第5話 粟吉春香というヒロイン

 行動を開始してから俺は予定通り、エリーゼに張り付いていた。

 そして現在、彼女と挑戦者の戦いを観戦していた。


 実はこの天空学校には、決闘制度がある。


 魔法が世に知れ渡って八十年。

 魔法技術が科学と同等に発展した現代。

 個人の戦闘力が飛躍的に増大して、かなり物騒な世界なのだ。


 なにせ小学生が、何もないところから火を出して人を殺せる。

 当然、法律で魔法の使用は厳しく制限されているが、自分の身は自分で守る事が推奨されている。


 というわけで、この天空学園では決闘制度とランキング制度を用いて、生徒たちが鍛えて腕を競い合っている。


 さて現在、エリーゼと学園ランク200位の生徒がルールに則り、決闘魔法が作り出した空間で戦っている。

 俺はその空間の外で、空中に浮かぶモニターを見ていた。


 すでに戦いが始まってから暫く経ち、そろそろ決着がつきそうだ。

 なにせ挑戦者がフラフラで立ち上がれないのだ。


「これで私の勝ちよ! 【三重の閃光トライ・レーザー】!!」


 エリーゼが周囲に魔法陣を展開して、火・風・雷属性の魔法光線を放つ。

 放たれた光線は一直線に挑戦者へと向かい着弾。


「ぐあああああああああ」


 挑戦者は爆散した。


『BATTLE・OVER BATTLE・OVER Winner・エリーゼ!』


 審判精霊が宣言してバトルが終了する。

 展開していたバトルフィールドが収束する。


 戦っていた二人が通常の空間に戻って来た。

 エリーゼは堂々と立っている。

 爆散した挑戦者は、五体無事の状態だが白目向いて気絶していた。


 デュエルアバターと呼ばれる戦闘人形で戦い、実際の肉体にダメージが行かない、ソウルバトルモードでの決闘だ。

 現実で見ると凄い現象だ。


「やったー! これで二十連勝!!」


 エリーゼはガッツポーズで喜ぶ。

 俺を含めて観戦していた生徒たちは、盛大な拍手を送った。


「さぁ、次は誰かしら?」


 彼女は順番待ちしている列に向かって挑発した。


「ははは。すげーな。やっぱ」


 俺は笑って呟く。

 流石はセンターヒロイン。その力は計り知れない。


「そうっすかぁ? 確かに凄いけど、アタシにはよくわかりませんねぇ」


 隣のクリキチがジト目でエリーゼを見ている。


 クリっとした目、手入れされていない栗色の髪、タヌキを思わせる顔、制服からでも分かるほどの巨乳。

 お洒落とは無縁のこの少女の名前は、粟吉あわよし春香はるか。通称:クリキチ。


 攻略ヒロインであり、桜雅さんの子分だ。

 学年は二年生。桜雅さんとは中学からの知り合い。


 とまぁそんな設定なのだが、このキャラクター、何を隠そう俺の最推しだ。

 粟吉春香は、中学生の頃に桜雅さんに助けられて以来、彼に恋して一途に追いかけて、この天空学園に入学。


 桜雅さんが悪役ムーブするその横で、彼を一生懸命に支える姿が印象的なヒロインだ。

 ファンが付けた二つ名は「子犬系三下ヒロイン」「桜雅の嫁」「何でもするヒロイン」である。


 クリキチルートで、彼女が主人公を選び、桜雅さんを刺し殺した時のシーンはもう涙なしには語れない。

 あのシーン、なんどもプレイしても泣けるんだよなぁ。

 主人公が桜雅さんをボコボコにして、クリキチが泣きながらトドメを刺すのだ。

 うう、思い出して泣けてきた。


「なんで、泣いてるんすか!?」


 クリキチがあわあわと慌てる。


「すまねぇ。クリキチ。俺を刺し殺す予定があるなら、涙は見せるんじゃあねーぞ」


「なんで刺殺!? つーか桜雅さん。最近、情緒不安定っすね」


 さもありなん。学ストの世界を堪能して、ちょっと色々とキてる。


「それで、あのお姫さんに桜雅さんは惚れたんすか?」


 おっと、クリキチさん探りを入れてきましたねぇ。

 そうそう。この子、桜雅さんが他の女に現を抜かすと、ちょっと嫉妬するんだよなぁ。可愛い。


「だーれが惚れるかよ。ほら、チャイムが鳴る。行くぞ」


 俺は立ち上がって教室に向かう。


「そういや授業、真面目に出てるんっすね。何かありました?」


 彼女が不思議そうに聞いてくる。

 まぁ記憶を探ると、どうも一年生の頃は授業をサボりがちだったみたいだしな。


「ちょっと心境の変化があってな。真面目に勉強したら楽しいぞ」


「ええ……。アタシの知る桜雅さんじゃない。変なモノ食べました?」


「うるせーよ。俺だって成長してるんだよ。乳揉むぞコラ」


「うぇ! そ、それは、心の準備がいるんで、今はやめて欲しいっす」


 そっかぁ。準備できたらいいんだぁ。

 さすが何でもするヒロインだ。好きな人のいう事は大体受け入れる。ルートによっては人間すら辞める女はやはり格が違う。


 今すぐにでも、彼女の巨乳を揉みしだいてやりたい衝動が来るが、状況によっては俺が死ぬから冗談で留めておく。


「冗談だ。ほら遅刻するぞ」


「遅刻しない桜雅さんは、桜雅さんじゃないような。う~ん」


 などと言い合いつつ、教室に向かった。


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学ストの世界は結構、物騒。

ちなみに、全校生徒は500名程度です。


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