1206 お喋りハウスキーパー
まほろばホテルの支配人は、宿泊客が一人もいなくてもお気楽だ。
「そういう日もないと休めないからね。こういう時も必要必要」
従業員が少ないのは、給金が少ないからではないか。柚葉の脳裏に不安がよぎるが、仕事を選べない立場なので何も言わないでおいた。
柚葉くん、と呼ばれて顔を向ければ、半纏の袖に両手をもぐりこませた千早がへらりと笑う。
「料理長に味噌は忘れてもいいけど、南瓜は忘れずに、って伝えといてくれる?」
「わかりました。あの、台所の場所は」
「
頼んだ本人は欠伸をしながら、扉の奥へと消える。
影井は隠れっぱなしで助けにはなりそうにない。あたりを探していると、従業員用の扉が開く。
現れたのは、溢れんばかりに布が詰められた籠だ。わずかに浮いていると思えば、二本の足がはえていた。色とりどりの布の奥から顔を出した少年は、大きな目をくりりとさせる。
「お? 用事け?」
「……台所に用事があるのですが」
「そうけ、おらが案内しちゃる。お前が噂の新入り?」
柚葉です、と頭を下げると、ついてこいと顎をしゃくった。
「おら、九十九。べるあてんだんと、と。はうすきぃぱぁを任せられとるけど、この訛りやろ? いろんな所つれられて、わやくそになっとるが、どうもならんくてな。しゃーないから、部屋の掃除ばぁっかりしとる。ま。気ぃ使わんでええから
「伊予からです」
「そげん遠くから! 伊予もなぁ、ええよなぁ。海も山も近いし、何よりあったかい。寒いんはこたえるよなぁ。昨日今日で寒くなったやろ? もぉ、手がちぎれそうでかなわん。いくら手当てしても、ちぃーともよくならん。冬の洗濯もん、大変よなぁ? 泡が散って中でするわけにもいかんし――」
柚葉は、調理場へたどり着くまで、聞き役に徹した。
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