俺の順位と共に、報酬が表示される。


「今月の報酬……二ルディ!?」


どうやら、俺の順位八十億二十三位、ランクDでは、二ルディしか貰えないようだ。

一ルディの価値も分からないが、決して高い金額でないことは分かる。

それに神と名乗る男は言っていた。


「弱者は生きることすら叶わない」


と。

つまり、ランキング上で圧倒的な弱者である俺は生きられないということ。

ここから導き出される答えはそう!

この世界、たった二ルディでは生きられないということだ!


「い、いやだぁぁぁぁぁぁ!」


絶望のあまり、家を破壊しそうなほどの大声で叫ぶ。

そりゃそうだ、突然死を宣告されたようなものなんだから。

いやいや、十六歳で人生に終止符を打つとか、たまったもんじゃないぞ!?

まだ結婚……は年齢的に無理だが、彼女すらできたことないんだ!

高校でつくるから~ とかほざいていた時期が俺にもあったが、未だ叶っていない。

嫌だよ! まだ俺の生きるべき時間の半分……いや四分の一も生きてないぞ!

俺は百歳まで生きるんだよ!

あわよくばもっと生きてギネス記録取るんだよ!


いやいや、落ち着け俺。

ランキングでルディがもらえなくても、ダンジョンで稼げるじゃないか。

何をそんなに慌てているんだ……って、俺そういえばスライムに殺されたじゃん……

でも、能力スキルを使いこなせば、十層までは行けると言っていたから、まだ可能性はある。

だが素手で攻撃をすれば、またさっきみたいに呑まれるのがオチだ。

テレビで男がしていたように、剣を使えば簡単に倒せるのか?

ただ剣をどこで買えばいいんだ。

この国では、剣ですらもそう簡単には手に入らない。

金をいくら積んでも……だ。


「あ!そうだショップ!」


メニュー画面を開き、”買い物”という欄を選択する。

すると、見慣れたショッピングサイトのような画面が開かれる。

オススメと書かれた場所には食料などの生活必需品が大量にある。

なんと人参一本が百ルディ!

か! え! る! か!!!!!


おいおい、人参一本だぞ?

二本、三本が袋に入ってるならまだしも、一本だぞ?

収入二ルディの俺は人参一本すら食えないのかよ!


「あ、待て。救済措置があるぞ」


オススメ、人気、新着、セール中という、本当にショッピングサイトのような項目の一番下に、無料という項目があった。

俺はすぐにその項目を選択する。


すると、いくつかの品が並んだ。

そのすべてが武器だ。

槍や剣、大剣、弓、銃。

人気順で並べ替えてみると、銃と弓が上へきた。

まぁ、そうだよな。

ある程度の距離が維持できるから危険も少なくて済む。


でもな~

漫画とかで、銃と弓を使うやつは、基本弾と矢を弾かれてるんだよな……

銃は自分の能力に応じて威力が上がるわけじゃないから、そういう点では他の武器に劣る。

弓も同じく、弦の強さを上げればいいが、それも限界がある。

ダンジョン攻略が進んでくると、それこそ強敵が出てくるだろう。

そうなれば……剣かな~

大剣は俺が持てる気がしないし、攻撃を外した後のリスクがでかい。

槍は距離を取って戦えるかなり良い武器だが、近づかれたら終わりだ。

その点、剣ならば距離を詰めるという欠点があるが高い攻撃力を誇る。

あとはロマンだ。

そう、ロマンなのだ!

どんなゲームでも、強い武器を使う奴もいれば、好きな武器を使う奴もいる。

少なからず、ロマンを求める人たちはいるのだ!


ということで、俺は剣を選択する。


(こちらの商品でよろしいですか? 鉄剣 ゼロルディ)


はい、を選択すると、メニュー画面から小さな光が飛び出してくる。

それは俺の目の前で膨らみ、大きな四角形へと形を変える。

そしてドンッと俺の目の前に落ちた。

それは細長い木箱だった。


さっそく開封すると、鉄で造られた剣が入っていた。

刀身の形は、日本刀と同じつくりだ。

刀身は反っていて、片側のみに刃が付いている。


「おぉ、なかなかカッコいいじゃん!」


持ってみると、かなりずっしりときた。

剣でこれなら、大剣とかどうなんだよ……

昔の武士たちは、こんなのを振り回してたのか。


「あれ?まだ買えるのか」


ふとショップに目を戻すと、まだ武器が買えそうなことに気づく。

一人一つだと勝手に思っていたが、武器はまだ買えるようだった。

多く持っていて損はないが、すべて買っても置く場所は無い。


「銃だけ買っとくか」


剣の欠点である遠距離、それを補える銃を買っとくことにした。

これならば腰につけて持っておくことができる。

近距離は剣、中遠距離は銃みたいな。

かっこよくないか!?


