第6話 学スト主人公「龍胆大和」

 俺が所属するクラスは二年一組。


「スゲーよな。エリーゼ姫が二十連勝だってよ!」


「やっべー。めっちゃくちゃ強いよな」


「まだランクインしてねぇけど、ミドルランクは固いだろ」


「いやいや、ハイランクはあるって」


 などなど、口々に話す声はエリーゼの話題で持ちきりだ。

 流石、「強さ=学園での地位」が確立された学校である。

 強ければそれだけ評価される。


 俺はその喧騒を聞きながら、席の後ろで授業開始まで大人しく過ごす。

 ちなみにクリキチも同じクラスだが、彼女は今、別の友達と談笑していた。


 そんな光景を含め、背景のモブでしかなかった人々が、ここでは生きている。

 それだけでも俺は感動してしまう。


「まーったく。朝っぱらからよくやるよなぁ。薫瑠」


 そんな喧騒に混じって、とある男の声がした。

 無造作だがサマになっている黒髪。中肉中背。整った顔立ち。

 着崩した制服がいかにも主人公といった雰囲気が出る。


 彼こそ、学ストの主人公「龍胆りんどう大和やまと」その人である。


 ちなみに声は、ゲームでは付かなかったのだが、アニメ版の声とそっくりだ。

 あのアニメ、原作をカットしすぎてクソアニメだったけど、オープニングだけは最高に格好良かったんだよなぁ。


 おっと、話が脱線した。

 俺は意識を彼と、とある少年の会話に向けた。


「あははは。でも戦う姿は流石お姫様だよね。綺麗で魅入っちゃうよ」


 龍胆大和と会話しているのはこのゲームの攻略ヒロインの一角。

 名前を「早乙女さおとめ薫瑠かおる」という。

 

 細身の体格に、美人な顔立ち。そして長髪を結んだ姿から女性のように見える。

 だが、男だ。


 ファンが付けたあだ名は「性別:薫瑠」「性癖クラッシャー」「最強の幼馴染系ヒロイン」である。

 エロゲーなのに男が攻略ヒロインとはこれ如何に。


 まぁそれはおいおい語るとして。

 彼らは幼馴染であり、気心が知れた仲。


 ゲームでは大和の相棒であり、親友として一緒に行動していた。

 この世界でも、クラスでよく話しているのを見かける。


 大和が眉を傾げて言う。


「そうかぁ? 俺はおっかなくてゴメンだよ」


「ふふふ。大和ならそういうだろうね」


 薫瑠はクスクスと笑う。


「でも、戦わないの? キミならお姫様に勝てるでしょ?」


 彼の言葉に大和は顔をしかめた。


「やだよ。お前、俺が戦い嫌いって知ってるだろーに。俺は戦うより、花を愛でたい男なんだ」


「あーあ残念。大和が本気出せばあっという間にランク上位だろうに」


「俺はランク圏外くらいでも良いの。お前みたいにガツガツしねぇの」


 ふと、大和は言った。


「そういや、お前はもうすぐハイランクに上がるんだっけか」


「うん。あと一勝。ここまで来るのに一年経っちゃったよ」


「いやいや、十分スゲーだろ」


 その会話を聞いて、俺はウンウンと心の中で頷いた。

 いや、実際凄いと思う。


 この学園、戦闘の強さをランキング形式で表して、生徒たちを競い合わせている。

 そもそもここは、世界で活躍できる魔法士を育成する高校である。

 だから、積極的に戦う事を推奨しているというブッ飛んだ設定だ。


 この体が記憶している情報と俺の知識を合わせると、学園ランキングはいくつかのランク帯に分かれており、上位ランクに上がるのはかなり難しい。

 格上の相手と戦い続けでもしないと、上位ランクに一年では上がれないだろう。


 かくいう、俺こと鬼崎桜雅の学園ランキングでの位置は、ミドルランク帯の下位。順位で言えば280位だ。

 全部で500人くらいの生徒が在籍しているらしいから、半分よりも下のランクってことだな。


 ゲームではこのランクを上げていく事で、ヒロインのイベントが解放される仕組みになっていた。

 ちなみに主人公である大和のランクはボトムランク帯で順位は500位。

 そう、ぶっちぎりの最下位。


 そういうランクに興味が無いところが、主人公たる所以と言ったところだ。

 この熱の入らない冷めた系のキャラ設定こそ、往年のラノベ主人公を想わせて、懐かしさが込み上げてくる。


 学ストは大和がヒロインたちや仲間、そして強敵と出会って熱を帯びていき、学園の頂点、すなわち最強を目指す物語なのだ。


 その中で俺は、彼を引き立てる役回りを全うする。

 イイね。物語の登場人物になって参加できるなんて、最高の転生ライフと言えるだろう。


 さて、俺が学ストに思いを馳せていても、物語は進む。

 ドカドカと足音がして、教室の扉が勢いよく開いた。


「あ、いたいた!」


 入ってきたのは我がクラスメイトであるエリーゼだった。

 その後ろから帯剣している赤髪の女子が入ってくる。


 キリっとした顔立ち、スレンダーな体型、赤い瞳が印象的な少女。

 彼女も攻略ヒロインの一人だ。

 名前は「ライラ・ローランド」という。


 エリーゼの付き人にして、彼女を守る騎士。

 ファンからの二つ名は「ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ」「パワー系ヒロイン」「胃袋の女体化」である。


 エリーゼは大和を見つけるなり、駆け寄って言った。


「聞いたわよ。龍胆大和! 貴方、ランク最下位のくせに、強いんですって?」


「誰から聞いた。そんないい加減な噂」


「そこの彼から」


 彼女が手で示したのは薫瑠だった。


「おーい、薫瑠さーん?」


「いやぁ、ちょっと口が滑っちゃって」


 まったく悪びれもせず、薫瑠は笑って言う。


「なんでも中学生の頃はブイブイいわせていたって話ね!」


「止めてくれ。それは黒歴史であり、若気の至り。場合によっては心が死ぬから止めてくれ」


 エリーゼの言う通り、大和は中学生の頃、ぶっちゃけグレてケンカに明け暮れていた。

 まぁその時に、酷く痛い目に遭って、冷めた性格になったわけだが。


「イイじゃない。貴方の強さに興味があるの! というわけで、今日の放課後に決闘よ!」


 彼女は制服のワッペンを外して地面に叩きつける。

 これぞ天空学園の決闘の申し込み。


「お断りします!」


 大和はプイっとそっぽを向いた。

 そうそう。物語最初期の彼ならそういう態度になるよな。


 さてと、ここからが俺の出番。

 鬼崎桜雅。物語に出ます!


-----------------------------------------

学ストのゲーム主人公がやっと登場。



読んでいただき、ありがとうございます。

よろしければ応援、★評価、感想などいただけましたら幸いです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る