第6話 ダンジョン

 ルノを先頭にして俺たちはダンジョンの中を進む。部屋に置いてあった荷物はルノが背負っていて俺たちは何も持っていない。少なくとも荷物持ちにするつもりではなかったらしい。


 ダンジョンの壁は薄い光を放っている。そのおかげで夜目の利かない人間でもギリギリ行動することができるようになっている。


「暗いな」

「わっ」

「おい気をつけろよ」

「ご、ごめん」


 それでも慣れていない者には厳しい。暗さになれずにトコルは躓き、前にいたカラルの背に掴みかかってしまっている。


 本当ならば慎重に進んでいきたいところだが、先頭にいるルノは俺たちのペースを気にせずにどんどん先に進んでいってしまう。


 全身を至装デウスウェアで固めている彼女とでは心持ちから何もかもが違うのだろう。


 俺の持っているのは一つのぼろい短剣だけで、防御だって心もとない。


 今のところ一本道を進むだけで、まだ魔物にすらあっていない。ここは本当にダンジョンなのだろうか。もしかしたら騙されているのかもしれないという思いが出てくる。


 先頭を進むルノは何も話はしない。そのせいで他のメンバーの中でも少し空気が重くなっている。


 やがて、一つの小部屋が現れた。ルノはその中に躊躇せずに入っていってしまったため、俺たちもついていくしかない。


 その部屋には中央に宝箱が設置されていた。ダンジョンの中のことまでは詳しく知らなかったのだが、こんなのが設置されているものなのか。


「宝箱だ」

「待ってください」


 急いでその宝箱に飛びつこうとしたトコルはルノに止められる。


「なんだよ。まさかいまさら俺たちに宝は渡せないとかいうんじゃねえだろうな」

「そんなつもりはありません。ただ、こういった宝箱には大抵罠が仕掛けられていますので注意してください」

「罠ァ!」


 罠があると聞いてトコルはすぐさま飛びのいた。どうするつもりだ。俺たちに罠を解除する術などあるわけがない。これもルノがどうにかできるのだろうか。


「安心してください。私は簡単な物なら解除することができますから」

「それなら頼む」

「任せてください」


 力こぶを見せるような仕草をした後、ルノは宝箱の前にしゃがみこみ何かをしだした。ここまででなぜ俺たちのことを誘ったのか余計に分からなくなった。


 例えばこういった宝箱の罠が開けられないのであれば、罠解除のための生贄として使うつもりだったのかもしれない。でも彼女は一人でそれもできている。


 魔物と対峙した時の為かとも思ったが、ルノの装備は十分で俺たちは必要ないだろう。囮として使いたいのだとしてもこんなに人数はいらない。


「開きました」

「おお」

「何か入ってるぞ」


 少し遠めに中を見れば宝箱の中には一つのイヤーカフが入っていた。おそらく至装だろう。


「これはランクはなんだ」

「それは地上に戻り魔術師たちに聞かないとわからないです」

「それでも至装には変わらないんだ!」


 魔術師とはどんな存在なのか俺もよくわかっていない。ただ、想像する火の玉を飛ばしたりするような魔法を使うような奴らではないらしい。


 至装をもっていけばランクの測定とかをやってくれたり、あとはポーションなどの作成も魔術師がやっているというのは聞いたことがある。


「今日のところはひとまず帰りましょうか」

「えー。まだ来たばかりじゃないか」

「いえ。日がないので勘違いしてしまいそうですが、すでにかなりの時間がたっています。ここで野営をする準備もしてきていませんし今日のところはやめておいた方がいいでしょう」


 そこで線香のようなものを取り出した。先端は燃えている。これの燃焼時間で時を測っていたのだろう。そう思えば確かに疲れは出始めている。


「そうだな。とりあえずもう帰ろう」


 リーダーであるクリファが賛成したことから今回の探索は終わりになった。一つだけの至装。これはどうするつもりなのだろうか。貢献度で言えば今回俺たちは何もしていない。ルノがもらうのが筋だろう。


 しかし、それではこいつらは満足しないだろう。だが、売るにしても俺たちにはつてがない。もらってもたった一つの至装をめぐって争いが起きるのは目に見えていた。


 きた道を帰る。一本道で横にそれることもない。目の前から魔物などが来ないか気を付けながら進んでいく。


「グウウウ」


 後ろの方からうなり声が聞こえてきた。思わず腰から短剣を引き抜いて構える。構え方もこれで正しいのかなんて知らない。ただ柄を握って前に向けるだけだ。


 聞えたのは俺だけではなかったらしい。他のメンバーも後ろを振り返っている。


 薄明りの奥から現れたのは、犬のような顔をした人型の魔物であった。その手には剣を持っていて数は三体いる。


「コボルトですね」

「大丈夫なのか」

「はい。ここは私が相手しましょう」


 先頭を歩いていたルノが後ろに来て剣を抜いた。剣を構える姿は様になっていて、かっこいいと思った。


 コボルトの持っているものは至装なのだろうか。だとすれば追加で三つは手に入るのではないか。


「フッ」


 ルノが駆け出し、コボルトに向かって剣をふるう。それだけでコボルトは真っ二つになってしまった。あっけない。あの剣のランクは何だろう。


 残りの二体もあっけなくルノが倒してしまい俺たちの出番はなかった。


 死んだコボルトを見ると、突然死体が分解されていく。


「えっ。体が……」

「おい、武器も消えちまうぞ」

「これがダンジョンの魔物です。その体は死ねば消えてしまう。あの武器も魔物の一部と認識されているのでしょう。一緒に消えていってしまうのです」


 死体のあった場所には石だけが残っていた、少し光っているように見えるそれは綺麗だった。


「これは魔石と呼ぶもので、これが魔物が動くためのエネルギーになっているのです。魔物は倒されると基本的にこの魔石を落とします。それから稀にですが魔物もダンジョン内にある至装を拾って装備しているときがあるのです。その時は魔石の他にその至装も一緒に落としたりもしますよ」

「その魔石は売れるのか」

「売れます。ただ、この大きさならそこまでの値段にはなりませんね」


 こうして俺の初めての魔物との遭遇はあっけなく終わった。そのあとも来た道を戻っていくが魔物や探索者に出会うことはなかった。


 穴をくぐるときは今度は俺が最後であった。そのことは不満に思いながら、他のメンバーが行くのをできるだけ、体を縮めて魔物に見つからないようにしながら待った。


 結局今回の探索で俺たちはなんの役にも立たなかった。魔物も結局ルノが一人で相手をしていた。果たしてなぜ俺たちを誘ったのだろうか。


 これでは自分の取り分が減るだけだ。それとも慈善活動の一環とでもいうつもりなのだろうか。


 地上に戻った後、当然取り分の話になった。さすがにクリファたちも自分が役に立ってないことはわかっているのか、そこまで強く取り分を要求はしなかった。


 最終的に得た物はすべてルノが売りルノと俺たちで六対四の取り分にすることになった。なぜわざわざ自分の利益を少なくしたのだろうか。


 俺には彼女のことが不安を通り越して怖く思えてきた。

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