1215 ふるさとの味
宿泊部屋は整っているとはいえ、もてなしの段取りがわからない。九十九と零は調理場だと聞いた柚葉は急ぐ。
調理場の扉を開けると、二人はすでに朝食を食べ終えようとしていた。
挨拶を交わして、柚葉は二人に詰め寄る。
「お客様がいらっしゃったと伺ったのですが、どうしましょう」
「どうも何も、寝ちょるけ何もせんでええやろ」
「寝てるんですか」
おう、と頷いた九十九はなぁ、と隣の零に同意を求め、彼女も首を縦に振った。
「ぶち疲れとるんやて」
はぁ、と柚葉が気のない返事をすれば、九十九が白い歯を見せる。
「はよ食べ。腹が減っとったら、なぁんもできんじゃろ」
見計らったように、海苔に巻かれた握り飯と汁物、漬け物がのった盆が置かれた。柚葉は料理長に礼を言って、手を合わせる。あたたかい内に、と汁物をすすれば火傷をした。
「おらたちは大広間にいるき、あとで来てくれな」
素知らぬ顔で我慢していた柚葉に声をかけた二人は早々に出ていく。
急がねばと柚葉は握り飯を口いっぱいに詰め込んだ。詰め込みすぎたと後悔していると、目の前に水が置かれる。
大事に食べなさいな、と軽く
「ねぇ、お里の料理、教えてくれない? 今日来たお客さん、ねぶとが食べたいって言ったのよ。さすがにないと答えたんだけど、申し訳ないでしょう」
柚葉は頬に手を添える困り顔を数秒、見返した。大のねぶと好きの常連客に心当たりがあったが、こんな遠く離れた場所に現れるわけがないと頭から追い出す。口の中のものを飲み込んでから口を開いた。
「よくお出ししていたのは、鯛めし、たこ飯で、もぶり酢もよく喜ばれていました。後はせんざき、ていう鶏の料理があって」
ああ、と思い出したように料理長は顔を明るくする。
「忘れてたわ。せんざきね、せんざき。雉がちょうどあるから、それにしましょ」
かぼすがあったはずと料理長は機嫌よく立ち上がった。
柚葉は戸惑いながらも鼻歌まじりの料理長を見送る。
「どんな料理か知ってるんですね」
感心を通り越し、困惑を抱く言葉をごまかすよう、握り飯を押し込んだ。
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