第7話 遭遇
「こちらがあなた方の取り分になります」
翌日になり、ルノはきちんと金を持ってやってきた。この国でのお金の単位はフィロといい、今回クリファは3,000フィロを受け取っていた。
大体、一食は節約して100フィロ程度で済ませることができる。つまり30回分の食事と同程度がたった一度で手に入れることができたのだ。
この程度大人になれば働いてすぐに稼ぐことができるが、孤児である俺たちにとっては大金だ。
「こんなに稼げるのか」
「今回は運よく
「おお」
大金を前にして浮かれていくのが分かる。そんな彼らを俺は冷めた目で見ていた。そんなうまい話があるのだろうかと。
「次はいつ行きますか」
「今日はどうだ」
「そうですね。一応準備は済ませているのでこのままいくこともできますよ」
「それじゃあ、行こうぜ」
今日も行くことになってしまいそうだ。なぜ、なぜ、なぜ。ルノと出会った時から疑念は深まるばかりである。
それに確かに昨日は安全だった。それでも今日もそれで大丈夫というわけではないはずだ。それをこんなすぐに決めてしまうのは危険と思わずにはいられない。
ルノはなぜこんなことをしているのだろうか。こんなことをしても自分が損をするだけではないか。それとも俺が気づいていないだけで彼女にも何かの利があるのだろうか。
俺がそう考えている間に今日もダンジョンに行くことが決まってしまった。今回はカラルも止めたりはしなかった。あいつも金の魔力に魅了されてしまったのだろうか。
当然俺もついていかなければならない。自分の毛布の下から短剣を取り出して腰にさした。
他のメンバーも同じように意味のあるのかわからないような武器を持ち、ルノに続いてダンジョンへと向かっていった。
穴へは前回と同じく俺から入っていくことになった。前と同じランタンをもって慎重に進んでいく。今度は途中で声をかけられることはなかった。
穴の終わりまで来てから、慎重に気配を探る。音は何もせず、人がいるような感じはしなかった。
「おい、はやくしろよ」
「うん」
後ろから来たクリファに追いつかれてしまった。2度目で慣れが出たのか、すぐについてきていたらしい。これは危ない。昨日は最低限持ち合わせていた危機感がなくなってしまっている。
穴から出てからランタンの灯を消す。他のメンバーが出てくるのを待っている間が一番怖い。クリファがいるとはいえ、ルノがいない場合満足に戦えるのかがわからないからだ。
「今回はこちらに行きましょうか」
「そうだな。向こうは昨日見ちゃったしな」
ルノが示した方向は昨日とは反対方向であった。
またルノを先頭にしてダンジョンの中を進んでいく。俺は一番後ろ側を歩くことになった。
進みだすと、緩んでいた空気は少し引き締まってくる。ここまで来ると暗いことも相まって緊張しだすのだろう。
どれくらい進んでいるのかはわからない。それを知ることの出来る物を持っているのも、マップを持っているのもルノで、俺たちはそれを見せてもらえてはいない。
こちら側の道は入り乱れていた。すでに右や左に何度も曲がりひとりではあの穴のところに戻ることはできないだろう。
それも俺を不安にさせる要因だった。命を完全に握られている気分がして気持ちが悪い。
「おい。ほんとうにこっちでいいのか」
「はい。こちらの方に至装が良く見つかるポイントがあるんです」
「それならいいけどよ」
さすがに不安を覚えたのかクリファが質問をした。至装が見つかりやすいポイントなんてものがあるのか。少し考えてからそれは小部屋のことかと思う。
今まで歩いて道は続いてはいるが、昨日宝箱を見つけたような小部屋はまだ見ていないからだ。
「あ? 何でガキがこんなとこにいるんだよ」
曲がった道の先にいたのは探索者であった。数は4人でパーティを組んでいたのだろう。頭の中に死刑という文字が浮かんでくる。
「あ、ああ」
「皆さん。すぐに後ろに向かって走っていってください! ここは私が何とかします」
「「「わああああああ」」」
ルノのその言葉を聞いた瞬間皆がすぐに振り返り、来た道を駆けだした。もちろん俺もすぐに逃げ出した。
「あ、おい!」
「ここは通しませんよ」
「邪魔してんじゃねえ」
後ろから言い争いが聞こえてくるが気にしている余裕はない。とにかく走る。どの順番で曲がるのが正しいのかは分からなかったためとにかく、他のメンバーの動きに合わせることに集中をした。
一番足が速いのはクリファであった。彼は一番に逃げ出した俺を抜かして今は先頭で走っている。俺が右と思った道でも彼が左に曲がってしまえば、はぐれないために俺も左に行くしかなかった。
「わっ」
曲がった先にいたクリファの背中にぶつかった。逃げ出しはせずにクリファはその場で立ち止まっていた。
いやな気がしながらも前を見る。そこには2メートルは超えるであろう巨体で二本足の狼のようなやつがいた。
きっとワーウルフという奴だろう。俺たちはそれを唖然としながら見つめていた。
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