早速注文すると、再びメニュー画面から箱が飛び出す。

今度は先ほどよりは小さめの箱だ。


開けてみると、黒い二丁の拳銃が入っていた。

なんか、鉄剣と比べて装飾もあり豪華だ。

おや、ありがたいことに弾丸も付いている。

しかも、かなりたくさん入れてくれているようだ。

いやぁ、感謝だねぇ。


よく見ると、箱の隅に小さな紙が入っていた。


「おかしいな、剣には入ってなかったはずだよな?」


紙を開いてみると、文字が書かれていた。


(おめでとうございます。あなたは世界に二丁しかない拳銃を入手しました。持ち物欄にてご覧ください)


よくわからないが、とにかくレアな銃を引き当てたらしい。

しかも世界に二丁しかないときた。

つまり、その二丁が俺の手に今あるのだ。

他の人にはない、特別な武器!

おいおい、まさか俺かなり良いスタートなんじゃないか!?


早速持ち物欄を探し、確認する。

すると、鉄剣の横に、旋弾銃せんだんじゅうという銃があった。

アイコンがキラキラしていて、いかにもレアって感じだ。


まぁまぁ、お楽しみは後にして、とりあえず俺の主軸武器メインウェポンとなるであろう鉄剣を見てみよう。


タップして開くと、剣の性能が表示された。

《鉄剣 切れ味、五百七 耐久値、二百 》


うん、高いのか低いのか分からん。

恐らくは切れ味というのがこの剣の攻撃力だろう。

攻撃力と表示されていないのは、使い手によって火力が変わるからか。

耐久値……というのがよく分からないな。

まぁ、武器を使っていると、どんどん刃こぼれしてきたりするのだろう。


「ん? 固有能力スキル? なんだそれ」


どうやら、武器ごとに設定されたスキル能力のようだ。

同じ武器であれば、固有能力スキルは変わらないとのこと。

鉄剣の能力スキルは……研磨けんまか。

武器を使っていない間、少しずつ切れ味を回復するようだ。

あれ? 初期武器なのにめちゃくちゃ強くね?

実際に使ったらそうでもないのか?


次はお待ちかね、旋弾銃せんだんじゅうだ。

正直かなり期待している。


旋弾銃せんだんじゅう 威力 八千五百 耐久値―― 装填数十二)


当然ではあるが、剣と表示が少し違う。

威力というのがどういうものか分からないが、切れ味と同じだとしたら……化け物じゃねーか!

耐久値が非表示なのは、壊れることがないからだろうか。

まぁ、剣みたいに刃こぼれとかがないしな。

装填数は、そのままの意味だろう。

弾丸が一度に十二発か、使ってみないと分からないが、かなりいいんじゃないか?

固有能力スキルは……


「瞬間装填、貫通、照準、追跡……多くね?」


なんと四つも付いていた。

この時点でかなり強そうだが、内容をみてもっと驚きだ。


瞬間装填、装填している弾丸を撃ち切った瞬間、すぐに十二発装填する。


貫通、敵に命中時そこで弾丸が止まることなく、後ろの敵にも攻撃が当たる。


照準、敵を狙った時、弾丸が当たる場合は敵にマークが表示される。相手の移動は考慮されない。


追跡、照準で狙った相手に弾丸が命中しなかった場合、弾丸が敵を追跡する。弾丸は命中するか、破壊されるまで追跡を続ける。


ん~?

ぶっ壊れじゃね?

だって、自動で装填してくれるから、実質ずっと撃てるでしょ? てことは、銃の欠点である装填時間が無くなる。

次に貫通。

これはおまけ程度の物だろうが、相手が集団の場合、かなりの効果が期待できる。

照準と追跡は、二つで最強って感じだな。

銃の扱いなんてしたことない俺でも、マークが表示された時に引き金を引けば当たるし、相手が移動して当たらなかった場合、追跡してくれる。


これが俗に言う”チート”ってやつなのか。

もうこれだけで、他の人たちと圧倒的に差が付いていることは明白だ。

武術などをしている人ならば、多少は他の人よりもこの世界では有利だろうが、そんな少しの差なんて比べ物にならない。

実力……つまりは力だ!

俺は今、その力を手に入れた!

おいおい、これは俺の時代じゃねーか!


とりあえずは、神が言っていた二日後までは、ダンジョンに行ってみるか。

二日後に発表される大会とやらは、また見てから判断すればいい。

今はとにかく、この武器たちを試したくてうずうずしてるんだ!

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