第3話 そして物語は始まる
トイレから出た俺は、最初のイベントが起きる体育館に向かった。
実は今日、この天空学園にとある国のお姫様が留学してくる。
その歓迎の式典が体育館で執り行われるのだ。
お姫様の名前は、エリーゼ・ミルファリナス。
攻略ヒロイン筆頭。いわゆるパッケージのセンターを飾るヒロインだ。
そのお姫様がこれから始まる集会で、騒動を起こし、物語がスタートするのだが……。
「急いで体育館に向かいたいんだが、ヤバい。聖地巡礼過ぎて、いちいち足が止まっちまう」
だって、アレとかソレとか、アッチとかソッチとか。
ゲームのCGで見た光景が広がっているんだぜ。
「まるでテーマパークに来たみたいだ」
とはいえ物語の始まりを見逃すのは、学ストファンとしてやってはいけない事だ。
後ろ髪を引かれる思いで、振り切った。
「後で絶対に写真撮りに来よう」
そんな事をつぶやきながら、俺は体育館に行くためのとある装置前に来ていた。
「おお! 紛う事なき転移装置!! うわー本物だ」
俺は興奮して叫ぶ。
この天空学園は読んで字のごとく、空に浮いている。
設定では、大小様々な空飛ぶ島に校舎や学校施設があり、それをこの転移装置で繋いでいるとの事だ。
まさに現代ファンタジーとして、相応しい舞台になっている。
「というわけでさっそく。いざ体育館島にジャンプ!」
若干の浮遊感のあと、デカい体育館が目の間に合った。
「ああ、体育館だ。作中に出てくる体育館だ」
感極まって泣けてきた。
めちゃくちゃ怪しい人になってるが、構うものか。
元々この桜雅さんは変なキャラだからな。
「ゴラァ! 鬼咲ぃ!! さっさと入らんかぁ!!」
タンクトップ姿の筋肉ムキムキ男性教師が、俺に向かってやって来た。
あ、あれは!
「ご、ゴリTぃ! うわーん。す、すまねぇ。ちょっと、感情の堰が決壊しちまった。すぐ行く。すぐ行くから、待ってくれぇ」
サブキャラとはいえ物語の登場人物に会えて、涙腺が崩壊した。
クリキチの時は戸惑いが勝っていたから、大丈夫だったけど。
アカン。俺の大好きな世界がここにある。
「お、お、おう。は、早く入れよ」
ドン引きされたが、仕方ない。
俺は涙をぬぐって体育館に入るのだった。
■□■□
『……以上、私からの歓迎の挨拶とします』
学園長の話が終わる。
俺が学生の頃は校長や先生の話なんて、まーったく聞いてなかったが、この世界の人の話なら、いくらでも聞けるなぁ。
学園長が席に戻り、司会が告げる。
『えー続きまして、本学園の留学生ラムゲーティア国王女、エリーゼ・ミルファリナス姫からご挨拶です』
きたぁー!!
バトルジャンキーヒロインの登場だぁーっ!
俺は内心でファンファーレを鳴らす。
エリーゼは堂々とした歩みで登壇した。
たなびく白金の髪。
意志の強そうな碧い目。
白く透き通るような肌。
そして美しい巨乳。
「ああ……」
俺は言葉を失った。
画面越しに見たヒロインがいる。
生きてる。
歩いてる。
俺は今、学ストの世界にいるんだ。
俺が心奪われているのと同じく、彼女を見つめる他の生徒達は、高貴なオーラに圧倒される者、美しさに心奪われる者、様々な反応だった。
エリーゼが一礼して口を開く。
『天空学園の皆様。はじめまして、ラムゲーティアから来たエリーゼ・ミルファリナスです』
流暢な日本語で挨拶をする。
鈴の鳴るような可愛らしい声。
ゲームのままだ。
俺は感動に打ち震えた。
ちなみに、ラムゲーティアってどこの国だよとツッコミがあるかもしれない。
この国はこの学ストに出てくる架空の国だ。
ゲームの設定集によれば、西欧に位置し、建国は五百年前という国である。
このゲームの生活基盤である魔法技術が高水準で、魔法大国の日本とも友好関係にある。
彼女は話を続ける。
『この学園で皆様と学べることを嬉しく思います。学年は二年生です。二年生の皆様、仲良くしましょう。一年生の皆様、私も学園生活は初めてです。お互いに頑張っていきましょう。そして、三年生の皆様、至らぬことが多々あると思いますが、よろしく御指導下さい』
ニッコリと微笑む。
高貴なオーラが増した気がした。
『そして、互いに切磋琢磨して両国の発展に貢献しましょう。どうぞ、よろしくお願いします』
深々と一礼した。
拍手が起こる。
俺も力強く拍手した。
これで話は終わり。
そう誰もが思っているだろう。
でも違う。
ここからが、このバトルジャンキーヒロインの真骨頂。
彼女は再び口を開く。
『さて、私にはもう一つこの留学中にやることがあるの!』
不敵に笑って俺たちを見た。
会場の生徒たちも教師たちも疑問顔だ。
『それは、この留学中に私の生涯の伴侶を探すこと!』
爆弾発言。会場を満たしていた疑問符が感嘆符に変わる。
更に、彼女は燃料を投下する。
『その選定方法は、私との決闘。私は強い人が好きなの。だから私は、私に勝利した男を夫にするわ!!』
ああ! これこれ!!
この宣言と共に学ストの物語は始まるのだ。
俺は感動で打ち震えていた。
他のみんなは呆気に取られていた。
『もちろん、女性の挑戦も受けるわ。その場合、私に勝ったら出来る限りの報奨を授与するわ』
そして、不敵に笑う。
『簡単に負けるつもりはないから覚悟しなさい!』
壇上のマイクを勢いよく取り、宣言した。
『さぁ! 腕に自信がある学園のみんな。勝負よ! 私はこの天空学園の生徒全員をブッ倒す!!』
マイクを戻して、一礼。
『以上、私から皆様への挨拶でした』
颯爽と舞台から降りる。
生徒たちは口々に騒ぎ出した。
『は、はい! 静かにする』
司会の教師が注意を促すが無理だろう。
さぁ、楽しみになって来た。
俺はこれから待ち受けるワクワクに心躍らせるのだった。
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私より強い奴に会いに来た。
それが彼女の留学理由。
ゲーム本編も開始です。
読んでいただき、ありがとうございます。
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