第7話 お前のイイとこ見てみたい! ヘイッ!

 俺は無遠慮な態度で、大和に近づいた。


「おいおい。情けねぇヤツだな」


「あん? はっ。鬼咲かよ」


 彼は鼻で笑って吐き捨てた。

 その態度に俺は不敵な笑みを浮かべる。


「俺をボコった中坊のお前の方が、まだ覇気のある男だったぞ」


 セリフはうろ覚えだが、大体こんな感じだったはずだ。

 ようは、挑発して彼女との勝負を成立させればいい。

 すると、薫瑠が便乗してきた。


「そうだよ。大和。思い出せよ。もっと熱くなれよ!」


 薫瑠は昔の大和が好きなので、こういうときは乗ってくるのだ。


「ヤダ。俺は熱血とは無縁で生きるって決めてんだ。戦いたいなら他所でやれ」


 火付きが悪いなー。ほんと初期の彼は湿気たマッチだよ。


「ふん。格好悪い男だ。だったらこれでどうだ!」


 俺は構えて踊り始めた。


「あ、ちょっとお前のイイとこ見てみたい! ヘイッ! あ、ちょっとお前のイイとこ見てみたい! ヘイッ!」


 俺は煽り散らす作戦に出た。

 するといつの間にか、そばに来ていたクリキチが便乗しだす。


「あ、ちょっとイイとこ見てみたい! ヘイッ!」


 さすが三下ヒロイン。俺の空気を読んで、なんでもする女。

 俺とクリキチは大和の周囲をクルクル踊って、煽り散らす。


「なんか楽しそう! 私もやる!」


 エリーゼがキラキラした目で興味をしめし、踊り始めた。


「ちょ、エリーゼ様。はしたない。おやめください!」


 ライラが慌てて止めに入る。


「良いぞ、鬼咲! 僕も踊る! 大和の格好良いトコ見てみたい! FOOO!!」


 薫瑠までもが踊りだした。

 ほぼイジメであるが、イベント進めるためには仕方ない。


 心苦しいが俺はオーガとなる。

 するとどうだろう。

 最初は無視していた大和が、プルプルと震え始めた。


「だーっ! うるせぇ!! わーったよ。分かりました! やりゃぁいいんだろ! コノヤロー!!」


 彼はワッペンをエリーゼのワッペンに叩きつけた。

 作戦成功。

 俺はみんなと健闘を称え合った。


「よーし大和に火が入った! やるじゃん鬼咲」


「やるわねアンタ」


「いやー。ナイスステップだったぜ。二人とも」


「で、これどういう状況っすか?」


 状況が分かってないクリキチはさておき。

 まぁとにかくこれで、イベントが進む。


 先ずは一人目のヒロインにして、センターヒロイン。

 エリーゼとのフラグ立て完了だ。


 ■□■□


 んで放課後。

 エリーゼと大和は学校の決闘広場で対峙していた。


 観戦するために生徒たちが見に来ている。

 俺もその一人だ。

 クリキチも隣にいる。


「はい。桜雅さん。フランクフルトっす」


「おう、気が利くな。お代だ。ほれ」


「別に良いのに。まぁ受け取るっすけど」


 なんて二人でやり取りしつつ、待つ。

 ていうか凄いな。


 エリーゼが戦うと人が集まるからって、料理研究会が屋台をだしてやがる。

 このフランクフルトもそこの模擬店で売っているものだ。


「お、二人が出てきたぞ」


 エリーゼは制服じゃなくて綺麗なバトルドレスを着ている。

 対する大和は学校指定のジャージ上下だった。


「エリーゼ様! 頑張れー」


「しっかりー。お姫様ぁ」


「ジャージ男! しっかりやれよー」


「頑張れー。大和」


 などと応援が飛び交う。

 エリーゼが不敵に笑う。


「逃げずによく来たわね!」


「ふん。逃げても追いかけてくるだろ。とっととやるぞ。俺はこれから花壇の手入れがあるんだよ」


 大和は面倒くさそうに言って、腕に着いた端末を起動させる。


「そうね。存分に戦いましょう!」


 エリーゼも端末を起動させた。


 これこそが現代魔法における決闘の必需品。【決闘の腕輪デュエル・ドライバー】と呼ばれるデバイス。


『デュエルモード! ルールチェック・ソウルバトル! フィールドチェック・スタンダード! マジックテリトリー・オープン!』


 電子音声が鳴って、決闘領域が展開される。

 対戦者たち以外が割って入れないようにする結界が広場に広がった。


『デュエルアバター・スタンバイ!』


 二人の姿を衣服に至るまで忠実に再現した、【決闘人形デュエルアバター】と呼ばれるモノが出現。

 これは対象者の肉体を寸分違わずコピーした人形である。決闘領域内のみでしか生成できない特別な代物でもある。


『ボディ・アウト。ソウル・イン!』


 フィールドにいる大和とエリーゼの肉体が、別領域に隔離される。

 そして二人の魂魄が人形に宿る。

 これで死ぬリスクが回避されて、存分に戦える状態となる。


 エリーゼは左手をかざす。


「はあああっ!!」


 火属性の魔力を使用して火炎の剣を作り出した。

 燃え盛る炎が大和を炙る。

 対する大和も左手をかざす。


「来い! 【紅蓮王ぐれんおう】!!」


 彼の呼びかけに応じて、虚空から日本刀が引き出される。

 これこそ大和が持つ愛刀だ。


 それを腰に差して、刀を引き抜く。

 轟! と音が鳴って刃が紅く燃え上がった。


 火炎VS紅蓮

 ビリビリと熱波と魔力の波動がこちらまで来る。


「うぉおおおお。来たぁ!」


 俺は人知れず興奮した。

 この臨場感。


 主人公対ヒロイン。


 これこそ俺が夢見た学ストの世界だ。

 青白い光を纏った、審判精霊が出現する。


『プレイヤースタンバイ!!』


 精霊が高らかにアナウンスして、エリーゼは剣を担ぐように構える。

 大和は正眼に構えて対峙してた。


『マジックバトル! レディィィィィィ・ゴォォォ!!』


 試合開始の合図と共に、二人は駆け出すのだった。



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現在エロゲーで言うところの共通ルートでのイベント中。


Q:桜雅さんは好きなエロゲーなのになんでセリフがうろ覚えなの?

A:周回プレイ時はCtrlキー押してセリフスキップしてたから。(エロゲープレイあるある)


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