1212 初仕事
宿泊客がいないと言っても仕事がないわけではない。普段は手の回らない雨戸の汚れを掃除したり、玄関先のタイルを磨いたり、裏の落ち葉を集めたりしたら、とっぷりと日は暮れていた。
九十九も零も働き者で、人使いが荒い。子供とは思えない力で物を持ち上げては運び、よく動く。飾り物の瓶や額縁を磨く手は細心の注意を払うが、柚葉には容赦がない。
そんな扱いしたら傷ができるだろう、と丁寧に扱っているつもりなのに、口出しをされ、零にはごみを運べと戦力外扱いをされた。
長年、宿屋で働いてきた矜持は、目の前のごみのように燻っている。
「これはこれはいい頃合いだ」
膝を折っていた柚葉の斜め上から声が降ってきた。声から誰だとわかったので、好きにさせてやる。やさぐれていたので相手をしたくなかったのが本音だ。
半纏に大袈裟なまでに襟巻きを巻いた支配人がいそいそと灰の下に唐芋を埋め始めた。木の枝で掘るので、袖に煤がつきそうだ。
柚葉もさすがに見ていられなくなったので、土を被せようと行動される前に落ち葉を箒でかき集めた。
落ち葉の下から白い煙が立ちのぼり始める。
ほくほくとした顔で火にあたり始めた支配人は、気軽な調子で声をかけてきた。
「どう? 初仕事は」
柚葉はまぁ、と言葉を濁した。行く宛のないので、やっていく自信がない、とは答えられない。舐めていたわけではないが、やはり女将にと言われたのは冗談だったのだろう。自分よりも年下のものに負けるなんて、物心ついた頃から働く柚葉に取って許せなかった。
客を相手にできない分、裏方の仕事は人一倍頑張って来たというのに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます