第31話 厄払いは陰陽師とご一緒に
志遠さんに言われたとおり、あのあとわたしは勇気を出して、マスターや洋子さんたちに願掛けのことを訊いてみた。
迷惑そうだったり、怪訝そうな顔もされたけど、とりあえずわかったのが次のことだ。
一ツ、マスターが
一ツ、洋子さんが足首をひねったとき、お供えものをしたらすぐに治った。
一ツ、燐さんが客の男性につきまとわれて困っていたとき、縁切りをしたらそいつはすぐに現れなくなった。
他にも霊験あらたかだとの噂がたって、客が特別に拝ませてほしいとやって来たこともあったみたいだけど。さすがにそこまでは追いきれない。
ちなみに美津さんは、「言えません!」と答えを拒否。そのときの顔が真っ赤だったから、願掛けの内容は恋愛絡みとか?
でもなぁ。こんなの集めてどうなるのよ?
いまだに腑に落ちないまま長屋へ帰ると、
「お帰り、亜寿沙さん」
維吹さんがおもてに立っていた。
星明りに照らされた、ほっそりとした身体はなんだか人ではないみたいで。このまま足元から消えていってしまいそうな、そんな儚さがある。
――創られた存在。失敗作。
そんな言葉も脳裏を横切り、わたしの胸がちくりと痛む。
「ただいま帰りました……って、いったいどうしたんですか? もう夜は冷えますよ?」
こんな時間にここでなにを? と首をかしげてしまったら、
「夕方、志遠さんが来たよ」
静かに言われて嫌な予感が背筋を駆ける。
「彼から聞いたんだけど。亜寿沙さん、
うわぁ、やっぱり! 維吹さん、それを言いたくてわざわざわたしを待っていたんだ!
そりゃ、口留めしなかったわたしも悪いけど、勝手に打ち明けたりしないよね、なんて都合のいいことを考えていたのもたしかだ。
「そういうことはすぐに教えてほしいな。僕は君の保証人なんだし」
珍しく彼は不愉快そうだ。
「す、すみません。あまり心配をかけたくなかったので……」
「そういういらない気づかいが、さらに余計な心配をかけるって自覚を持ってくれないと」
「ほんと、そうですよね……」
わたしがしゅんとうなだれてしまうと、
「というわけで亜寿沙さん、次はいつお休み?」
責めるような口調を和らげ、維吹さんが訊いてきた。
『というわけで』って話が全然
頭に疑問符を浮かべるわたしを無視して、維吹さんは会話を続ける。
「まだだいぶ先?」
「とりあえず二日後です」
「だったらその日、僕と一緒に
「は?」
「
「……はぁ」
なぜ彼がそんなことを言い出したのか、まったく意味がわからない。
厄という考えかたは陰陽道が元だけど、だったら陰陽師の維吹さんがこの場でちゃっちゃと払ってしまったほうが早いはず。それに、疲れやすい彼はあんまり遠出が得意じゃないはずなのに。
昼間、志遠さんが言った「願掛けの内容を調べる」も意味不明だったけど、維吹さんの提案も真意がわからない。
まあ、それを言ったら本物の仙人と陰陽師を相手に、ただの小娘がなにを企んでいるのか当てられるわけもないんだけど。
これ以上迷惑をかけたくないし、今は大人しく言われたとおりにしていよう……。
状況に流されるのは好きではないが、仕方がない。
ため息をついて見上げた空には、秋の星が小さく
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拙作を読んで下さる皆さま、いつも本当にありがとうございます。
このたび、ちょっと魔が差しまして、近況ノートに陰陽師長屋の見取り図を載せてみました。
御用とお急ぎでない方は、遊びに来ていただけるとうれしいです。
(こちらの案内はしばらくたったら消去しますね)
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