第4話
オルタデルタカンパニー所属総合娯楽開発部、部長。
アロマが送信した一通のメッセージは地球に大きな影響を及ぼす事となった。
当然だが宇宙人から情報を渡される、手紙を送られるというのは世紀の出来事であるし、それが地球人が宇宙という大海に流したボイジャーのゴールデンレコードの存在を示唆しているのだから猶更だろう。
何より、そのメッセージは日本語で書かれているところからも察せられるが、この宇宙人はどうやら日本語の事を既に利用出来る段階まで解析しているようだ。
そのアルゴリズムを理解するにはあまりにも短い内容しかその黄金の円盤には記されていなかった筈なのにも拘らず日本語でメッセージを送れるという事は、恐らくこの宇宙人は一方的に日本ないし地球の情報網に対して何らかのアクションを行っているのだろう。
今のところ、宇宙からそのような事を行ってかつそれを悟られないようにする手段を地球人は持たない。
少なくとも表面的にはそうなっている。
だからこそ、情報媒体でその宇宙人からのメッセージが日本語で送られてきたという情報が広まった時、世界中は小さなパニック――恐慌状態に陥った。
宇宙人が攻めてくる。
それはそれこそアメリカ映画ではもはや古臭さすら感じるほど昔からある設定の出来事だが、実際に起きたのは当然これが初めてだ。
なまじ、そのようなフィクションを楽しんできた者だからこそ、その恐怖をより一層感じてしまったのかもしれない。
あるいは、宇宙人と良い感じになるといういわゆる「地球舐めんな系ファンタジー」を楽しんでいた人々ですら、今回の一件については流石に口を噤んだ。
宇宙人と仲良くなろうだなんて言える状況ではないし、そんな事を口にする事は自分がバカであると吐露しているようなものだ。
……まあ、そういう人間も一部いるのだが、それはさておき。
様々な場所でその宇宙人についての事が議論された。
公共の場で行政の者達が。
ニュースでコメンテイターが。
匿名掲示板でも当然行われている。
それでも、宇宙人は今のところ姿を現してはおらずあくまで文面で友好的なメッセージを送って来ただけなので、恐慌状態であると言ってもまだまだ余裕があった。
だがしかし、次に送られてきたメッセージで社会は一瞬の沈黙を強いられる事となる。
『来月○日正午、地球日本の成田国際空港を利用する事をお許しください』
利用。
着陸ではなく、利用。
それは一体どのような意味なのだろうか?
……そもそもメッセージは一方的に送られてきていて地球側からは一切返信する事が出来ていない。
で、ある以上黙ってそれを受け入れるしかない。
国際世論は、すべての責任は日本にあると丸投げした。
それはつまり「もし何かがあれば自分達は日本をトカゲの尻尾切りのように切り捨てる」とでも言いたげだし、実際その通りなのだろう。
そもそもメッセージが日本語で送られてきた時点で既に世論はそのように傾いていたし、そして日本の国民達はみな一様にして行政の動向を見守った。
いつもは行政を非難している者達ですらもはや行政に祈りを送る始末。
頼むから変な事だけはしないでおくれ、と。
そして、遂に○日正午は訪れる事となる。
メッセージには具体的に成田国際空港の滑走路を一部利用すると書かれていた。
とはいえ滑走路のどこら辺を用いるのかはまるで分からなかったので、仕方がなく行政に携わる重要人物達、それこそ大臣達は空港の外でハラハラ胃を痛めながらその時がやって来るのを待っていた。
……一体、どこからやって来る?
いや、そもそもどのような手段で?
やはりスペースシャトルのようなモノなのだろうか?
そのようにみなは思っていたから、その場にいる者のほとんどが空を見上げてドキドキ胸を鳴らしていた。
特に高齢の者が多かったので中には表情を青くしてぶっ倒れそうになっている者もいた。
そして、正午。
……その時は、やって来る。
じ、ジジ――
最初に聞こえてきたのは、ノイズだった。
神経を逆なでするような不快な音を耳にした者は当然「ついにやって来るのか」と表情を固める。
音の発生源を探すが、しかしそれはどうも前方の草原の方にあるような気がした。
しかし、そこには音が鳴るようなモノはどこにも見当たらない、が……
ジジ、ジッ!!!!
そして次の瞬間、そこに「いきなり」一人の女性が現れた。
そう、幽霊のように唐突に姿を「ぱっ」と現したのだ。
真っ白だが角度によっては違う色に見える不思議な光彩を放つボブカット。
瞳の色は、黄金にも翠にも見える。
東洋の黄色人のようにも、西洋の白人にも、当然黒人のようにも見えない顔立ち。
間違いなく地球の知的生命体「人間」とは全く異なる場所から進化した生命体。
――宇宙人。
「初めまして」
その女性はにこりと柔和な笑顔を浮かべて挨拶をして来る。
「私の名前はアロマ。オルタデルタカンパニー所属総合娯楽開発部という部署の責任者を務めている者です。どうぞよろしく」
極めて平和的な挨拶だったが、何故だろう。
どうしようもない程の不安をそこにいる皆は感じざるを得なかった。
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