第11話

ガルストンの放った魔法のドリルが、爆発的にその回転を加速させながら、森の奥深くへと進んでいった。最初は、ただの風のように感じられる速さだったが、次第にその威力が増していき、周囲の木々が次々と倒れていく。


「ザッ、ザッ!」と、大きな音を立てて、ドリルは無情に樹木を切り倒していく。太い幹も、細い枝も、まるで刃物で裁かれたかのように真っ二つに裂け、空に舞い上がる葉っぱがまるで雪のように降り注いだ。


森の中の生命は一瞬にして喪われていく。木々が倒れ、枝が飛び散り、草が踏み潰されていく。ドリルが通った後には、ただ破壊された大地と倒れた木々の残骸が残るだけだった。


その進行方向には、サタナチアが指揮を執る陣地があった。彼女は、魔法のエネルギーを感知し、その異常さに一瞬で気づく。だが、間に合わなかった。ドリルがその速度で近づくにつれ、周囲の空気が震え、サタナチアは恐ろしい勢いで迫ってくる圧力に足を取られ、反応が遅れた。


「何っ――!?」


その声を上げる間もなく、ドリルの力が大地を揺るがし、森を突き抜けてサタナチアの陣へと突入してきた。近くにいた兵士たちは、ただただ目の前の魔力の暴走に目を見開き、逃げる暇もなく吹き飛ばされた。サタナチアはその圧倒的な威力に立ち尽くし、前方に迫る巨大なドリルに目を見開く。


「あ、ああああああ!」


ドリルの回転する刃先が、土を、岩を、、そしてサタナチアしか残っていない野営地を無情に薙ぎ払っていく。彼女はすぐに身をかわすが、周囲の瓦礫が飛び散り、突風が吹き荒れる中、足元をすくわれて地面に倒れ込む。


サタナチアはすぐに立ち上がり、恐怖と怒りを感じながらも必死に冷静さを取り戻そうとするが、目の前の景色は完全に崩壊し、陣地はあっという間に壊滅的な状態となった。


サタナチアは目の前の恐ろしい力に、咄嗟に反応する。心の中で瞬時に呪文を唱え、彼女の指先から淡い光が広がり、魔法の防壁が立ち上がる。その防御は、彼女が持つスキルによって強化された、優れた防御魔法だった。


「シールド……!」


魔法の盾が彼女の前に現れ、透明な光の膜が空間を覆い尽くす。彼女はその盾が間に合うことを信じ、強く思い込んでいた。しかし、次の瞬間、ドリルの回転力がその盾を貫くように迫り、耳をつんざくような音とともに、盾がひび割れていった。


「なっ……!」


サタナチアは防御魔法をさらに強化しようとするが、ドリルの回転力がそれを完全に上回り、盾の光が弾け飛ぶ。あまりの圧力に、サタナチアは防御魔法を維持できず、体が揺れ、足元をすくわれた。次の瞬間、回転する刃先が彼女を捉え、彼女の体を激しく巻き込んでいく。


「うあああああっ――!」


その瞬間、彼女の叫び声が空気を震わせたが、ドリルの勢いにかき消されていく。防御魔法も虚しく、サタナチアの体はその回転に飲み込まれていき、鋭い刃が次々と彼女の身体に襲いかかる。


背後から飛び散る破片と共に、サタナチアの体は弾き飛ばされる。彼女の周囲の空間が一瞬にして裂け、爆風が吹き荒れ、足元の大地が崩れていった。彼女の姿は、ドリルの力に完全に圧倒され、次第に視界から消えていった。


そして、ドリルが山に突き刺さる瞬間、サタナチアの存在は完全にその渦に呑み込まれ、彼女の命運は無情にも終わりを迎えた。


ドリルが回転し続け、山の中に大きな穴を開ける間、サタナチアの姿はもはやその場にはなかった。


彼女のこの世界の肉体の『消失』に、ドリルは無情に進み続け、ついには山に向かって突進する。


地面が震え、音もなく土が崩れ落ちる中、ドリルは山に到達し、巨大な岩壁に突き刺さる。さらにその勢いで、ドリルが山を貫通し、空気がひときわ冷たくなる瞬間を感じる。


次の瞬間、山の壁に大きなひびが入り、爆音とともに、山全体が揺れ、大量の土砂と岩が空中に舞い上がった。ドリルの回転力が続き、山に大きな穴を開け、その一部が吹き飛んでいった。巨大な岩の塊が崩れ落ち、その穴はあっという間に広がっていく。


山に穴を開けると、魔法のドリルは跡形もなく消失した。後に残ったのは山の向こう側を見通すほどの大穴と、そこかしこに散らばる土砂と岩。そして、跡形もなく消し去ったサタナチアがいた野営地だった。


まるでその存在が最初から無かったかのように、すべてが一瞬で消し去られていた。


----後にこの山を貫通した大穴は『ガルストンの大穴』と呼ばれることになるが、この時はまだ山に開いたその大穴に対して、村民もゼファールもトーマスも、そしてガルストンさえも、ただそのあまりの大きさに呆れながら『やり過ぎだ』と口々に呟くだけだった。

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