第5話 侵入

 翌日になり、日が真上にくるころになりやっとルノはやってきた。


「遅いぞ」

「すみません。少し準備に手間取ってしまって」


 ルノの装備は昨日までとは違う。胸当てや腰当てなどの簡単な装備と、剣を持ってきていた。それはこれからダンジョンに向かう探索者としておかしくない装備であった。


 それに比べて俺たちは……。いつもと変わらない服にそれぞれが拾った武器を持っているだけだ。その武器だって手入れをしてないし、至装デウスウェアではない普通の装備だ。


「それも至装なのか」

「これですか。そうです。もちろん、これに限らずですが」

「ッ」


 ルノの発言にクリファが息をのむのが分かる。それも仕方がない。クリファは剣を指さして言ったのにそれに限らずと返された。つまり防具もそうなのではないか。


 確かに、こんなものを見せられてしまえば、期待してしまうのも無理はないだろう。


「それでは向かいましょう」


 皆の驚きを無視してルノは進みだす。メンバーの期待が上がっているのが分かる。それに比例するかのように俺の中の不安は大きくなった。


 特に、このルノという少女の存在が不安を大きくしていく。なぜ昨日はあんなにも警戒しなかったのかわからない。もしかしたら何かされていたのかと思ってしまうほどだ。


 腰にある短剣を触れながら最後尾でついていく。






 案内された場所はなんてことない民家であった。


「ほんとにここからダンジョンに入れるのか?」

「はい。誰にも内緒ですよ」


 民家の中には誰もいなかった。奥の方にある部屋にルノが入っていく。俺たちもそのあとに続く。


 そこは家具も置いてない部屋であった。部屋の端には背嚢などの荷物が置いてあった。これはダンジョンに持っていく荷物だろうか。


 床の板をルノがはがし始めた。するとその下からは穴が出てきた。


 穴は小さく大人は通ることはできないだろう。子供でも這わなければ通ることは難しいと思うくらいの大きさだ。


 俺たちはまだ子供な上に栄養不足で体が小さい。それもルノが孤児を頼った理由なのかもしれない。


「この下です。なぜここにダンジョンへの入口ができたかは私も知りません。しかし、この穴の先は確かにダンジョンへとつながっています」

「本当にここを通っていくのか」


 メンバーの中でもとりわけ体の大きなフラントは不安そうにしている。確かに彼の大きさなら途中で止まってしまうかもしれない。


「はい。ここを通り抜けた先はこの街にある第三ダンジョンの二階層になっています」


 この街にはダンジョンが三つある。それぞれ第一、第二、第三と呼ばれていて、難易度の差はそこまでないらしい。ただ、出てくる魔物の種類などの差はあるらしい。


 只、いきなりに二階層というのは少し不安だ。それはクリファも同じだったらしい。


「いきなり二階層になんて出て大丈夫なのか」

「はい。この先には小さな隙間のようなものがあるので、向こう側から魔物がやってくる心配もありません」

「どうする?」

「どうするって行くしかないだろ」


 穴の先に広がる闇に躊躇してしまっている。いやな予感がする。


「おい、レゼお前からだ」


 そうなると思った。ルノも最初に行くつもりはないようで穴からは少し離れた位置に立っている。そうなれば必然、立場の低い俺にお鉢は回ってくるだろう。


「これをどうぞ」

「ありがとう」


 ルノがランタンを渡してくる。これを使って灯りを取れということだろうか。


「向こうに付いたら、まずは辺りの様子を伺ってください。もし魔物がいないようでしたら隙間から外に出て構いません」

「すーはあ」


 深呼吸をしてから穴の中へと入っていく。匍匐前進の姿勢を取らなければ進むことはできない。少しずつランタンを前に動かしながら進んでいく。


 土の中にいるというのは圧迫感がすごく精神的にもきつい。それでもゆっくりと慎重に進んでいく。


「どうだー!」

「大丈夫」


 上からクリファの声が聞こえてきた。俺の安否を聞いているのか穴の安全性を聞いているのかどっちだろうか。


 しばらくそのままゆっくりと進んでいく。日の出ていない場所で時間の感覚はだんだんとなくなっていく。


 どのくらいたっただろうか、やっと穴の先につくことができた。そこまで来ると壁がかすかに発光しているため、明確に差があった。これがダンジョンの壁なのだろう。


 さらに狭い隙間があり、そこから音をよく聞く。何も音は聞こえてこず、魔物の気配はしなかった。注意すべきは魔物と探索者だろう。どちらに見つかっても終わりだ。


 大丈夫と判断して穴から外に出た。その際に目立つランタンの灯は消しておく。正規の探索者ならば問題ないだろうが、そうではない俺たちはいる場所を隠すために必要だろう。


 ランタンを消したダンジョンの中は薄暗かった。それでもギリギリ見えるくらいの明るさはしていた。足元には注意しておかなければいけない。


「レゼ、外は大丈夫なのか」

「うん。今のところ何もいないよ」

「そうか」


 穴の中からクリファの声がしてくる。二番目に来たのか。彼は今、【黒】と【白】の至装を持っている。【白】の方は何に補正が入っているのだろうか。


 そのあとも続々とメンバーが出てきて最後にルノが出てくる。


「さて、みなさん無事にダンジョンに入ることができましたね。それではこれから探索を始めます」

「どこから見るんだ」

「低階層でのマッピングは大体済んでいますので、今回はこちらに行ってみようと思います」


 ルノはダンジョンの地図を持っていた。それに沿って今回進む方向を決めている。こういったことはダンジョンに入る前に済ませておくべきではないのか。


 ルノという少女に対する不信感と不満はたまっていくばかりだ。

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