1213 夕飯前

 一番星が輝き始めた空に煙がのぼっていく。白い線は何処かで溶けて、闇に紛れてしまった。

 支配人に火の番を任せて九十九や零の所に戻ればいい。頭では分かっているが、柚葉は気付かない振りをした。数が少なくなった落ち葉を無駄に集めてみたりする。

 支配人は鼻歌を歌っていたかと思えば船を漕いでいた。冷え込みでくしゃみをして、鼻をすする。首を胴体にうめた鳩のような重装備の割りに効果は低いらしい。


「はい、熱いから気を付けて」


 焼き上がった芋からは甘い香りがした。

 柚葉が遠くの落ち葉を集めている間に掘り起こしたみたいだ。

 焼き上がったばかりの芋をあちちちと幸せそうな顔で食べている。

 腹が空いていた柚葉も我慢できなくなって、少しずつかじった。

 満足そうなため息が横から聞こえる。三本はあったはずの芋は姿を消していた。信じられない柚葉が支配人を凝視すると、まだ食べたりないのな指先を舐めとっている。

 支配人は瞬く柚葉が物欲しそうに見えたのか、真顔で口を開く。


「もうないよ」

「いやいやいやいや、いりませんよ」

「ま、今さらいると言われてもないけどね」

「夕飯、食べられるんですか」


 思わず訊けば、もちろんと胸を叩いた。


「今日は何かな。柚葉くんは聞いてない?」

「聞いてないです」

「じゃ、食べにいこう」


 今日一日、頑張ったんだしさ、と付け加えた支配人は手を袖にしまいこんで歩き始める。

 勢いに負けた柚葉は丸い背中を追いかけるはめになった。



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